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GUN×SLASH×FANTASY  作者: なろうスパーク
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stage05「夜が明けて、それから」

………アークガルドの何処か。

真っ暗な闇の中に、二人の人影があった。



一人は、神父のような格好をした背の高い男。


だが、肩から血のように赤いストールを垂らし、首から歪な形のクロスのネックレスを下げた姿は、お世辞にも正当な神父とは言いがたい。


だが、闇の中に浮かぶ顔は美しく、多くの女性から羨望を集め、言い寄られている事は安易に予測できた。



「………聞いたか?オグマがやられたらしいぞ」

「ふーん、あっそ」



だから何?と言いたげに、ソファに寝転がって、答えたのは、白衣姿の人影。

所謂「スマートフォン」と呼ばれる、手に持つタイプの携帯で、ファッションサイトをチェックしている。



「実の父親に対して、やけに無関心だな」

「あんな、熱血ごっこだけの奴なんて、父親でもなんでもないわ、その上本来の任務を忘れて人間狩りに夢中になる奴なんて………それに数合わせで四天王になった奴じゃないの、あいつ」



頭にはナースキャップを被り、髪も長く女性的だ。

だが、白衣から覗くボディラインは女体と言うには少々ガタイが良すぎる。

男か女かの判別は、難しい。



「というか、あいつ私達四天王の中でも最弱よね、でも人間ごときに負ける?面汚しもいい所よねぇ、フフフッ」



白衣は、そんな軽い調子で笑っていた。

神父は、特に咎めもせずに、その様子を見ている。



「ただの人間じゃない」



そんな空気を止めたのは、別の声。

カツカツと音を立てて歩いてきたのは、また別の男だった。



「あいつはバーミリオン家の跡取り娘、勇者の血統である七大貴族の中でも最も強い存在だ」



その男は、軍服か学ランのような服に身を包んだ、神父擬きや白衣と比較すると、比較的真面目な印象を受ける男だ。


オグマ程でこそ無いにしろ、がっしりとした筋肉質の、高身長でもある。



「バーミリオン………って事は、まさか!」

「そういう事だ」



呑気な気でいた二人が、一気に騒然となった。

それは、彼女がバーミリオンの血族であると同時に、彼等の知る「ある人物」と近しい人物だったからだ。



「………で、そういやそのお兄様は何処に?」

「その「彼女」に「ご挨拶」に向かったとの事だ」



何にせよ、ただの人間だとタカを括っている訳にもいかなくなった彼等は、各々の持ち場に戻るのであった。

やがて来るであろう、戦いに備える為に。





………………





………あれから、一日程の時間が過ぎた。


幸い、その場にいた村人や機動歩兵隊の中に怪我人は少なく、死者も出ていなかった。


だが、崩壊した戦士の館から、恐らくルシウスと同じように人体実験の犠牲になったであろう人々が見つかり、今も救出が進んでいる。

帰って来た村の若者達………「元」機動歩兵の協力もあり、救出作業は滞りなく行われていた。


………ちなみに、最初からオグマ側に居た機動歩兵達は、オグマが倒されたと知るや否や、何処かへと逃げ去ったとの事。



「お兄ちゃん、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよルシアン」



マルコの家にて、救出されたルシウスがベッドの上で横たわっている。


口では大丈夫だと言っているが、今も立ち上がれず、頬もこけ、痩せ細っている。


装置に取り込まれた事と、長い間人体実験に晒されていた事による、後遺症だ。


以前のように立って歩けるようになるには、まだ時間がかかるだろう。



「そういや、僕を助けてくれたナギって人は何処に居るんだ?お礼を言いたいんだけど………」



ルシウスは、意識を取り戻してからは、まだナギに会っていない。

気がついた時には、自宅のベッドの上に居たからだ。



「ナギさんならオグマの館だよ」

「館?なんでまた」

「色々調べる事があるんだって、そんな事よりお兄ちゃんは身体を治して!」



