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GUN×SLASH×FANTASY  作者: なろうスパーク
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stage04「長い夜が明ける時」

オグマは、その筋骨粒々とした厳のような筋肉の塊たる巨体を、東洋方面で見られるような古い鎧に身を包み、こちらを見下ろしていた。

そこに、ライフルを装備している姿は、なんともアンバランスである。



「オグマだ………!」



現れたオグマの姿に、怯える人々。

いくら集団になったとはいえ、オグマへの恐怖は未だ染み付いているのだろう。



「この俺を討伐しに来たという、本国の冒険者がいるそうだな?!姿を現せ!!」



オグマが、眼下の人々に向けて吠える。

萎縮し、怯える人々の中で、自分が呼ばれたと気付いたナギは、臆する事なく前に出た。



「私ですが?」

「ふん!貴様か、どんな英傑かと思ったら、出っ張りもないただの女子(おなご)ではないか!」



そう鼻で笑うオグマに、ナギはムッと顔をしかめて不快感を露にする。


一つは、女性である自分を露骨に見下し、馬鹿にしてみせる、その価値観に。

一つは、味方、それも部下であるハズの機動歩兵の隊長を「渇」と称して銃で撃つ、その精神に。


少なくとも、好きになれるタイプの人間でない事はすぐに解った。



「だが、たとえ女だろうと、俺は手加減しない!ましてや、俺の居城を争うという輩には、俺の男気にかけて、制裁を下さなければならないッ!この俺………雷の将軍・オグマの名にかけてッ!!」



