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十四話 寮

数日後、クラスに分かれて寮に荷物を運ぶこととなった。


担任兼Eクラス寮監はフレイ。俺やサクラ、ハーミットの試験を見ていた試験官だ。


「…………」


隣を歩くサクラは腰に携えた刀に手を置きながらフレイを睨み付けている。


周りを見ると多くの同級生がフレイに敵対的な視線を向けている。


まぁ、俺だって言いたい事があるけど……。


「まぁ、あいつは敵ではないとは思うぞ」


少なくとも、実力で採点するタイプだ。


「分かってますけど……それでも理不尽だと思います」


「まぁ、それは思うな」


俺たちの大半が理不尽な理由でこのクラスに押し込められた訳だからな。


だが、それでも落とされるよりは幾分かマシだ。


「それでも、このクラスの連中は純粋な実力なら他のクラスに負けてない筈だ」


少なくとも、俺の眼にはそう写っている。


俺は人の気配が分かる。


強者であればあるほど、纏っている雰囲気はとても強く重いものとなる。


そして、Eクラス生徒全員が最低でも現時点で『六式』騎士と同程度の実力を持っていると見ている。


騎士が弱い訳ではない。純粋にこいつらが強いのだ。


「それはそうですが……」


「まぁ、色々と言いたい事は分かるけどな」


俺とセレナは同時に後ろを見る。


後ろには巨大な荷物を持ったハーミットと車椅子に乗る仮面を着けた少女がいた。


特に、仮面を着けている少女は全身を黒い喪服のようなドレスに身を包み、両手には黒の長手袋と肌が一切見えない。


「あの人は……凄く身分が高い人だって分かりますけど……誰なんですか?誰とも話してませんけど……」


「第五皇女だろ」


「やっぱり、そうですよね……」


俺とセレナは第五皇女やハーミットに聞かれないよう小声で話す。


第五皇女は極度の人間不信だと聞いていたがあそこまで人を拒絶しているとはな。


「でも、何でEクラスに落とされたのかな?王族ならAクラスにいそうな気がしますけど……」


「確かにな……」


俺の記憶だと他の王族たちは軒並Aクラスに配属されていた筈だ。


流石に分からないともやもやするし……聞いておくか。


俺はサクラから離れ第五皇女の隣に移動する。


それをハーミットは鋭い目付きで睨み付けてくるがそれを無視する。


「なぁ、お姫様。何であんたはEクラスにいるんだ?」


俺は臆す事なく第五皇女に問いかける。


それと同時にざわめきと共に周りから視線が集まる。


流石に他の連中も気になっていたか。ま、Eクラスの大半が低い階級の貴族や平民だし話しかけれなかった、というところか。


「……やはり、気になりますか」


第五皇女は顔を俺の顔の方に向けて尋ねる。


「まぁ、それなりには」


「……他の皇女たちの嫌がらせですよ。王族に産まれた女は政治の道具、己の親に愛されることはない。それなのに、私は何かと気に掛けられてる。それが羨ましいのでしょう」


「そんな現状に不満はないのか?」


「ありませんよ。それなら、貴方はどうなのですか?国王のせいでこの学園に無理矢理押し込められた貴方は」


「さあな。国王サマに対しては思うところがあるのは認めるけど」


それにしても、国王……ねぇ。


本来ならこういう時ってお父様とか言うものだろうけど。


「……自分の父親の事を信じてないのか?」


「ええ。信じておりません」


悪びれもしない言葉に俺は顔をひきつる。


今回ばかりは流石に国王サマに同情するぜ……。何かと気に掛けてる自分の娘に一切信用されていないんだからな。


「国王も、王妃も、王の側近も、他の皇女や皇子も、騎士も、使用人も、私も……私は一切信じておりません。精々、使い易い道具くらいにしか思ってません」


周りも、自分も信じれないほどの極度の不信。ここまでくると異常とも言える。


そう考えると仮面を着けている事も一つ増える。


仮面は他者から見られたくないから、という理由の他に自分に対する無関心である、という事なのかもしれないな。


「寂しい奴だな」