そう言い、ルシアンは朝一番で買ってきたヨーグルトを、ルシウスの口に運んだ。

彼女も、ルシウスに一日でも早く元気になって貰おうと、必死なのだ。





………………





戦士の館。


戦いの余波………と、いうよりは、オグマがドルクスを起動した事によって崩壊した館には、村の若い衆や重機が集められ、瓦礫の撤去作業が進められている。


上で述べた通り、ルシウスのように人体実験の材料にされていた人々や、運悪く屋内に居たせいで生き埋めになった人々の救出の為だ。


そして、自分達を苦しめてきたオグマの象徴である戦士の館を、無くしてしまおうという狙いもあった。



だがここに、上記のどの目的でもない理由で、館を訪れている者が、一名。



「よい………しょっと!」



村人達に手伝ってもらい、瓦礫を退ける。

そこにあるのは、戦士の館の地下に繋がっていると思われる、一枚の扉。

簡単に入れないように、施錠されている。



「思った通りね………」



ナギはドラグーンに光属性カードリッジを装填し、扉を閉じる鍵に銃口を向け、引き金を引いた。

ガキンッという金属の音と共に錠前が吹き飛び、扉が解放された。



「ほ、本当に一人で行くんですか………?」

「ダンジョン化してる場合もありますので………お手伝い、ありがとうございました」



瓦礫の撤去を手伝ってくれた村人に感謝を述べ、ナギは地下への扉に手をかけた。

ギィィ、という音と共に、地下の扉が開いた。



「………よし!」



マルコから借りたランプを手に、ナギは地下への一歩を踏み出す。

やはりというか、一歩踏み出すと埃が舞い上がった。

長い間、掃除もされてないように思えた。


見た所、モンスターの姿は見当たらない。

ダンジョン化の心配は無いようだと、ナギは内心ホッとした。



「ここは………ッ!?」



ランプに照らされた事で、暗い地下がぼんやりと見えた。

そこは、見たこともないような大がかりな機械や機材が並び、人間一人が入るようなカプセルがいくつも並んでいた。



「実験室………だよね、多分」



それが、何らかの実験室である事は、科学に疎いナギでも十分に理解できた。

よく見ればカプセルも、あの時ルシウスを捕らえていた物によく似ている。


各部に飛び散り、染み込んだ血痕から、やはりここで凄惨な人体実験が行われていたのだろうという事も思えた。

実際、救出された「被験者」の人々の中には、手足を切断されたりしている人達も見つかっている。


ただ、魔法を使うという事だけの為に、ここで何が行われていたかと考えると、ナギの背筋は凍った。

同時に、そんな理由で何人もの人を犠牲にしたであろうオグマに、吐き気を催すような嫌悪感を感じた。



………カラン。


ふと、何かが転がってきて、ナギの足に当たる。

何だろう?そう思いナギがそれを拾う。



「………マジックカードリッジだ」



そこにあったのは、ドラグーンに使われている物と同じ、マジックカードリッジ。

紫の色と刻まれた風属性の紋章で、それが風属性のカードリッジである事が解った。


そういえば、オグマがドルクスに使わせていたのは風属性魔法の応用である雷魔法。

メガマキナも魔法機械な以上、カードリッジの力を使う事が出来る。

そう考えると、ここにカードリッジがあるのも頷ける。


だが、問題はこの後である。



「………ビンゴ、ね」



カードリッジが転がってきた先に、それはあった。


機械的な、墓石か石板を思わせる、地面から生えた黒い長方体。

その正面にあるのは、丸い蛇の絵。

自分の尾を噛もうとする事で、円の形になっている。


ウロボロス。


死と再生を意味する、古代に使われた錬金術の象徴であるそのマークは、現在においては別の意味を持っている。


そしてナギは、その意味を知っている。



「おーい!ナギさーん!」



長方体を携帯のカメラで撮影していたその時、地下室の入り口の方からナギを呼ぶ声が聞こえた。

村人の一人が、ナギを呼んでいた。



「オグマのメガマキナの中から、妙な物が出てきました!」

「妙な物………?」



長方体の資料が取れた事もあり、ナギの興味はその「妙な物」に移った。

一体、何が出てきたと言うのだろうか。





………………