言っている意味が、わからない。

おそらく、彼は単に「男気や男らしさに酔っているだけであり、その本質や意味については理解していない」。そういう人種なのだろう。


そうでなければ、こんなちぐはぐな言葉は出てこないし、こんな暴君まがいの事をする男の口から「男気」という言葉が出る口を持つはずがない。



「さあ出でよ!俺の男気!(おとこ)の花道ィッ!!」



村人や機動歩兵達は怯えていたが、ナギだけは「バカがバカみたいな事言ってる」と言うかのように、オグマの姿を呆れて見ていた。


………が、その呆れの感情は、直ぐに覆る事となった。



「出でよ!"ドルクス"ッッ!!」

「なッ!?」



一瞬、紫の電流のような物が走ったかと思うと、なんと館が爆発。

突然の出来事に唖然となるナギや村人、機動歩兵達の眼前で、「それ」は巨大な姿を現した。



爆発した館の中から、起き上がるように現れる巨体。

40mはあるだろうか。

巨大なハサミを二本持った腕と、巨体を支え、ガシャンガシャンと歩く細い金属の脚。

それらを繋げる胴体は、アリ等の昆虫のそれを思わせる頭と胸、そして膨らんだ尻に別れている。


まるで、蜘蛛に蟹のハサミをつけ、巨大化させたかのような金属の巨大な怪物の姿が、そこにあった。



「嘘………メガマキナまで用意してるの!?」



………メガマキナ。


かつて、敵の要塞や、巨大なモンスターと戦う事を目的に作られた、巨大な搭乗型兵器の総称。


レッドスタッグやギュスターヴに搭載された魔法エンジンの祖である、魔力融合炉を搭載しており、

銃と並んで、勇者のもたらした「科学」によって生まれた存在の代表格。

我々の言葉で言うなら「巨大ロボット」と言えば、解りやすいだろうか。


本来、本国の軍隊以外での新規の建造は禁止されているが、軍隊や一部の金持ちが許可を取って個人所有している場合もある。

だがまさかオグマが持っているとは、ナギも予測できなかった。



『渇ぁーーーーつッ!!』



頭部のコックピットに乗り込んだオグマにより、その「ドルクス」と呼ばれるメガマキナが、その禍々しい巨体を起動する。



「危ないッ!!」

「わあっ!!」



振り上げられたハサミが、眼下のナギ向けて振り下ろされる。


村人と機動歩兵達は蜘蛛の子を散らすように逃げ、ナギは咄嗟に側にいたルシアンをレッドスタッグの後部座席に乗せ、アクセルを回してその場を離れた。



『逃げられると思うなァッ!!』



外部スピーカーから、オグマの怒号が響く。

ナギとルシアンを乗せ、館の外に出たレッドスタッグを追い、ドルクスは屋敷の塀を破壊して外に出た。



「あ、あれ………ッ!!」



ルシアンが、血相を変えてドルクスを指差した。

何事かと、ナギも振り向いた。

そこには。


ルシアンが指差していたのは、ドルクスの「尻」の部分。

そこにあったのは、パーツとして組み込まれた、緑色の液体で満たされたカプセル。

そして、その中に捕らわれた、一人の青年の姿。



「お兄ちゃん!!」



ルシアンが叫んだ。

ナギは、やはりかと察した。

同じ髪の色をしていた為まさかと思ったが、そこに居るのは、オグマに連れていかれたというルシアンの兄、ルシウスだった。


だが、何故あんな所にいるのだろう。

ナギの脳裏に浮かんだその疑問の答えは、直ぐに出た。



『受けろ!漢の一撃ィッ!!』



オグマの叫びが響いた瞬間、カプセルが紫色に発光し、ルシウスの表情が歪む。


ナギは、この現象を知っていた。

使い捨ての魔力電池等を使う時に見られる、魔力が抽出される現象だ。



『サンダーシザースッ!!』

「うわあっ!!」



次の瞬間、ハサミから雷のような光線が放たれる。

ドルクスから見て小さなレッドスタッグを仕留める為、広範囲に向けて放たれたそれは、大地をえぐり、破壊する。


運良く、レッドスタッグは助かった。

だが、ナギの表情には怒りが浮かんでいた。



「あいつ………ルシウスさんを電池代わりにしてるっていうの!?」



見た目からも、言動からも、オグマが魔法を使えるほど教養や才能があるようには思えない。

だが、ドルクスが放ったサンダーシザースなる光線は、どう見ても雷魔法のそれだ。


恐らく、ルシウスを電池兼杖代わりにして、魔法を使っているのだと推測できた。


実際、科学が持ち込まれて少し過ぎた頃に開発されたという「人間をエネルギーとして魔法を使う装置」が存在している。

昔ナギは、それを本で見た事があり、ルシウスが捕らわれている装置はそれとそっくりだった。


そして………その装置が、使い続ければ組み込まれた人間を殺すという事も、ナギは知っている。



『ははは!これぞ男道!男の花道よぉ!!』



高笑いをしながらサンダーシザースを放ち続けるオグマに対し、ナギの怒りが募る。

敵とはいえ女子二人の乗ったレッドスタッグを追い回しておいて、その上人間一人の命を食い物にしておいて、何故「男」を名乗れるのかと。


そして、ナギは決心した。

こういう輩には、それ相応の「報い」を受けさせなければならないと。

同時に、ルシウスも助けなければならないと。


何故なら、自分にはその為の「力」があるのだから。



「………ルシアンちゃん」

「な、何ですか?」

「しっかり捕まってて、それと、口もしっかり閉じて、目も閉じておいて!」



ルシアンが、言われた通りの事をした事を確認すると、ナギはドラグーンの光属性カードリッジを抜き、そこに別のカードリッジを装填する。


カードリッジには、何の属性のマークでもない、テンガロンハットのようなマークが描かれていた。

ナギは装填を終えると、ドラグーンの銃口を天に向けた。



「来なさい!"ジャンゴ"ッッ!!」



引き金が引かれる。

ヒュルルと音を立てて、銃口から射出された花火かロケット弾のような弾丸が、空高く舞い上がる。


そして、空を覆う雲の中にまで到達した、次の瞬間。



ドンッ!!



破裂音と共に、目映い光が広がった。

下を向いていたナギと、目も口も閉じていたルシアンは無事に済んだが、オグマはドルクスのモニター越しにそれを直視してしまう。



「な、何だ!?目眩ましかッ!?」



強力な光で視界を奪われた事から、オグマはそれを照明弾の類いか何かだと考えた。

だが、実はそうではない。



「………?」



目を閉じる中、ルシアンは確かに聞いた。

ゴオオ、という、こちらに迫ってくる飛行機の飛行音のような音を。


………その姿を最初に見たのは、ナギだ。

空を覆う分厚い雲を切り裂き、こちらに向かってくる、一機の機体。



ズゥウンッ!!



大地に降り立つは、ドルクスを上回る50mの巨体。

ドルクスと違い、それは手足が一対ずつ生え、二本足で直立した、人間の形をしていた。


太陽光を連想させるイエローのカラーリングで染められたその機体は、全身の至る所に動力パイプが露出し、スリムでありながら、どこか筋肉質にも見えるシルエットをしている。


