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第一話 神殺し

アイン王国。その中央部で発生した大規模な疫病。


それは、アグロマ教団が引き起こした大規模な儀式の影響らしい。


まあ、そんな事は俺にとってはどうだって良いが。


「ごっ……ぺ……」


出入り口を警備していた全身黒ローブの信徒の首を手刀で切り落とし、地下に続く階段を降りていく。


奥の方から来る信徒たちを声を出し、武器を取り出すよりも速く肉薄、手刀を振るう。信徒の身体から鮮血が舞い、桜吹雪の中を平然と降りていく。


やれやれ……この程度の信徒か。アグロマ教団はかなりの武闘派で王都の騎士すら凌駕する実力があるとか言われていたが……なんたる様だ。


まあ、通常の騎士ならここに来る前に病気に懸かって全滅してるか。『一式』の連中なら話は別かもしれないが、あいつらは王都防衛か国境の異民族との交戦とかで大変らしいから動けないのは分かるけど。


階段を降り終え巨大な地下空間に出ると熱波が肌を焼く。


地下空間の中央、巨大な祭壇の頂上に黒い外套を纏った男が立っていた。


男は筋肉隆々の肉体にスキンヘッド。教団の教祖と言うよりも騎士のような風貌をしている。


しかし、その鳥羽色の目には理性がなく爛々とした狂気を宿していた。


「ふん……。中々に良い器に宿れ、尚且つ極上の贄を取り込め、さて行動を起こそうと思っていた出会った相手が矮小な人間か。この器の部下はどうした」

「殺したよ。お前こそ、そんな器に収まっていた良いのか《狂神アグロマ》」


《狂神アグロマ》。アグロマ教団が崇拝する神であり戦乱の神。

アグロマ教団はこの神を再びこの世界に顕現させる事を目的とした教団。そのためなら手段を選ばず、あらゆる手段を用いる。


武闘派なのは当然か。何せ、《狂神アグロマ》は戦乱の神。それを崇める信徒どもが非力ではこの狂神が喜ぶ筈がない。


「騎士には『式』と呼ばれる実力の階級があるらしいが……小僧、貴様も保有しているのか?」

「まさか。俺はただの農民だよ」


『式』を保有できるのは騎士どもだけ。そして、俺は騎士に何てなるつもりはさらさらない。


この俺が、騎士なんてつまらない職業になる何て吐き気がする。このクソみたいな国を守るなんて馬鹿馬鹿し過ぎて笑えてくるよ。


「では、何故闘いを挑む」

「誰だって、毎日寝ている横でお祭り騒ぎされると鬱陶しくて仕方ないだろ?それと同じだ」

「くくっ。予想以上に狂っているな、小僧。我好みの狂人よ」

「そりゃどうも」


狂神に褒められる何てそうそうない体験だ。……まあ、どうだって構わないが。


「それでは、始めるとしよう。……死ね、小僧」


アグロマは床を蹴り俺に向けて跳んだ。魔力を滾らせ丸太のような拳を振り下ろしてくる。


……動きは悪くない。流石の狂神か。


振り下ろされる初撃を難なく避けながら魔力を巡らせ、拳を腹に向けて打ち出す。


「ぐっ……!?おおおおおお!!」


のけ反るアグロマが体勢を戻し、拳を打ち出す。俺も合わせるように拳を放つ。


拳と拳がぶつかり合い、衝撃波が撒き散らされる。


「ククッ、一介の農民がここまで強固な《天武》を使いこなすとはな!」

「久方ぶりに《天武》を使える奴と戦えるな」


《天武》は魔力を用いた身体強化の技術だ。


アグロマも俺も、呼吸をするような手軽さで行っているが実際は騎士でも『二式』レベルでなければ使えない高等技術でもある。


アグロマが足を切り飛ばすような足払いをすると同時に俺は跳ぶ。着地と同時に掌底を胸に叩き込む。


「ごっ……!?」


衝撃で吹き飛ばされるアグロマ目掛け、俺は突貫する。


速度を乗せた拳を放つがアグロマはそれを掌で受け止め掴む。


「むん!!」


そして俺の身体を真上に投げ飛ばす。


天井に触れる直前、俺は天井を蹴り真下に降りる。


着地と共にアグロマの拳が振り下ろされる。掌で受け流し、その腹に膝蹴りを入れる。


「ごふっ……!」

「《風切》」


アグロマがよろめくと同時に俺は両手を縦横無尽に手刀を振るう。


手刀が触れたところからアグロマの身体は切り裂かれていく。


《風切》は《天武》の応用。手刀を刃にするほどの強化をする、それだけの技術だ。


だが、俺はこれを気に入っている。何せ、手刀を振るうだけで相手に致命的なダメージを与えれる訳だからな。


「ぐっ……見事な技よ。我でも再現できぬ程にな」

「そりゃどうも」


肉体をズタズタに切られたアグロマは口から血を流しながら俺に笑いかける。


そして、自分の胸を自分の右手で穿つ。


「ぐ……おお!」


俺が呆気に取られているとアグロマの体が赤く光る。


魔力が可視化する程に引き出しているのか。何をするつもりだ?


