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GUN×SLASH×FANTASY  作者: なろうスパーク
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stage03「夜襲!」

自身の軍勢を働かせ、気持ちよく寝ていた館の主は、突然起きた爆発により叩き起こされた。



「何の騒ぎだ!」



苛立ちを隠す事なく、男は部下に怒鳴り付ける。

すると、部下は恐怖で萎縮しつつも、男に状況を知らせる。



「し、侵入者です!正門を爆破して、侵入者が現れましたッ!」

「何ィ!?」



男は、驚きを隠せなかった。

これまで、この屋敷に侵入者が現れた事など、無かったからだ。





………………





戦士の館・前庭。


といっても、金持ちの庭にあるような噴水や花園はなく、軍勢の訓練の為に使われる。

運動場のような広い土地が、ただ広がっているだけだ。



「くそっ!女一人どうって事は!」

「取り囲め!相手は一人だ!勝てない戦いではないっ!」



オグマの軍勢が、館に浸入したナギ向けて殺到する。


皆、近接戦闘用のバトンと、遠距離用の小型ライフルを手にし、特殊素材のアーマーを纏っている。

いわば「機動歩兵」とも言える存在だ。


本来なら戦闘のプロとして、たとえ冒険者が相手でも引けを取らない活躍を見せる。

だが、今回ばかりは勝手が違った。



「そらそらそらぁッ!!」



まるでロデオのように、ナギはレッドスタッグの車体を使い、近づいてきた機動歩兵達を薙ぎ倒し、払い退ける。


遠距離の相手に対しては、ドラグーンから放つ光属性の魔力弾を使い、射程外から攻撃。

接近を許さない。


ほぼ、無双状態である。

バイク………乗り物であるレッドスタッグですら武器として操り、ナギは機動歩兵の集団に対して、大立ち回りをこなしている。



………重ねて言うが彼等機動歩兵は、本来なら冒険者相手でも引けは取らない、戦闘のプロ達である。

では、何故ナギ一人にここまで押されているのか?


一つ目の理由としては、彼等が十分な休息を取っていない事が挙げられる。


確かに、彼等機動歩兵達は、オグマの元厳しい訓練や特訓を課せられる。

だがオグマは、彼等に与える休息の大切さを軽んじている傾向がある。


その為、まともな休息を取れないまま実戦に投入されるなんて事は日常茶飯事であり、彼等は疲れきった状態で戦う事になるのだ。


もし、彼等が十分な休息を取った万全の状態なら、この戦いの結果も変わっただろう。



そして、もう一つの理由は。



「このっ!囲んで棒で叩いてやれっ!」

「了解ッ!」



運良く、ドラグーンによる遠距離攻撃を潜り抜けた機動歩兵の部隊が、バトンを手にナギに接近戦を仕掛けた。


至近距離から数本のバトンが、ナギに向けて叩き込まれる。

360度から迫るバトンを前に、逃げ場は無いかに思われた。

だが。



「たぁッ!」

「何ぃっ!?」



バトンが叩き込まれる瞬間、ナギはレッドスタッグのシートを踏み台にして、天高く飛び上がった。


無人のシートにバトンが叩きつけられた時には、ナギは既に空中で、ドラグーンの銃口を機動歩兵達に向けていた。

そして。



「食らいなさいっ!!」

「がふぁっ!」

「みぎゃっ!!」



機動歩兵達の頭上から降り注ぐ、魔力弾丸の雨霰。

それはナギが自由落下する数秒の間に、彼女を攻撃しようとした機動歩兵に降り注ぎ、ダウンさせる。


そして、機動歩兵が全て倒れた頃には、ナギはレッドスタッグのシートの上に戻っていた。



二つ目の理由。

それは、ナギがバーミリオン家の血を引く存在であり、生まれつき戦う才能を持ち合わせていた事。


伊達に七大貴族の娘をやっている訳ではなく、それを名乗るに相応しい教育を受けているのだ。


いくら訓練を積んでいようとも、まともな休息を取らせて貰えていない機動歩兵に、遅れを取る訳がない。



「た、隊長………!」

「ぐう………っ!」



次々と倒されてゆく機動歩兵に、彼等を指揮していた隊長は震え上がる。


そもそも、精神論を振りかざしてきちんとした休息を取らせないオグマが原因なのだが、このまま負けてオグマの機嫌を損ねる事だけは避けたい隊長。


彼の取った手段は。



「ええい!タンクだ!タンクを出せッ!!」



隊長の指令により、館の奥から一機の巨大な影が現れた。

それは、キュラキュラと地面を抉りながら、その巨体をナギの前に現した。



「あれは………」



ナギは、その存在に見覚えがあり、名前も知っていた。


高さだけでも、5mはあるだろうか。

キャタピラと車輪で構成された、四本足の「車」部分に、両手を思わせる二問の銃口と、頭部を思わせる場所についた、雷属性魔法を応用したレールガン。


レッドスタッグと同じ、火属性魔法を応用したエンジン、その強化版を積んだこの人型ロボットと多脚戦車の合の子のような兵器は、その風貌から「ガン・ヘッド」の愛称で呼ばれている。



