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GUN×SLASH×FANTASY  作者: なろうスパーク
3/42

stage02「何故村から光が消えたのか」

一連の騒ぎが、ようやく収まってからの事。

ナギは、酒場の外をとぼとぼと歩いていた。



「うう、ツイてないなぁ、私………」



そう、ため息をつきながら悲しげに呟く事には、理由がある。


そもそも、酒場に入ったのは、彼女が酒場にある宿泊システムを利用する為だ。

だが、酒場にある宿泊用の部屋は、既に地元の客で全て埋まってしまっていた。


長い間、誰も冒険者が来なかった=本来の用途として誰も使わなかった事もあり、村においては主に「夜の店」に分類される所が、客を楽しませる為の個室代わりに使われていたのだ。


ナギのバーミリオン家としての権力を使い、立ち退かせるという手段もあった。

が、ナギはその選択肢を選ぶほど、傲慢な性格ではなかった。


だから、他に泊まれるような場所は無いかと探しているのだが、そう簡単には見つからない。


既に太陽は沈んでおり、気温も少々肌寒い。

これ以上歩くのは、体力を酷く消耗する恐れがあった。



「仕方ない、村の何処かで野宿するか………」



ホームレスのような事ではあるが、夜行性のモンスターに襲われる心配がないだけマシだと自分に言い聞かせ、ナギは丁度いい暖かさを持ったゴミ捨て場か何かはないかと辺りを見回す。

