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GUN×SLASH×FANTASY  作者: なろうスパーク
9/42

stage08「予兆は仮面を被ってやってきた」

ぶうんっ!と、再びゴーレムの巨大な腕が振り上げられた。



「まずっ!?」



今度も、それはナギを狙って振り下ろされた。

振りは大きかった為、回避は簡単だった。

だが。



「ぐっ!?」



ゴーレムの腕が叩きつけられた瞬間、地面が砕け、破片が飛び散った。

それは、回避したナギに襲いかかり、ダメージを与えた。


逃げたか。

だが今度は直撃させてやる。


そう言うように、ゴーレムが再び手を振り上げる。



………?



しかし、砂塵が晴れた時、そこにナギの姿はなかった。

あるのは、二度の攻撃で地面に開いた穴と、無人の建物のみ。


あいつは、何処に行った?


頭をギョロギョロと回し、ズシンズシンと足音を響かせながら、ゴーレムはナギを探す。

さて、当のナギはというと。



「ゴーレムが居るなんて聞いてないよ!もう………ッ!」



建物の裏に隠れ、ゴーレムの視界から消えていた。

その肌には、ゴーレムの一撃により飛び散った砂や小石による、小さな傷が出来ている。



………ゴーレムは、この見た目からは想像しにくいが、地中に生息する微生物が闇の魔力による変異を起こして生まれたモンスターである。

本体である微生物群が、土と岩による肉体を、乗り物を操縦するような感覚で操っているのだ。


ゴーレムを倒すには、頭部の奥にある本体………脳に該当する、微生物の集合体部分を叩くしかない。

だが。



「うう………調子に乗ってMP使い過ぎたかな………」



魔法の使用には、大気中から取り込んだ魔力を使うのだが、無尽蔵にいくらでも使えるという訳ではない。

体内に取り込める魔力には限界があるのだ。


ナギは、家系の事もあり、体内に取り込める魔力は常人より遥かに多い。

だが、ゴブリン戦で調子に乗った結果、魔力の大部分を消費してしまった。


携帯に、身体をスキャンさせて「MP」という形で表示されたナギの体内の残存魔力は、二回攻撃が出来る程しか残っていない。


そして不幸にも、ナギの手元にはMPを回復する為のアイテムは無く、自然回復を待つ余裕もない。


放っておけば、あのゴーレムは間違いなく村を襲うだろう。

その前に、たった二発の攻撃であのゴーレムを倒さなければならないのだ。



「どうしろってのよ………んっ?」



自分の置かれた状況に焦っていると、ふとポーチの中身と目があった。

そこにあるのは、旅立つ際に持たされた、光属性と火属性のカードリッジ。

そして。



「風………」



あの時、館で拾った風属性のマジックカードリッジ。

それを見て、ナギはある考えが浮かんだ。

確か、風属性のガンモードとソードモードは。



「………こいつに、賭けるか!」



決心は早かった。

それ以外に取れる手段は無かったからだ。


ゴーレムが自分に背中を向けたのを確認し、ナギはゴーレムの歩く大通りへと出る。

そしてドラグーンのカードリッジを風属性の物に交換し、未だ自分に気付いていないゴーレムの頭部に向けた。

そして。



「行けッ!」



ソードモードの状態で引き金を引くと、銃口より紫色の光の鎖が、ゴーレム向けて射出される。

先端は矢尻のようになっており、ゴーレムの背中に突き刺さる。



風属性のソードモードは、チェーンアンカー。

相手に突き刺す事が出来る、鎖のついた射出式の錨だ。



「そこっ!」



ナギが引き金から指を放すと、まるで巻き尺のようにアンカーは物凄い勢いで巻きとられる。

ゴーレムよりも小さく、軽いナギが引っ張られ、ナギの身体はゴーレムの頭上へと舞い上がり、降り立つ。


ここでようやく、ゴーレムが気付いた。

が、その時既にゴーレムの身体に乗ったナギは、ガンモードに戻したドラグーンの銃口を、ゴーレムの頭に突きつけていた。



「トドメだよ!」



引き金が、再び引かれた。

瞬間、ドラグーンの銃口より放たれる、5発の魔力光弾。

ゴーレムは、本来なら広範囲の相手を攻撃する為の弾を、至近距離故に全て受ける事になった。


風属性カードリッジのガンモード。

それは、ショットガン、つまる所の散弾である。

これで、MPは完全にゼロになってしまったが、ゴーレムの本体である頭部を吹き飛ばすという目的は達成された。


バラバラになったゴーレムの頭が、地面に散らばる。

中枢である微生物達は、生物としてはゴブリン達よりも脆弱で、太陽光が当たった途端死滅してしまう。



「よっと」



操る者のいなくなったゴーレムの身体がぐらつき、崩れてゆく。

巻き込まれないように地面に飛び降りたナギの目の前で、ゴーレムの巨体は元の岩と土に戻り、崩落してゆく。


今度こそ、ナギの勝ちだ。



「ふう………もう、敵は………」



もう、敵はいないよね。

これ以上は戦えないぞと、安堵の息を漏らそうとした、その時。



………バシュウッ!!



突如、背後よりナギの顔を横切る光弾。

それはナギの眼前にあるゴーレムの残骸に命中。

破片が飛び散った。



「え………ッ!?」



撃たれた。

と、ナギが気付いたのは、光弾が自分の頬を掠めた事による僅かな痛みと、ゴーレムの残骸に穿たれた銃創を見てからだった。


更に言うと、その銃創には高温で熱した鉄ような赤黒い跡がつき、その部分を僅かに融解させている。

魔力光弾による攻撃でこんな跡が残るものは、一つしかない。



「闇属性………?!」



そう、闇属性による攻撃だ。

モンスターを生み出し、魔王の眷属のみが操れる、闇属性の魔力。


まさか、まだ敵が?