「寂しくて良いのです。信じれるのはハーミットと限られた騎士だけで充分です」


「そうか。さて、俺はこれで失礼させて貰うぜ。……後ろの侍女が恐ろしいしな」


後ろを見ると猟犬のような狂暴な表情でハーミットが威嚇していた。


俺はそそくさと前に戻り元の位置に戻る。


サクラが凄く焦ったような表情で俺の顔を見てくる。


「凄くフランクに話してましたね!?皇女様相手に!皇女様相手に!」


「同じ事を二回言ってるぞ」


「重要な事ですから!緊張しないんですか!?」


「緊張?何故同年代に緊張しなきゃならない」


「……感性が色々と変ですよ」


サクラは頭に手を当てて呆れながら顔を歪める。

そこまで変だろうか……殺せる相手に緊張する方が変だと思うのだが。


それと、周りの視線が妙に生暖かいのは気のせいだろうか。


サクラからの説教を右から左に流していると先頭を歩いていたフレイが足を止める。


「さて、ここがEクラス寮です」


フレイの声に顔をあげる。


「「「「「は?」」」」」」


そして俺も含む全員が同時に声をあげる。


Eクラス寮は校舎等とは打って変わったボロ屋敷そのものだった。


壁の塗料は剥がれ落ち、窓ガラスは殆んどに皹が入り、入り口の両開きの扉も片方が壊れている。


これじゃあスラムの家屋とそう大差ないな。外がこれだし、中の方は期待しない方が良いか。


「一番下のクラスの寮は酷いと聞いてましたがここまで酷いとは」


サクラは苦笑い浮かばせている。


これには俺だってそうしたいが……後ろの侍女の殺気が濃密過ぎて笑えねぇよ。


「……これはどういう事でしょうか」


ハーミットは怒りを必死に堪えて作り笑顔でフレイに尋ねる。


「どういう事も何も、見ての通りです。ここがEクラス寮です。風呂とトイレは共有、大部屋です。他の寮は食堂がありますがこの寮は調理室はありますが食堂はありません。つまり自炊です」


「「「「「「……は?」」」」」」


「ついでにEクラスの制限を伝えます。Eクラスは校内の食堂、授業外の訓練所、資料室、図書室の使用を禁止されます」


「「「「「「……は!?」」」」」」


うわー……どんどんハーミットの殺気が高まってる。


言いたい事は分かる。だからこかは耐え――


「見ろ、あれが最底辺のクラスの寮だ。見るも無惨だろ」


「「「「「ははははははははははははははははっ!!」」」」」


遠くから聞こえてきた声と笑い声に目を向ける。

黒に近い青い髪を七三分けにした豚のような体型をした男がいた。


教師のようだが……あの豚が大きくなったような感じだな。


「そうだね兄さん。あんなこの学校にいる価値もない連中はあのゴミ箱で充分だからね」


隣にいる豚が豚二号に笑顔で話しかける。


豚二号は豚の兄で豚とその仲間の教師ということか。


豚以外の連中も笑っているな。……度しがたいクズどもが。


「……先生。少し離れても良いでしょうか。少し、五月蝿い羽虫を潰してきます」

「先生、俺は少し離れる。ブヒブヒと五月蝿い豚どもを処理してくるので」

「……二人とも止めなさい。全員死んでしまいます」


怒りが吹っ切れて逆に理性的になったハーミットと俺をフレイは制止させる。


全体を見回したフレイは含むように笑う。


「とりあえず荷物を置きにいきなさい。……大丈夫、この学園には非常に面白いルールがあります。このルールを使えば優越感に浸ったガキどもの顔面を殴れますので」


フレイはざわめく俺らに向けてあやすように話しかける。


所々言葉遣いが悪くなってるし本音が混じっている気がするぞ。


「面白いルール……か。それは本当に面白いか?」


「ええ。ここは騎士学園、実力がない者は下に落とせるルールがあります。そのついでに、寮を変えることも可能です」


そう言ってフレイは豚どもに向けて中指を立てる。


豚どもの方を見ると豚どもは顔を真っ赤にして怒っていた。


うわー……これはかなりキレてるな。


「とりあえず最初は中の清掃です。魔法でもなんでも構いませんから中を掃除して下さい」


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