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十二話 学園長の怒り

「……おい、これはどういうことだ」


儂は提出された書類に目を通し内から怒りを洩らす。


漏れでた怒りは殺気と魔力となり、提出してきた赤髪の女教師の心を押し潰す。


「学園長、怒りを抑えて下さ……」


「抑えるじゃと?これを踏まえて言っておるのか、フレイ」


抗議してくるフレイの言葉を遮り、より濃密な殺意が執務室を満たしていく。


八つ当たりだというのは分かっておる。しかし、ここまで酷いと怒りしか思い浮かばない。


「……私も流石に抗議したいところは多々あります。しかし、貴族たちの力があまりにも強すぎるのです」


「……よく理解しておったが、まさかここまで酷いとはな」


今年の試験は豊作も豊作だった。


少なくとも、記録用の魔導具で確認した限りそうだ。


育て上げれば『二式』にまで確実に成長できる者、既に『五式』程度を圧倒できる者、そして国家を滅ぼしかねない者……見込みがある者たちが例年より多い。


儂からしても騎士になれば国家安泰、ならなくとも良い関係を結びたいと思える者たちばかりだ。


「……それを、こうも貶めるか、貴族ども」


「流石に私もこれは心の底から理解に苦しみます。心の底から」


その殆んどがクラスとしては最底辺に落とされている。


理由は教師たちにある。


教師たちにとって有能な低身分が気にくわない。


教師たちの殆んどが上流貴族出身。そのため上流貴族優位の状態となってしまう。


儂からすればあまりにも理解できない。奴らを簡単には処分できないのが本当に腹立たしい。


「特にサクラ、ハーミット、カインが最底辺のクラスに配属されるのが理解に苦しみます」


「確か、お主が受け持った受験生だな」


「はい」


フレイは表情の薄い顔をしかめながら首肯する。


確かに、本来ならこの三人が最上位のクラスに配属されても可笑しくない。


サクラは『五式』騎士を瞬殺……文字通り瞬きする間に倒し、捨て身ながら極めて強力な魔法を扱える。しかも、まだ計りしれない伸び代がある。正しく成長すれば確実に『一式』騎士になれる人材だ。


ハーミットはあの人間不信の第五皇女が信頼する数少ない人物。卓越した戦闘技術は既に『一式』騎士にも匹敵する。少々忠誠心が深すぎるところがあるがそれでも優秀な駒だ。


そしてカイン。実力は『一式』騎士を遥かに凌駕している。魔力制御技術なら儂と匹敵し、近接戦闘能力だと儂に勝ち目はない。そして、まだ本気ではなく伸び代もある。三人の中でも随一の化物だ。


三者三様であり、手綱を引けるか分からないが……それでも、プラスに働けば間違いなく英雄となる。


只でさえ北方の帝国や南の連合との争いが絶えないのだ、強力な戦力を保有し続けなければならないのだから。


「そもそもの話なのですが……何故これ程までの天災たちがこの学園に入ろうとしているのでしょうか」


「……国王陛下の仕業だろう」


フレイの問いに儂は小さく呟く。


あの男は儂を介して第五皇女をこの学園に入れるよう唆した。


目的は社会を知らせるためと言っていたが、本来の目的は側付きの彼女の方かもしれない。


恐らく、国王陛下が自分で見て、自分で確かめた人材をこの学園に入るよう仕向けたり唆したりしたのだろう。


「……だが、それでもあのカインが入ろうとするとは思えない」


あのカインが国王陛下の甘言に唆されるとは思えない。


儂も受験生の中にカインがいる事を知って椅子の後ろに倒れてしまう程に驚いたものだ。


やはり、何かしらの目的があると考えるべきか。


……そういえば最高位のクラスにカインの義妹が配属される事になっていたな。それが関係しておるのかもな。


「カインとは知り合いなのですか?」


「……正確には、あいつの師匠の方だ」


あれは生きた災害そのものだ。あいつ一人で国一つを消せる。


……今思いだしてもよく生き残れたな、儂。

あ、いいこと考えた。


「……兎も角、教師たちに抗議しますか?」


「いや、抗議しなくてよい」


儂はニヤリと笑いフレイの提案を却下する。


儂とて不快な決断だが、こっちの方が遥かに面白い。


「……良いのですか?」


「ああ。……確認しておくが、最底辺のクラスに落とされた者たちは皆有能か?」


「はい。成長すれば確実に『四式』を越える者たちばかりです。……まあ、精神的に折れたり腐ったりする可能性もありますが」


なら最底辺にしておいた方が良い。


逆境の中で立ち上がれない者はどれだけ才能があっても意味がない。


「では、私は失礼します」


「うむ」


フレイが執務室から去る。


儂は背凭れに体重を乗せ天井を見上げる息を吐く。


今年は見所のある者たちばかりで良い。


少し配属先に不満があるが、ああいった者たちは逆境の方がよく伸びる。


何より、儂のような老い耄れではこの学園の体制を完全に変えれない。


「さて……ぐっ!?」


立ち上がろうした瞬間儂の胸から剣が生える。


……この程度で儂を殺そうとしたか。愚かな。


「《アクアピアス》」


背中から魔法陣を展開し水の槍を放つ。


剣が引き抜かれると同時に水の槍が後ろの壁を穿つ。


……逃げたか。空間転移の魔法か。


血が傷口から垂れるが次第に胸の傷が修復されていく。


「ただの鉄の剣で儂を殺せると思っていたのかのう」


まぁ、敵の目的も儂の命ではないだろうから別にようかの。


儂の血が付着した書類を丸めてゴミ箱に捨てる。


目的は情報。特にフレイが強者の例として挙げたサクラ、ハーミット、カインの名前だろう。


「ここまで愚かな行為が出来るのは……聖典教会か」


この国は奴らの支配がそこまで強くない。しかし、帝国も連合も奴らの支配下に置かれておる。

そうでなければ、あのおぞましい行為ができる訳がない。


国境地帯で争いが発生しているのもそれが影響しておる。


世界をおぞましい思想で染め上げるために、儂らの国も支配するつもりなのだろう。


しかも、崇めている神は自在に顕現し救いと破滅をゲーム感覚で振り撒いている。まさに邪神そのもの。


……兎も角、背後にいる者を探るよう国王陛下に進言するとしよう。水面下から、確実に魔の手が迫ってきている。


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