「さあやれっ!ギュスターヴ!あの女を血祭りにしろっ!!」



機動歩兵隊長が呼ぶ、その名を「ギュスターヴ」。

魔力式エンジンと、「AI」と呼ばれる自律型の人工知能を積んだ初の兵器であり、これもまた、勇者によってもたらされた「科学」の子の一つ。


本来なら「本国」の軍隊において、人々を守る力の象徴として運用されているこの無人戦車は、今はナギに対して純粋な破壊と暴力として向けられる。



「………やばっ」



そう、ナギが呟いた瞬間、ギュスターヴの頭部のレールガンが、ナギに向けて放たれた。



「うぉわああっ!?」



咄嗟に、レッドスタッグを走らせて逃げるナギ。

さっきまで彼女が居た場所にはギュスターヴの放ったレールガンが直撃し、爆発。

庭の地面を抉って、大きな穴を開けた。



「やばっ、あれが直撃したらまずいでしょ………!」



冷や汗をかくナギに対して、ギュスターヴの猛攻が続く。

今度は、逃げるナギに対して「両手」から光弾が放たれた。


これは、風属性魔法の応用である雷魔法を武器化した物で、ナギのドラグーンと同じように、こっちは雷属性の魔力の光弾を、マシンガンのように撃ち出す。


通常の魔法のように、攻撃力の強弱を変える事や、属性の変更こそ出来ない。

が、搭乗者ごとバイク程度を破壊するには、十分な威力を持つ。



「ひ、ひぃぃ~~っ!!」



そんな雷の魔力弾の雨あられの中を、必死に逃げ惑うナギとレッドスタッグ。


その様を見て、それまで蹂躙されるだけだった機動歩兵達は「やったぞ!」とでも言いたげな、嬉しそうな顔を浮かべている。


冷静に考えて、いくら魔法銃を持った貴族の血筋とはいえ、AI制御の多脚戦車相手にバイクに乗った少女が勝てる訳がないし、実際ナギは追い詰められている。



………もし、この作品がリアリティを優先させる作品なら、ナギは無惨に死んでいただろう。

だが、そうはならない。

何故ならナギは、この物語における主人公………すなわち、ヒーローだからだ。



必死に逃げ回り、ついにナギに逆転の時が訪れた。



「今だ!!」



アクセルを回し、レッドスタッグがスピードを上げ、なんと屋敷の壁を駆け上がる。

その姿に唖然とする機動歩兵達の前で、レッドスタッグが空中に躍り出る。


瞬間、ナギはベルトに取り付けていたポーチから、一本の信管のような物を取り出した。



………ここで、魔法銃の機能について、少しだけ解説しよう。


魔法銃というのは、言ってみれば「銃の形をした魔法の杖」である。


通常、魔法を使うには、杖や魔導書と言った媒体を持ち、呪文を唱える必要がある。

だが、魔法銃の場合はその必要がなく、使う魔法と属性を記録した「マジックカードリッジ」と呼ばれる信管状のアイテムをセットし、トリガーを引くだけでいい。



ただ、年配に多い、魔法に慣れた世代の場合は、カードリッジの取り替えが面倒臭く感じる場合もあるらしいが、ナギはこのカードリッジ式の方が慣れている若い世代。


素早く、元あった「光属性」のカードリッジを引き抜き、「火属性」のカードリッジに切り替える。


そして、レッドスタッグごと躍り出たギュスターヴの頭上にて、眼下のギュスターヴ目掛けて銃身を構え、トリガーを引く。


光属性のカードリッジが放つ弾丸は、チャージ可能な単発光弾。

なら、火属性のカードリッジが放つ弾丸は。



「せくしー・だいなまいっ♪」



放たれた深紅の弾丸は、ナギの狙い通り、ギュスターヴの「頭」と本体を繋ぐ境目に、すっぽりと侵入。

次の瞬間、ギュスターヴの「腕」の付け根や間接から、ボンッ!という音と共に爆発が走った。


………火属性のカードリッジで放たれる弾丸は、グレネード、すなわち「爆弾」である。


破壊力は抜群で、ナギはこれを利用し、ギュスターヴの装甲の隙間に撃ち込む事で、ギュスターヴを内側から破壊したのだ。



内側から破壊され、グラリと崩れ落ちるギュスターヴの前に、ギャギャギャとブレーキを鳴らしながら、ナギとレッドスタッグが着地する。



「そ、そんなッ!」

「ギュスターヴがやられるなんて………!」



その光景を前に、希望を見出だしていた機動歩兵達は、すっかり意気消沈してしまった。

