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GUN×SLASH×FANTASY  作者: なろうスパーク
2/42

stage01「魔法の銃を持つ少女」

「………あ」



寸前の所で「彼女」は目を覚ました。

相も変わらず空は暗雲に覆われ、本来大地に恵みをもたらす太陽は顔を出していない。


だからだろうか。

ポツポツと、雑草と枯れ草がまばらに生えたこの大地は、すっかり荒れ果ててしまっている。

少なくとも、ここで生命が命を育むのは至難だろう。



「寝ちゃってたんだ………また、あの夢を………」



むくり、と彼女は起き上がる。

一休みのつもりだったのだが、長旅の疲れで眠っていた。

その為か、身体のあちこちに肩こりに似た、僅な痛みと違和感を感じる。


が、時間は彼女に、起床後のストレッチをする間を与えてはくれない。



「日没まで後3時間、か………急がないと」



腕時計型の情報端末に表示された時間を見て、彼女は側に駐車していたバイクに股がる。



このバイク、ただのバイクではない。

火属性魔法を応用したエンジンを積んだ、放置しておけば動力が回復する、彼女の長旅のお供である。

彼女からは「レッドスタッグ」の名を与えられ、この荒れた大地における「足」として、重宝されている。



ブルンッ!という音と共に、エンジンに火が入り、レッドスタッグが起動する。

アクセルを回し「彼女」はマフラーを靡かせながら、荒野を駆けて行った………。





………………





その地の名は「アークガルド」。

西の方角に位置する、広大な大地。


古い言葉で「楽園」を意味するこの地は、かつては緑生い茂る、命の溢れる文字通りの楽園であった。


けれども、その姿は最早古い書物や記録媒体の中に、その姿を残すのみとなっている。


大地は荒れ、荒野が延々と広がる死の世界。

それが、今のアークガルドだ。





………………





時刻は、既に夕暮れ。

曇天ではあるが、空が暗くなった事で、既に太陽が沈んだ事は解る。


ただでさえ太陽が見えないアークガルドにおいて、日没は、急激な体温の低下と、狂暴な夜行性のモンスターとの遭遇という、二つの危険を意味している。


ので、人々は基本的に、夜に外を出歩く事はない。


………ある程度の安全が保証された、町や村を除いては。



「ウェヘヘーイ!酒だ酒だぁーっ!」

「ひひひ!えーひひ!」



ここは「ミゲイル」と呼ばれる村の、唯一の娯楽施設と言っていい、酒場。

こんな荒れた地で………いや、あれた地だからだろう。

人々は、夜の恐怖を忘れようとするかのごとく、酒を飲み、どんちゃん騒ぎを起こしている。


騒ぎの中心となるのは、酒に酔ったいかにもガラの悪そうな連中。

はっきり言って、不快な部分もあるが、暗い雰囲気よりはずっといいと、人々は彼等に合わせるか無視して飲むかして、酒場での夜を過ごしている。


今日もまた、この調子で朝まで飲み明かすのだろう。

そんな、この村において、ありきたりな毎日のルーティーンが待っていると思われた、その時。



………キィィ。



扉の開く音に、酒場に居た人々の視線が集中する。

理由は二つ。


一つは、新たに客が入ってくるには、あまりに時間が遅すぎるという事。

もう一つは、酒場に入ってきたのが女………しかも、こんな場所には不釣り合いな、俗な言い方をすれば美少女だったという事。



柑橘類を思わせるようなオレンジ色の髪は、所々に跳ねはあったものの、太陽のように美しい。

ぱっちりとした目には、夕焼けのような深紅の瞳が輝き、スラリとした体型は、男が喜ぶような「出っ張り」こそ無いものの、程よく鍛えられた健康的なセクシーさを感じさせる。


そこに、コルセットとワンピースを合わせたようなインナー………モンスター等の攻撃に対する防御の為の「カーボンコルセット」と呼ばれる、特殊なインナーの上から、オレンジ色のジャケットを羽織っている。