「小僧……これを頼む」


そういってアグロマは魔力の塊を差し出してくる。


魔力の塊は次第に人の形となり、生まれたままの姿をした少女となっていく。


「我は贄を求めぬ……この器がこの娘の血を使い、我を呼び出した。その際に取り込むことで死ぬ寸前の肉体を再構築、死ぬ直前に蘇生させる事ができた。今、我はこの娘と我を分離させた」

「……助けるのか?その娘を」

「無論だ。我は敵対者しか殺さぬ。数多の命を奪った我の絶対のルールだ」


俺はアグロマの目に宿る決意を肯定し少女を受けとる。


受けとった瞬間、アグロマの体が燃えていく。


器が砕かれたんだ、そこに注がれた水が溢れるのは当然か。


「ククッ……久方ぶりに良い器だと思ったが、こうも容易く砕かれるとはな……」

「神を呼び出すには人の肉体ではダメだった。それだけの話だろ」

「ククッ、違いない。……我と小僧はよく似ておる。大切な一を貫ける者だ。誇れ、貴様は既に我と同じ狂気を宿しておる」


邪悪、しかしどこか美しさを持った笑みと共に狂神はこの世を去る。


死んだわけではない。ただ、元々いた領域に戻っただけの話だ。


それにしても……同じ狂気か。理解はできるがあの筋肉ムキムキマッチョマンと同じだと言われるのは釈然としない。


「動くな!」


天井に向けて昇る魔力の光を感慨深く眺めていると背後から声が聞こえてくる。


振り返ると、甲冑姿の女を中心に複数の男たちが俺に向けて剣を向けていた。


この国の騎士だ。


「貴君、ここでアグロマ教団の儀式が行われていた筈だ。何か知らないか」

「俺が潰した。出入り口の死体くらい見なかったのか?」

「確認はした。だが、まだ若い貴君が殺したとはにわかに信じがたい」


ま、そりゃそうか。


女騎士の言葉に俺は内心納得する。


俺の歳は15。そんな歳のガキが、しかも平民がたった一人で武闘派カルト教団の儀式に乗り込み神を打ち倒したとは理解しても受け入れ難いのだろう。


けど、事実は事実なんだしそこら辺はしょうがないと割りきってもらいたいところだ。……まあ、この国の騎士にそこまで求めてはいけないか。


「事実は事実だ、現実を見ろ。それで、何の用だ。俺は今後の事を考えたいのだが」

「……討伐を終えたのなら、後は証拠の押収だ」

「そうか。なら、さっさと去らせてもらう」

「動くな、貴君には聞きたい事が山ほどある」


動こうとする俺に女騎士は剣を突き出して鋭い目付きで脅してくる。


へぇ……悪くないな。実力的には『五式』くらいはありそうだ。ま、それがどうした。


「死んでも断る。お前ら国の犬に渡す情報何てない」

「貴様!誉れある『八式』の騎士になんたる侮辱をしたな!その行為、万死に値する!」


俺の挑発に乗った騎士の一人が俺目掛けて駆け出す。


遅い。あまりにも遅い。《天武》すら発動する事の出来ない奴が。俺に勝てると思っているのか?


俺が地面を蹴り一足で接近すると水平に回し蹴りを振り抜く。


「がっ!?」


突然の攻撃に防ぐことすら出来ず兵士は真横にぶっ飛ぶ。兵士は壁に叩きつけられ、そのまま項垂れる。


「なっ……《天武》だと!?何故平民の子供がそんな技を使え……!」

「答える道理は、ない」


即座に蹴りだけで騎士たちを戦闘不能にし、残った女騎士に接近と同時に蹴り飛ばす。


女騎士は真後ろに弾かれたように吹き飛ばされそのまま通路に倒れる。


さて、さっさと去らせて貰うとするか。


「ま……て……」

「どうかしたか、女騎士」


倒れた女騎士が通り過ぎようとした俺の足を掴む。


へぇ……あの蹴りに耐えるか。近いうちに上の式に上がれるだろうな。


「貴君……名を何て言う」


答える理由はない。……だが、気まぐれだが良いだろう。


「俺はカイン。ただの農民の子だよ」

「はは……騎士を瞬殺する農民の子か……笑えない冗談、だ」


そういって女騎士は気絶する。力を失った手を足で払いのけ階段をあがっていく。


さて……この少女について親に何て伝えよう。疫病の発生地の近くの村で唯一生き残っていた、と伝えておけば問題ないかな。



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