すると。



「あ、あの………っ」



ふと、声をかけられた。

角刈り男の時と違い、そこには謙虚さと大人しさがあり、また威圧的な男の声ではなく、あどけなさの残る幼く若い少女の声だった。


振り向くと、そこに居たのはやはりというか、小さな少女だった。

昔食べた紫芋のモンブランを思わせる、薄紫色のふわふわした髪と、くりくりした目をした可愛らしい顔立ちで、小さな身体でナギを見上げている。



「………お嬢ちゃん、こんな時間に外にいると危ないよ?私がお家まで送ろうか?」



ナギは、屈んで少女と目線を合わせて優しく語りかける。


彼女は特にロリコン趣味があるという訳ではなかったが、彼女の持つ善意と常識から考えて、夜遅くに子供が外に出ている事が危険だと考えての行動だった。



「ナギさん、ですよね………ナギ・バーミリオン」

「えっ?」



少女が、ナギの名をフルネームで呼ぶ。

この村で彼女の名を知っているのは、あの酒場にいる者達しかいないというのに。



「………あなた、あの酒場に居たの?」

「はいっ!お掃除のアルバイトをしてますっ!ルシアンと言います!」

「アルバイト、ね………」



この、「ルシアン」という少女は、あの酒場でアルバイトをしていて、彼女の名を知ったというのだ。


異国の地の価値観に対して、こちらの価値観でジャッジを下してはならない。


そんな、冒険者としての心構えは持っていた。

だが、こんな幼い子供が、あんな荒れた輩もいる店で、夜遅くまで働いている。

その現実に、ナギの心は少しだけ痛んだ。



「あ、あのっ、泊まる所が無くて困ってるんですよね?」

「えっ、まあ………」



そして、ナギが宿を使えなくて困っている事も見抜いていたようだ。

その洞察力のよさに感心しつつも、ナギの心にある期待が生まれる。



「よ、よかったら、わたしの家に泊まっていきませんか?」

「えっ!?いいの?!」



そして期待は、現実に変わった。

これで、ゴミ捨て場で野宿をせずに済む事となり、ナギは思わず飛び上がって喜ぶのであった。





………………





しばらく歩き、ナギは村の端にある小さな家にやってきた。

古ぼけた家であるが、その分「しっかりしている」という印象を受ける。



「いやはや、まさか本国の貴族の方にお越し頂けるとは、それなのに十分なもてなしも出来ず………」

「いえいえ、泊まらせて貰えるだけでも、十分ですよ」



ナギを迎えたのは、ルシアンの祖父の「マルコ」という初老の男だった。

時計屋の仕事をしているそうだが、身体はがっしりしていて、老いを感じさせない。


だが、居間のテーブルを挟んでナギの前に座る姿は「優しいおじいちゃん」という印象を抱かせる。



「ど、どうぞ………」

「ありがとう、ルシアンちゃん」



相変わらず緊張しつつ、ルシアンがナギの座る机に、ココアの入ったマグカップを置く。

ナギはマルコに礼をいいつつ、ココアを一口飲んだ。


暖かさと、ほんのりした甘みが口の中に広がる。

クリームソーダもいいが、寒さを味わった後ではこれが一番美味しく感じる。



「………マルコさん」

「はい、何でしょう?」

「お伺いしたい事があるのですが………」



突如、ナギの目が鋭くなる。


エリートの家系という事で、家の七光りだけの冒険者だと思われるかも知れない。

だが、ベテランには及ばないものの、彼女もまた冒険者。

それなりの「勘」という物があるのだ。



「この村、"何かありました"ね?」

「………随分と、勘のいい」

「まあ、冒険者として働いてると、色々解るようになるんですよ………」



流石は冒険者、隠し事はできない。

マルコは少し考えた後、ナギにこの村の現状について、話す事にした。



「………ルシアン、先に寝ていなさい」

「う、うん………」



そして、今からする話は、ルシアンの心の傷を抉る物でもある。

そう思ったマルコは、ルシアンに寝室に向かうよう………この話を聞かないように言った。


ルシアンも、マルコが言葉の裏に隠している事を大体察したのか、素直に言う事を聞いた。


そして、ルシアンが居間から出ていったのを確認し、マルコは少し躊躇った後、その重い口を開いた。



「………始まりは、5年前の事です」



それまでは、このミゲイルの村を含んだアークガルドの大地も、緑溢れる平和な場所だった。


だが、五年前から、突如としてアークガルドを暗雲が覆い、太陽が遮られてしまった。

その結果、木や作物は枯れ、アークガルドの自然はみるみる内に弱り、果ては狂暴なモンスターまで姿を現すようになった。


まるで、かつて魔王が支配していたような、暗黒の時代の再来とも言えた。



「そんなある日の事です、あの男が現れたのは」



突如、このミゲイルの村を含む、近隣の村を自らの領地として支配下に置くと宣言する、ある男が現れた。

男は自らを「オグマ」と名乗った。


当然、大国から派遣された訳でもない、何者かも解らない男の支配を素直に受け入れる訳にはいかない。

ミゲイルの村や近隣の村は、オグマに抵抗した。



「私達は、ほんの抗議のつもりだったのですが………帰って来たのは、暴力でした」



オグマは、自分に従わない村に対して、実力行使による制圧に乗り出した。

彼の率いる「軍勢」の力は凄まじく、また彼自身も、直接他の村に出向いて、その村の代表を殴り付ける等して従わせた。


こうして、オグマは数日もしない間に村を乗っ取り、自らの支配下に置いた。



「オグマが村々を支配してからは、我々の生活は変わってしまいました………」



オグマは、支配した村に対して重税を課した。

そしてそれが払えないなら、村の若い男子を差し出すように要求した。