腰に巻いたベルトには、拳銃を収納するホルダーが取り付けられている。


頭には風や砂塵から目を守る為のゴーグルを巻き、腰を覆うミニスカートと、首に巻いた長いマフラーは、熱血という言葉の似合う深紅で染められている。


疲労から足を守る、丈夫で履き心地抜群のブーツ。

そして、彼女が手に巻いた腕時計型の情報端末………通称「携帯」が、彼女がただの客ではない事を物語る。



「………冒険者か」



酒場の客の一人が、呟いた。


冒険者………多くの場合、それは遥か昔のお伽噺の存在を思い浮かべるだろう。

だが実際には、今も立派な職業の一つとして存在している。


もっとも、お伽噺や歴史小説のような派手な活躍よりも、未開の地の調査や、モンスターの討伐、犯罪者の摘発等が主要な仕事である。


「本国」の通称で呼ばれる、大国を集めた「世界連合」と呼ばれる連合政府に、冒険者を管理する「ギルド」と呼ばれる組織があり、多くの場合はそこから派遣されてくる。



「マスター、ちょっといいですか?」



彼女は、自分に集まる視線を気にせず、真っ直ぐに酒場のマスターの元へと向かい、カウンターに腰掛けて声をかけた。



「冒険者としてのご利用ですか?」

「ええ、それと………喉が乾いたんで、何か飲み物を、出来ればお酒以外を頼みたいのですが」

「では、そのように」



営業中は絶えずどんちゃん騒ぎが起こる中でも冷静に仕事をこなすだけはある。

彼女の呼び掛けにも、マスターは紳士的な態度を崩さず答えた。



実は、この酒場もギルドの関連施設の一つ。

多くの場合、酒場やカフェといった場所は、ギルドの管理の元冒険者をサポートする為の施設としての一面を持っている。


冒険者の仕事を仲介したり、その仕事に応じた賞金を支払ったり、宿を貸してくれたりと、冒険者には無くてはならない施設である。


ただ、この場にいるこのミゲイルの村の住人達は、長い間ここを利用する冒険者がいなかった事もあり、話を交わす彼女とマスターを物珍しそうに見ていた。


そんな村人の奇異の目など知らぬとばかりに、彼女は椅子に腰掛け、店の奥に向かったマスターが飲み物を持ってくるのを待つ。


………このまま、何も起こらない事を願う彼女であったが、冒険者というのは何かしらのトラブルに巻き込まれるというのが、物語の常。

それは、彼女とて例外ではない。



「おい」



飲み物を待つ彼女の背後から、声が飛んできた。

何事か?と彼女が振り向く。


そこに立っていたのは、筋骨粒々とした体躯をレザージャケット等に包み、髪を派手なモヒカンやパンチパーマにした、見るからに暴力的な男達。


今にも「ヒャッハー!」と聞こえて来そうな、威圧感たっぷりの輩達が自分を取り囲んでいるにも関わらず、彼女は表情を崩す事はなかった。



「………私に何か?」



臆する事なくそう言ってみせた彼女に対し、輩達のリーダー格らしき角刈りの男が、眉間をぴくりと動かす。

そして彼女の隣の席にどっかりと腰掛けると、彼女の顔を覗き混むように睨んだ。



「………俺はなぁ、冒険者ってヤローが気に入らねぇんだ」



多くの場合、だから何だと返される発言を、角刈り男はその強面と、厳のような筋肉で「反論したら殺す」と威嚇しながら続ける。



「人の家に不法侵入しては物を物色する!遺跡に入ってはコソドロ!なにより、真面目に働いてねぇ癖に、俺達みてーな善良な働き者より人気を浴びるのも許せねぇし、何より、世間も知らないガキ共がてめえ等に憧れてるのを見ると、社会の為に許しちゃいけねーってのが身体にビンビン伝わってくるんだぜェ~~~~ッ!?」



遠回しに、彼女に対して暴言を浴びせる角刈り男。

取り巻きの輩達は、それを見てニヤニヤと笑っている。


けれども彼女は、そんな事は知らぬと言うかのように、澄ました顔でカウンターに座っている。



「………で?」

「あ?」

「それで、貴方方は私にどうしろと?」



それ所か、輩達に対して臆する様子すら見せずそう言い返してみせた。


そこに、輩達への苛立ちや悪意が無かったかというと嘘になる。

が、彼女としては、あくまで礼儀として愛想笑いで返したつもりだった。


だがそれは、案の定角刈りの男の神経を逆撫でした。



「あああ………ムカつく………やっぱ冒険者は腹立つぜェェェ~~~ッ!」



額に血管をピクピクと浮かべ、その大木………とまではいかないが、鍛え上げられた拳をボキボキと鳴らす。

彼等にとって、たとえ相手が女だったとしても、冒険者というだけで暴力を振るうには理由は十分だ。

ましてや、結果的に煽られたのであれば。



「てめえのような性悪女は………俺の拳で「修正」してやるよォォォ~~~~ッ!!」



ぶおんっ!と拳を振り上げ、角刈り男の強靭な拳が彼女目掛けて降り俺される。


彼女がいくら冒険者といっても、体格からして角刈り男の繰り出される拳を浴びれば、彼女も無事では済まない事は、見るに明らかであった。



ばきいっ!!