自分達の切り札さえ、意図も簡単にやられてしまったのだから。


そして、泣きっ面に蜂とはよく言った物で、彼等にさらなる不幸が襲いかかった。



「ナギさーんッ!」



ギュスターヴを撃破したナギの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。

まさかと思い、ナギは声の聞こえた方向………ドラグーンで破壊した、館の門の方を見る。



「る、ルシアンちゃん!?」



そこに居たのは、なんとルシアンだった。

何故こんな所に?危険だから避難させなければ。

ナギの頭にそんな思考が走ったが、心配はなかった。



「今だ!乗り込めぇっ!」

「行けーっ!!」



ルシアンの背後から、次々とこの館に乗り込んでゆく、人、人、人。


民間の猟銃等で武装している者もいるが、基本的には一般人が武器を持っただけであり、機動歩兵のような兵隊とは言い難い、ゲリラのようだ。

ただ、その数だけは館内の機動歩兵よりも遥かに多く、見れば酒場で騒いでいた角刈り男とその取り巻きの姿もあった。



「これは、どういう………」

「ルシアンが呼び掛けたんですよ」

「ルシアンちゃんが?」



状況を理解できず混乱するナギに、人々と同じように、農具を武器代わりに握ったマルコが、説明をした。



あの時、この戦士の館に向かったナギを、実はルシアンが遠目で見ていた。


たった一人で向かったナギを心配に思ったルシアンは、村の人達を叩き起こし、ナギを助けに行くように言ったという。


最初は、オグマを恐れて尻込みをしていた村人達であったが、ルシアンの必死の訴えと、「バーミリオン家の後継者がついていれば勝てるのでは?」という希望から、村を挙げてナギを助けに行くという決定を下した。


そこに、事態を聞き付けた近隣の村の人々が加わり、オグマの軍勢に対する一大クーデターが実行される事になったのだ。



「ナギさんのお陰です!皆、オグマに立ち向かう勇気を出してくれたんですっ!」

「そ、そう、あはは………」



自分のせいでとんでもない事になってしまったという事と、村の人々が見せた勇気に対する感動と喜びが入り交じり、ナギは思わずはにかむのであった。



さて、そんなナギを他所に、館の庭に侵入した村人達は、機動歩兵部隊と対峙していた。


圧政を敷いたオグマの手先と対峙し、人々の怒りが爆発するかに思えたが、そうはならなかった。

そこに居た機動歩兵達は、支配下の村から税金代わりに連れてこられ、戦力となった村の若者達だったからだ。


自分の息子、あるいは兄弟や友人に対して、人々は攻撃する事は出来ない。

対する機動歩兵達からしても、彼等は見知った家族や隣人であり、握ったライフルの引き金を引く事など出来なかった。



「た、隊長………!」

「わかっている………!」



部隊を率いていた隊長も、そうして連れてこられた戦力の一人。

村人達が「もうやめよう」と目で訴える姿を前に、彼の心も揺らぎ切っていた。


もう、やめていいのか?


労働と訓練によるストレスと、村人達を前にして、隊長の頭にそんな考えが過る。

そして、それは彼の構えたライフルを、ゆっくりと下ろさせた。


その時。



「渇ぁーーーーつッ!!」



ばごおぉんッ!!


特大の、爆発音のような銃声が鳴り響いた。

そして気がつけば、隊長の腹が撃ち抜かれ、赤い血が滴り落ちていた。



「………がふうっ!?」



驚いた皆の視線が集中する中、隊長は何が起きたのかも理解できず、その場に倒れ込んだ。



「た、隊長ぉっ!?」

「え?!な、何ですかこれっ?!」



辺りがパニックに包まれようとしたその時、屋敷の屋根から雷のような大声が響いた。



「戦場に迷いを持ち込むなど、言語道断であるッ!!」



声のする方向へ、その場にいた全ての人々の視線が集中する。


そこに、屋敷の屋根の上でライフルを構えてこちらを見下ろしていた男こそ、ナギがこのアークガルドの地に来た理由の一つであり、圧政により人々を苦しめた元凶。



「オグマッ!!」



この屋敷の主、「オグマ」その人である。

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