自分の軍勢の戦力にする為だ。


このミゲイルの村は、付近に鉱脈のような資金になるような物はない。


近隣の村との物々交換の為に野菜や家畜を育ててはいるものの、太陽が遮られてからはその生産も滞ってしまっている。


結果、街の若い男子を差し出さねばならず、ミゲイルの村から貴重な働き手が居なくなってしまった。

このままでは、女子供と老人だけになった村は、近い将来滅びてしまうだろう。



「ルシアンの兄である、私の孫のルシウスも、税代わりにオグマの元へ連れ去られてしまいました………」

「そんな事が………」



マルコの目には、涙が浮かんでいた。


ナギには話さなかったものの、二人の両親、すなわち息子とその妻が二人を産んですぐ死んでしまい、マルコはルシアンとその兄ルシウスを実の子供のように可愛がっていた。


その内の一人が連れ去られたのだ。

悲しまない訳がない。



「本当………我々は、ここまでされなければならない程、悪い事をしたのでしょうか………」



ナギにも、全ては解らずとも、彼の悲しみは察する事は出来た。

同時に、何も出来ないマルコ自分に対する、やるせなさも。



「お兄ちゃん………ぐずっ………」



ただ、二人は物陰からひっそりとそれを聞き、同じように兄ルシウスを思い出して涙するルシアンが居た事には、気付いてはいなかった。





………………





それから少しして、ナギは一度眠った。

彼女に寝室として与えられた、元はルシアンの両親が使っていた部屋のベッドで、ぐっすりと。


そして目を覚ましたのは、就寝から四時間も経たぬ内だった。

我々の世界の人間がそうであるように、こちら側の人間からしても、十分な睡眠時間とはいえない。


だがナギにとっては、モンスターの襲撃に怯えながらの野宿をした時に比べると、ぐっすりと眠れた範疇に入る。



ベッドから起き上がり、耳を澄ます。

誰も起きていない事を確認し携帯を見ると、そこには4時30分と記録されている。


早朝。

「襲撃」を仕掛けるには、もってこいの時間だ。



「そろそろ、行こうか………」



一晩の宿をくれた事に対する、マルコとルシアンへの感謝の手紙を残し、ナギは誰にも気づかれないように、彼等の家の外に出る。


今一度、礼を言うように家の方に頭を下げると、ナギはレッドスタッグに股がり、アクセルを回す。

アークガルドの荒れた大地に砂塵をあげ、ナギを乗せたレッドスタッグは、荒野を疾走する。


向かう先はただ一つ。

この村を苦しめている根元にして、ナギが冒険者としてこのアークガルドの地にやってきた理由の一つ。


マルコから聞いた、暴君オグマの住まう屋敷だ。



………その様を、ごそごそと起きて見ていたルシアンに気付かずに、ナギはレッドスタッグを走らせた。





………………





それは、早朝の朝霧の中に、その雄々しい姿で佇んでいた。

我々の視点からして西洋建築に似た意匠で作られた巨大な館は「戦士の(せんしのやかた)」という名がつけられていた。


館の主たる男、オグマの居城であり、ミゲイルの村を始めとする近隣の村々を見下ろす場所にある、高台に建造されている。

風貌も立地も、まさに、支配者の館と言えるだろう。



「うう………眠い………」



そんな館の入り口。

庭に続く正門を見張る、二人の門番が居た。


彼等もまた、税金が払えないという理由に、オグマの軍勢の戦力として連れてこられた若い男子である。

まともに寝る事も許されず、ほぼ徹夜も同然の状況で、見張りをやらされている。


居眠りをすれば、オグマの鉄拳が待っている。

故に彼等は、足の痛みに耐えながら、寝ずの番をやらなければならないのだ。


………門番を増やせばいいと思う読者もいるだろうが、オグマとしては「根性を育てる為にそんな事はしない」との事。

オグマは、そういう男なのだ。



「………んん?」

「どうした?」

「いや、今バイクが通ったような………」



門番の一人が、そんな事を言い出した。



「バイクって、気のせいだろ?村の方にバイク持った奴なんか居ないだろ」

「そう、だよなぁ………」



もう一人の門番に言われ、門番はそれを見間違いだと結論付けた。

そうだ、村には重税がかけられ、若者もいない。

バイクなんて物があるわけがないのだ。


だから、ブオンブオンと聞こえるのも、霧の向こうから迫るサーチライトも、きっと気のせいだ。

その上に股がり、真っ直ぐこちらを目指して走ってくる少女も、いる訳が………。



「………んん??」



そこで、門番の二人は気付いた。

霧中の中で、視界で見えるぐらいの距離まで迫ってきて、ようやく。


こちらに迫ってくる深紅のバイク・レッドスタッグも、その上に股がる少女・ナギも、確かに現実に存在すると。



「さーて………」



ニヤリと笑い、ホルダーからドラグーンを引き抜き、構える。

刻まれたドラゴンの紋章が、彼女の身体を流れる魔力に反応し、光を放つ。


光が増すごとに、ドラグーンの銃口に魔力が充填されてゆく。

そして。



………ずわあっ!!



戦士の館の門は、まるでグレネードでもぶつけられたがごとく大爆発を起こす。



「な、何だ!?」



館内を警備していたオグマの軍勢の兵士達は、突然爆発を起こした門に驚き、集まってくる。


そこにあったのは、パラパラと落ちてくる門の残骸と、吹き飛ばされて倒れている二人の門番。

そして。



「どーも!カチコミに来ました!」



魔法銃ドラグーン片手に不敵に笑う、レッドスタッグに股がったナギ・バーミリオンの姿だった。

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