鈍い男と共に、角刈り男の繰り出した「修正」の一撃は、彼女の身体を殴り飛ばす………。



「………はあ?」



………事はなかった。


角刈り男の叩きつけた拳は、彼女ではなく、彼女の座っていた椅子を殴り砕いただけだった。


あの女はどこだ?

角刈り男が一瞬混乱した、その直後。



「それっ!」

「がふっ!?」



彼女は、なんと頭上から現れた。


種明かしをすると、彼女は拳が振り下ろされた瞬間、素早く天井に飛び上がり、照明にぶら下がってしばらく空中に留まり、油断した所を空中から奇襲を仕掛けたのだ。


彼女が消えたと思っていた角刈り男は、まんまと奇襲に引っ掛かり、後頭部を蹴りつけられながら地面に突っ伏した。


そして角刈り男の背中を踏みつけた彼女は、腰のホルダーから銃を引き抜き、角刈り男に突き付けた。



「どう!?まだやる気?」



降参しろ。彼女は遠回しにそう言った。

自分よりずっと大きい角刈り男を圧倒しただけでも凄いのだが、人々の関心を引いたのは、彼女の持っている銃である。


………銃。

それは勇者によって、外から持ち込まれた「科学」と呼ばれる技術体系の、いわば象徴。


まあ、銃その物は勇者が現れる以前から、現在マスケット銃と呼ばれるような物は存在していたのだが、勇者によって持ち込まれた科学により、それは目覚ましい発展を遂げた。


今、彼女が握っているような、小型かつ使い勝手もいい、訓練の浅い人間でも使えるような存在へと進化した。


今の時代においては、入手のし易さと威力から、人々にとっては身近な武器の一つ。

なら、何故彼女が持っている銃が注目を集めているのか?



理由は一つ、その銃が「魔法銃」と呼ばれる物だからだ。



元来こちらの世界にあった技術体系である「魔法」は、生まれついての才能や血統に左右される所があった。

その為、才能がなくとも誰でも行使できる科学が持ち込まれてからは、一般の人々の視点からは「衰退した物」と認識されている。



だが、魔法は完全に消えた訳ではない。


「本国」を動かしている七人の上流階級………「七大貴族」と呼ばれる七つの一族は、科学の力すら遥かに上回る、より高位かつ強大な魔法を操る。

その為、今現在でも絶対的な存在として、国の高位に君臨している。


そして、彼女が握っている魔法銃、拳銃タイプの「ドラグーン」は、そんな貴族の専用武器として、魔法と科学のハイブリッドとして産み出された物。


そして、魔法銃ドラグーンに刻まれた、ドラゴンの紋章。

これは、七大貴族………すなわち、勇者の血を引く高位の魔術師の家系の一つを表す紋章。



「バーミリオン家だ!バーミリオン家の、若き後継者………!」



「バーミリオン家」。

七つの貴族の中でも、特に強い力を持った、ドラゴンを家紋とする一族。

その次期後継者にして、貴族の代表としては珍しい、女性の魔術師。

名を。



「ナギ・バーミリオンだ!間違いないッ!」



そう、彼女の名は「ナギ・バーミリオン」。

バーミリオン家の後継者たる、16歳の、少女魔術師。


その姿を見て、輩達や酒場にいた人々は、恐れおののく。

ただの冒険者ならまだしも、七大貴族の、それも特に強いバーミリオン家の後継者を相手に喧嘩を吹っ掛けてしまったのだ。

特に角刈り男は、顔を真っ青にしてガタガタ震えている。



「お客様、クリームソーダです」

「あ、どーも」



だが彼女………ナギは、そんな周りの喧騒など知らぬとばかりに、踏みつけていた角刈り男から離れて、カウンターに戻ると、マスターが運んできたクリームソーダにありつく。

そして、刺さっていたスプーンで上に乗ったアイスを掬い、一口。



「う~~んッ!長旅の後のクリームソーダは最高ねッ!」



満面の笑みを浮かべて、クリームソーダを味わうナギ。

そんな落差の激しい彼女を前に、周りの人々はただただ呆然とするだけだった。



………同時に、そんな彼女を遠目から見つめる、小さな瞳があった。



「七大貴族………バーミリオン………あの人なら、きっと………!」



幼き瞳には、ただチョッカイをかけてきた男を軽く捻っただけの彼女も、神話の英雄のように見えていた。

同時に彼女こそが、この村を救ってくれるとも思えていた………。

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