戦いの後、オグマが乗っていたドルクスの残骸は、ほぼ放置されていた。

そこが、片付けなくても特に困らない、何もない荒野だった事もあるが、館の救出・撤去作業の方が重要だという事もある。


ナギは、ドルクスを破壊したが、オグマが自分の「冒険者としての使命」の重要な手がかりになるとも考えていたので、コックピットへの攻撃はわざと外していた。

ので、ドルクスのコックピットである頭部は、ほぼそのまま残っている。


村人達としても、今まで圧政を敷いていたオグマに「オトシマエ」を付けさせなければ気がすまない事もあり、ひしゃげて開かなくなったコックピットを、必死に開けた。

だが。



「………砂?」



駆けつけたナギが見た物は、コックピットの中に流れる、灰色の砂のような物。


聞いた話によると、オグマの姿は無かったらしい。

本来コックピットの中にいる筈のオグマの代わりに、この砂があったとの事。


オグマが逃げたのでは?とまずは考える。

だが、村人達がこじ開けるまで、コックピットの扉はひしゃげて開かなくなっていた。

もし逃げたなら、扉がそんな状態になっている訳がない。


なら、転移魔法を使ったのでは?と考えたが、その線は薄い。

あの性格と、ルシウスを組み込んだ生体ユニットを使っていた事を考えるに、オグマに転移魔法が使えるほど技術があったとは思えない。


オグマに、ここから出る手段はない。

なら、考えられる事は一つ。



「じゃあ………オグマがこの砂になったってのか?」

「おいおい、吸血鬼じゃないんだから………」



端から見ていた村人が、結論を出してくれた。


そう、この砂の正体こそ、オグマ自身なのではないだろうか?という事。

まるで、太陽を浴びて灰になる吸血鬼のように。


だが、それだと何故人間が砂になってしまったのか?という疑問が出てくる。

ナギの知る限りでは、人間が砂になる魔法は今まで聞いた事がない。


少し考えた後、ナギはこの事態が自分の知識と経験だけでは解決出来ないという結論に出た。

そして、彼女の出した答えは。



「………すいません」

「何です?」

「ビンか何かを貰ってもいいですか?出来るだけ、綺麗な物を」

「え、いいですけど………」



ナギの言葉に、村人は少し戸惑ったが、解決に必要だろうという事と、ビンぐらいなら家にいくらでもある事を思いだし、首を縦に降った。



「それと、ここのメガマキナの破片をいくつか貰いたいのですが」

「それなら、別にいくらでも持って行っていいよ」

「………ありがとうございます」



親切な村人達に、ナギは感謝を込めて頭を下げた。

流石は、貴族の家系。

礼儀がなっている。





………………





それから、30分後。

二つ貰ったビンと、中に入れた砂とドルクス残骸。

そして、携帯の中にある、館の地下で見つけた長方体の写真とスキャンデータを手に、ミゲイルの村の外れにある小さな丘に来ていた。



「ここでいいか、な………」



空を見上げる。

雲が晴れ、輝く太陽と青空が広がる。

そこに、うっすらと浮かぶ物が一つ。


「月」だ。


ナギの頭上に見える、昼間でも浮かぶあの大きな星。

かつては別の名前があったとも、名前すら無かったとも言われているが、勇者によって月と名付けられた事になっており、今でもその名前が使われている。


そして、あそこ………性格には、月と同じ方角に、ナギが問題の解決の為に頼ろうと考えている存在がいる。



ポーチから、また別のマジックカードリッジを取り出す。

星の紋章………俗に「五芒星」と呼ばれるマークが刻まれたそのカードリッジは、七大貴族と、一部の冒険者にのみ与えられる物。


ナギは、その星のカードリッジをドラグーンに装填すると、銃口を地面に向けて引き金を引いた。


すると、どうだろう。

地面に向け放たれた銀色の光弾は、着弾した所から、光る魔法陣を展開。


それがナギを包み込んだかと思うと、次の瞬間、ナギの身体は光となって、空の彼方へと消えていった………。



………もし、この場に魔法に精通した者がいたなら、それが転移魔法の一種である事が解った事だろう。

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