ななのきゅう 回想
イナバと二人きりというのも、何の話をすればいいのかよく分からない。あっちは一仕事終えたみたいな感じでコーヒー飲んでるし。
「シンくんもありがとうね。」
「え、、あ。いえいえ。別にイナバさんのため、というわけでもないですし。」
あ、別にそんなこと言わなくてもよかったかな。イナバも失笑してる。
「正直者は損をするよ。まあ、そこがシンくんのいいところかもしれないけど。」
「……どうでしょうね。僕は結構口が災いの元になってることも多いと思いますけど。」
「でも、その口のおかげで私は助かった。だから、ありがとう。」
なんというか、ちょっと照れるな。
「そ、そもそもなんでイナバさんは皆と、えっと、仲直りしようとしてたんですか?」
「二人とは仲直りという感じじゃなかったけど。ともあれ、簡単に言うと再スタートのため。」
「再スタート、ですか。」
分かるような、分からないような。そもそもどこに向かってスタートするんだろうか。イナバもどういったものかと考えながら話している様子。
「そう。再スタート。未練を断ち切って、真っ当な道を進むための。」
「未練……。」
「思い知らされたからね、もう悪いことは出来ないって。あの子が見てるならなおさら。」
イナバは上を見る。自分を見ている誰かを見つめ返すように。
「あの子って、ゼンチさんですよね。」
イナバは僕の問いには答えず、僕の方を見ながらまたコーヒーをすする。
「あの子……というか『全知』の未来の見方って知ってる?」
それは前に聞いたことがある気がする。
「えっと……確か思い出すようにして見るって。聞いたのは未来の話じゃなかったですけど。」
そう、イナバは頷いた。
「それじゃあ、やっぱり一度に一つの未来しか見れないのか。」
イナバは顔をしかめる。
「それがどうしたんですか?」
「あの子、よく未来を確率で話すけど、それを計算するためには何度も未来を見ないといけないはず。具体的な感覚は分からないけど、今の話と合わせるなら何回も何回も同じことを思い出そうとする感じ。」
ため息交じりにイナバが言う。やったことはないけど、あまりやりたくはない、やろうとも思えない話だ。
「正確性にもよるけど、一秒に三回思い出すとしても五分程度ってところ。それをあの子は一分以内でやる。
「それは…・・早そうですね。」
「それだけじゃない。あの子の見る未来は、私が予知しても変わらない。私にとっては確定した未来でも、あの子の中ではまだ未来は不安定なまま。」
「それじゃあ、ゼンチさんよりイナバさんの方が未来はよく知ってるんですね。」
なんか変な話だけど、まあ汎用より専用の方が強いと考えるとそんなものかもしれない。そう思いながらゼンチさん救出作戦中の様子を思い出す。
「あれ、でもゼンチさんも。」
確かあの時、いつもと違って確定した未来を知っていた様子だった。イナバは自嘲的に笑う。
「そう。あの時あの子は私の見た未来を計算していた。」
……未来を計算で出す?
「私が予知したことは必ず起こる。それは、あの子の計算と現実に少なからず歪みを生む。3%しか起きないはずのことが連続で起きるとかね。その歪みを正せば、正確な未来が出る。」
確かにそれはおかしそうな。
「でもそれってかなり大変じゃないですか?」
「だから、私はやめたの。私が『予知』と知られては手の打ちようがない。奇襲がダメだったら、もう諦めるしかない。私にはあの子に勝つ術はないってね。」
それが改心した理由だと、イナバさんは遠い目をしながら笑った。諦観の笑み、というやつだろう。そして、ずいとこっちに顔を寄せる。
「ねえ、『全知』って皆そうなの?倒れても、鼻血を出しても、自分の意志を曲げたりしない。まるで――」
「あー!何近づいてんの!?ちょっと目を離した隙に!」
トイレから戻ってきたらしいコトが叫びながら近づいてきて、イナバを背もたれに押しつけながら自分の席に戻っていった。
後ろから来たタマのために僕は席を立った。
イナバがゼンチさんをどう思っていたのかは、結局聞けずじまいになった。
それから少し四人で他愛もない話をして、晩ご飯の時間も近くなったということでファミレスを離れることになった。
「私も半分出そうか?」
「いえ、元々今日は二人のお礼のためだったので。自分の分だけお願いします。」
「そう。ごめんなさい、邪魔しちゃって。」
「分かればいい。あとお兄は帰ったら話あるから。覚悟しといて。」
「帰ったらって、今日から僕は違う家に帰るんだけど。」
あっと言ってコトが露骨にへこんだ。今日くらいはとも思うけど、でも布団もないんだよな。
「まあ晩ご飯くらいは食べようかな。よく考えたら調理器具とかもないし。」
頭を掻きながら言う。ま、「たまに」が初日にあってもいいよね。