赤い瞳の輝く頭部にはテンガロンハットのような意匠が施され、我々の世界で言う所の「西部劇のガンマン」のような印象を受ける。



「やあっ!!」



レッドスタッグが、空中に躍り出た。

瞬間、黄色の機体は頭部………テンガロンハットのような部分が開かれ、放たれた光がレッドスタッグを包み、頭部へと導く。

浮遊魔法を応用したシステムだ。


レッドスタッグが黄色の機体の頭部に、コックピットとして組み込まれる。

同時に、テンガロンハットが元の位置に戻り、ナギの眼前のモニターが点灯する。



『ぐぬぅ………き、貴様ァッ!?』



視力の回復したオグマは、眼前に立つ黄色い機体を前にして驚く。



「な、ナギさん!これは………?」



ナギと共にコックピットに座るルシアンもまた、ナギが呼び出したこの黄色い機体に、驚きを隠せない。



「この子は、ジャンゴ」

「ジャンゴ?」

「そう、私のメガマキナ………ジャンゴ!」



これこそが、ナギの持つ「力」。

バーミリオン家に代々伝わる象徴にして、後継者に与えられるメガマキナ。


時代ごとに改修と強化を繰り返してきた、かつて勇者が作り出した七体のメガマキナの一機。


本来は別の正式な名前があるが、ナギがこの機体に名付けるは「ジャンゴ」。

幼少のナギが読んだ、漫画の主人公に因んで付けた名だ。



『小癪なァ!!』



一方的な攻撃を楽しんでいたオグマが、相手もメガマキナを出してきた事に怒り、ドルクスを突撃させる。



『これでも食らえやっ!!サンダーシザースッ!!』



再び放たれるサンダーシザース。

だが、ジャンゴは足と一体化したホイールを回転させ、滑るように回避する。



『あ、アレがメガマキナの動きなのか!?ちいいっ!!』



サンダーシザースが通じないと解るや否や、オグマは次の手段に出た。

ドルクスの「尻」が上がり、備え付けられたハッチが展開し、中から弾頭が現れる。



『死ねやァ!!ミサイル発射ああっ!!』



四つのハッチから射出される、誘導式のミサイル弾。

ジャンゴが素早く動けるなら、誘導ミサイルで仕留めようと、オグマは考えた。


だが。



「考えが短絡的なのよッ!」



ミサイルの発射を確認すると、ナギはポーチに入れていた光属性のカードリッジを引き抜き、操縦桿となったレッドスタッグのハンドル部に差し込む。


すると、ジャンゴの両腕に格納された、ギガマキナ用の二丁拳銃が飛び出し、その手に握られる。



「行けぇッ!!」

「何ィッ!?」



オグマ、二度目の驚愕。

ジャンゴの握った二丁の拳銃「エナジーガン」から、輝く光の弾丸………光属性の魔法弾が撃ち出され、ミサイルを撃墜する。



メガマキナも、魔法銃と同じ魔法と科学のハイブリッドによる物。


特にこのジャンゴは、魔法銃が伝わるバーミリオン家の所有物なだけはあり、マジックカードリッジを装填する事で、魔法銃と同じように属性による攻撃が可能になるのだ。


今装填しているのは、光属性のカードリッジ。

その為、光属性弾による攻撃を行っているのだ。



「ま、まずいッ!!前が………!」



ミサイルによる攻撃を行った事を、オグマは後悔した。

着弾前に撃ち落とされたミサイルは、爆発し、その衝撃波が砂塵を巻き上げた。


ここは、乾いた大地、不毛の荒野。

少しの衝撃で、砂塵ぐらいすぐに上がる。

ドルクス………そして、それに乗るオグマの視界等奪えるほど、簡単に。


………突然視界を奪われ、パニックに陥るオグマ。

もし、ここで彼が「索敵センサーを頼りにする」という初歩的なアイデアを思い付いていたなら、勝敗は変わっていただろう。



「………オグマ、あなたは確かに「漢」だよ」



瞬間、砂塵を切り裂いてドルクスの前にジャンゴが突っ込んできた。


オグマが見た姿は、光属性カードリッジのもう一つの効果である「魔力によるエネルギーソード」を展開した、ジャンゴの姿だった。



「もっとも………「卑劣漢」って意味だけどね!!」



ずばあっ!


光の剣は、ドルクスを瞬時に切り裂いた。

まるで解体されるかのように、ハサミを、脚を、胴体を。


そして、本体と切り離されてジャンゴの手の中に落ちてきた、ルシウスが閉じ込められた生態ユニット。



『ば、馬鹿なッ!?真の漢であるこの俺がッ!小娘ごときにィィィッ!!』



オグマは、最後まで自分の敗北を、認めなかった。

そして、様々な所を切り裂かれた故に、ドルクスの内部のエネルギーは、行き場を失って暴走する。

そして。



………ズオオオッ!!



大爆発。

まるで、ルシアンが時々ルシウスと見ていたテレビ番組の怪物のように、爆発四散した。


あのオグマが、倒された。

目の前で起きた事実だが、ルシアンも、村人達も、それを現実として受け止められず、呆然としていた。



「………ああっ!あれ!」



その時、ルシアンが気付いた。

地平線の彼方、分厚い雲を引き裂くように走る、光を。

オグマが倒された事で、呪いが溶けたかのように現れた暖かさを。


間違いない、それは5年の間姿を消していた物。

ルシアンも、記憶の中ですら見た事がない、生命を育む光。

それは。



「………太陽だ!」



気がつけば、空を覆っていた雲は晴れ、5年ぶりの朝日が、人々を照らしていた。

オグマの支配が終わった事を、人々はこの日差しによってようやく受け止め、歓喜の叫びをあげている。


戦いを終えたジャンゴを称賛するように、その希望の光は、イエローの装甲をキラキラと照らしていた。


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