焦るナギの耳に、聞こえたのは。



「流石は、バーミリオン家の後継者、という事か」

「ッ!?」



背後から聞こえた、男の声。

咄嗟に振り向いた視線の先には、建物の上に立ってこちらを見下ろす、外見上は若い一人の青年。



「四天王を倒した実力は本物、というわけか………」



身長はナギより高いが、見た所年齢はナギとほぼ同じぐらいに思えた。


風に靡く白い服はコートのように見えたが、よく見ればそれは、精神病院で一部の患者に使われる拘束服のようにも見えた。

あれを、動けるように各部をカットして服に見立てているようだ。


素顔は確認できない。

後ろに伸ばした、黒く長い髪を結っているのは解るが、仮面舞踏会のような仮面で顔を覆っている。


腰にはベルトと、銃を入れる為のホルダー。

そして、彼の手に握られているのは、なんとナギのドラグーンと同じ魔法銃。

ドラグーンによく似た形状だが、ドラグーンより少し大きく、ドラゴンの紋章の代わりに、闇属性の象徴である赤い月が刻まれている。


さっきの闇属性の一撃は、あの仮面の男が撃ったと考えて間違いないだろう。



「………あなた、何者ッ!?」



反射的に、ナギは身構える。

闇属性を使う以上、人間ではないのは確かだ。

だが、もうナギにMPはない。

どうするかと、頭を必死に回転させる。



「まあ落ち着け、今は俺に戦うつもりはない」



だが仮面の男はナギの予想に反して、持っていた魔法銃をホルダーに仕舞う。



「………俺はデュミナス、とりあえずそう名乗っておこう」



「デュミナス」、仮面の男はそう名乗った。

それは古代の言葉で「落第者」を意味する事を、ナギは知っていた。



「いずれ、また会おう」

「ま、待ちな………!」



ナギが動くより先に、そのデュミナスと名乗った青年は、光に包まれて消えてしまった。

高レベル魔法である「ワープ」を使ったのだ。


今のナギには、デュミナスを追う事も、ワープした先を探知する手段もなく、ただ立ち尽くす事しか出来なかった………。





………………





全てを終えたナギはミゲイルの村へと戻った。

丁度その時、ギルドステーション・ネネから入ってきたメリナの着信に、今は答えている。



『調べがついたわ、あれは「ダークモノリス」古代の魔法で、言うなれば「闇属性汚染装置」よ』

「闇属性汚染装置?」



館の地下にあった、あの長方体は「ダークモノリス」というらしい。

ダークモノリスは、古代の時代に魔王の眷属達が製作したという、いわば侵略兵器。


そこに存在するだけで、その土地の光属性エネルギーを吸い上げてしまう。

光属性エネルギーを吸い上げられた土地は、生命力を失い、枯れてゆく。

そして、そこに代わりに闇属性エネルギーを送り込む。


これを繰り返す事で、その土地を闇属性で汚染し、魔王の眷属に都合のいい世界へと作り替えてしまう。

アークガルドを覆う暗雲も、このダークモノリスによる物と見て間違いないだろう。

実際、暗雲が晴れた時、ダークモノリスは機能を停止していた。



『それと、あの砂とメガマキナの残骸を調べた所、あれもダークモノリスに関係してたのよ』



またダークモノリスは、それを管理する者に力を与える効果がある。

恐らくオグマは、それを自身とメガマキナにかけていたのだろう。

ドルクスの残骸から、闇属性の魔力が僅かに確認されていた。


だが、この効果には欠点がある。

効果をかけたものの内、一つでも破壊されるような事があれば、それと連動してダークモノリスは機能を停止し、管理する者も死亡する。


