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十一話 試験結果

入学試験から数日後、俺とセレナは再び騎士学園に来た。


合格しているか否かを確認するためだ。


「それにしても兄さん、よくお金が払えましたね」


「……俺としてもあそこに泊まる予定じゃなかったけどな」


セレナが俺に疑いの視線を向けてくる。


俺は明後日の方向を見て気まずそうに言葉を洩らす。


安価な宿で済まそうと思っていたが……まさか国王サマが最高級の宿を手配しているとは思わなかった。


そもそも、あの怪物は何が目的だ?媚びる事がない怪物が平民である俺らにそんな事をすることはあり得ない。


何か裏がある、と考えた方が良さそうだが……まぁ、ふかふかベッドで寝れたから良しとしよう。


「あ、カインさん!」


「あ、セレナちゃん!」


呼び掛けられて振り返るとサクラとグレーセがいた。


二人は人混みをかき分けて俺らの元に駆け寄ってくる。


「試験ぶりだな、サクラ」


「見つけれて良かったー……私、この試験での知り合いがカインさんしかいなくて不安ばかりで……あ、そちらが妹さんですか?」


「はい。私はセレナ、この馬鹿兄の義妹です」


「あ、よろしくお願いします!」


セレナが丁寧な仕草で頭を下げる。


サクラは少し見惚れ、我に帰って慌てて頭を下げる。


良い感じに接触できたようだな。


「グレーセ、そっちの試験はどうだった?」


俺はグレーセの隣に移動して小さな声で尋ねる。


グレーセは親指の爪を噛みながら顔をしかめる。


「……酷いものだったわ。平民出身や地位が低い人たちを対応した試験官たちはかなり厳しく、かつ低く採点されてたみたい。まぁ、セレナちゃん程になると流石の満点をつけたようだけどね」


「そうか。……話し方が変わってる気がするが、それが素なのか?」


「ええ。セレナちゃんから兄は素で話した方が良いって言われてね。まあ、流石に貴族相手になると前の話し方になっちゃうけどね」


まぁ、個人的にも堅苦しい話し方よりフランクな方が遥かに気が楽だ。


それと、髪型も前の三つ編みからストレートに変わってるな。髪型を気分で変える方なのか?


「私としては実力ある人や才気ある人の方が気に入ってるけどね。あ、学園を出たら騎士団に入らない?給料も良いし」


「うーん……俺は馬鹿貴族のご機嫌とりなんてしたくないからパスだな」


そんな貴族がいたら一族郎党皆殺しにする。……そこら辺あいつと同じ思考回路なのが嫌になるがな。


俺は少し嫌気が差した気分になりながら学園の門を潜る。


サクラは不安げな調子で辺りを見回す。


まあ平民が点数を不当に低くつけるというのは噂くらいには聞いてるだろうしな。


俺は周りを少し見回す。


多くの者がピリピリとした雰囲気を醸し出している。


人の流れに逆らわずに進んでいくと巨大な石板が置かれていた。


ふむ……魔力を流すと文字が現れる仕組みか。しかも、かなり効率化されてるな。


「うぅ……緊張してきました……!」


「ああ……」


サクラが俺の腕にしがみついてくる。


セレナがサクラに軽蔑した眼差しを向けてくる。


はぁ……まぁ、セレナはサクラを嫌っている訳ではないだろうから別にいいか。


冷たい視線から気を紛らわすため周囲を見回す。


周囲は先ほどよりも一層ピリピリとした雰囲気に包まれていた。


それにしても、本当にピリピリしているな。


これで人生が左右される訳だからしょうがないだろうけど。


「うぅ……なるべく上のクラスになりますように……」


「上のクラスになる事でメリットでもあるのか?」


「えっ……知らないんですか?」


サクラは俺に顔を向けて目をぱちくりさせる。


「騎士学園では入学時の成績で五つのクラスに分けられるんです。そのクラスで寮や訓練所の使用する際の優先順位なんかが決まるんです。それで、一番の下になると……その、かなり酷い扱いを受けるらしいです。かなり使える施設が制限されるそうです」


「それはまた……」


何て言うか、かなり酷い。


そんな制度があるとは知らなかった。


俺は一番下のクラスになっても別に構わないがサクラは違うだろうしな。


だが悲しいかな、グレーセは平民が厳しく、低く点をつけられてると言っていた訳だからな。


「カインさん、文字が浮かび上がりました!」


サクラの声で思考を脇に退かして石板を見上げる。


石板には五つの列に二十人、計八十人の名前が書かれている。


列の上にA、B、C、D、Eと記載されている。


Aから点数が高い順に並んでいるのか。


―――――――――――――――――

1位 セレナ

2位 アイシャ・ドゥ・アイン

3位 グレーセ・フォルダルン

―――――――――――――――――


「あ、セレナが1位、グレーセが3位か」


A組の一番上に書かれたセレナの名前を見て呟く。


A組には俺の名前は……ないな。


「カインさん、私たちの名前がありました」


凍える声で呟いたサクラが指を指す。


俺は指を指された場所を見る。


―――――――――――――――――

98位 ハーミット・ジャーダ

99位 サクラ

100位 カイン

―――――――――――――――――


俺は最下位か。


そして上に並んでいる二つがサクラとハーミットか。


……いやいやいや、どう考えても可笑しいだろ。


「なあ、俺は兎も角お前は騎士を瞬殺したんだよな」


「はい」


「それでこの点数?」


「はい」


サクラは唇を噛みしめ、手から血が垂れるほど力強く握る。


現役の騎士を倒せるだけの実力を持っていながら平民というだけでこの扱いか。


おおよそ教師連中が学園長を通さずに入学の可否やクラスを点数ではなく身分で決めたのだろう。翁がこんな蛮行を見過ごす訳がない。


サクラが1位なのは流石にあれだけの魔法を使えるのにAクラスにしないと点数で決めた訳ではないということがバレてしまうためか。


なんてふざけた真似をしてるんだか。


「……悔しいです。こんなの、悔しいです……!私たちの努力は学園には響いてなかった……!カインさんは悔しくないんですか……?」


サクラはボロボロと涙を溢しながら俺の顔を見てくる。


俺は殺意や魔力を押し留めながら校舎の上の階睨む。


「悔しい悔しくない以前の問題だ。……殺意しかない」


俺は入学も学園もどうだって良い。何せ、元々学園に来る予定すらなかった訳だから。


だがサクラは違う。


この学園に入るために訓練を積み重ねて来たのだろう。


しかし、学園は受験生を実力ではなく身分でしか見ていなかった。


更に言えば、裏金や癒着があっても可笑しくない。というか、貴族の性質上確実にやっている。あの豚もそんな事を言っていたしな。


「……兄さん、少し学園長に話をつけに行ってきます」


「せ、セレナちゃん!?」


俺らの様子に気がついたセレナが冷徹な表情と怒気を纏いながら立ち去ろうとする。


気がついたグレーセがセレナを羽交い締めにする。


セレナは不当や不正が一番気にくわない性格をしているから怒り狂って当然か。


まぁ流石に問題を発生させるのも嫌だし止めておくか。


「……ホント、舐め腐ったことをしてくれるな」

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