オグマの場合は、ジャンゴがドルクスを破壊した時点で、そうなったのだろう。

あの砂を調べた所、やはりというか、人間の肉体を構成する物質が見つかった。


あれが、闇に魂を売った者の末路、というわけだ。



「そんな事が………んぐっ」



メリナの話を聞きながら、村の売店で買った魔力ポーション (メロン味) を一口飲むナギ。

この時代のポーションは、我々の世界のジュースのように缶に入っているのが一般的だ。



『それで、ナギちゃんはこれからどうするの?』

「そうだなぁ………」



缶ポーションを飲み終わり、空になった缶をゴミ箱に捨てる。

ナギの答えは、既に出ている。

それは。



「とりあえず、北に向かってみます」





………………





村にやってきたモンスター達は、北の方角からやってきた事が、最初の目撃者である農家の兄弟の証言で明らかになっている。


地図が正しければ、村から北の方角には鉱山がある。

恐らく、モンスター達はそこからやってきたのだろう。



「何から何まで、ありがとうございます」

「いえいえ!村を救ってくれたお礼です、これでもまだ足りない位ですよ!」



迎えに来たマルコや村の人達から貰った、三日分の携帯食料と水が、ナギのレッドスタッグの荷台にくくりつけられている。

角刈り男が「すまん、そしてありがとう」とだけ言って渡した、ボトル入りの魔力ポーションもある。



「………ナギさん」

「ん、なぁに?」



名残惜しそうな顔で、ルシアンが前に出た。

そして、少しだけ躊躇った様子を見せた後、ポケットから一つのネックレスを取り出した。



「これは………」

「お守りです、ナギさんの旅が、無事に終わりますようにって」



結論から言うと、それは村の売店で売っている物であるが、ルシアンとしては最大限の感謝の気持ちを込めた物だ。



「………ありがと」



ナギも、それに気づいている。

彼女の祈りと感謝に、優しく頭を撫でる事で礼の意を表した。



………どるるるんっ!


レッドスタッグのエンジンが回る。

ナギは、頭に巻いていたゴーグルを下ろし、前を見据える。


向かうは一つ。

北の地にある鉱山だ。



「それでは、またいつか!」



別れを告げ、手を振るルシアンを背に、ナギとレッドスタッグは荒野をかける。

彼女の冒険は、まだ始まったばかりだ。





………………





ミゲイルの村から、砂塵をあげて離れてゆくレッドスタッグ。

その姿を、仮面越しに遠くから見つめるデュミナス。

そこに。



「お遊びが過ぎますよ、デュミナス」



ふと、かけられる女の声。

その主は、いつの間にかデュミナスの背後に居た。


声で女だという事は解るが、深くフードを被り、その顔をハッキリと確認する事はできない。

僅かに見える髪は黒いが、青い肌と影でも光る金の眼が、彼女が人間ではない事を物語る。



「宣戦布告ですよ、彼女へのね」

「あなたの願いは知っていますが、くれぐれも我々の真の目的を忘れないよう………」

「言われなくても、解ってますよ」



デュミナスは、口許を吊り上げて笑い、フードの女の方を振り向く。



「………カミーラさん」



次の瞬間、二つの影は消えていた。

最初から何も無かったかのように、そこには静かな荒野が広がり、風が砂埃をあげていた。

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