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そのろく 延長戦

 民法第五条 

 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。

 2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

 3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

 優月ちゃんの母親、如月美保さんは紅茶を飲んでいる。ゼンチさんも口を開かずにコーヒーを飲む。一触即発……。正直トイレ行きたい。

 ようやくゼンチさんが口を開いた。

 「契約を取り消したい、というのはどういうことでしょうか。」

 「言葉の通りです。私はこちらの契約に同意したつもりはありません。」

 父親からの同意はあったはずだけど……口を挟める空気ではない。ゼンチさんの方を見ると、口を開こうとして、一度閉じた。

 「……そうは言われましても、困りますよ。もうこうしてナキちゃんもお渡ししています。」

 「それはそちらが先走って探しただけのことでしょう?」

 優月ちゃんが口を開こうとしたけど、母親からのひと睨みでまた小さくなってしまった。ゼンチさんは顔に出さないが、とてもイライラしているようだ。依頼人の前じゃなかったらぜったい舌打ちとかしてる。

 「……それではナキちゃんを元いたところに戻しましょうか。」「ダメ!」

 優月ちゃんがケージをぎゅっと抱いて首を振る。ゼンチさんは小さくため息をつく。

 「どうも一度皆さん落ち着いて話された方がよさそうですね。今日明日とナキちゃんを預かりますので、月曜にまたお話する、というのはいかがでしょうか。」

 美保さんの眉間の皺が深くなったが、優月ちゃんが裾を握っているのをみて深くため息をついた。

 「……そうですね。少し家で話し合います。」

 「では、ナキちゃんのご飯代をいただけるとありがたいのですが。」

 美保さんは舌打ちをして五千円札を一枚テーブルに置いた。

 「お釣りは要りません。それじゃ、また会いましょう。」

 それで美保さんがさっさと出口に行ってしまう。慌ててドアを開いて三人を通す。後ろの父親、宗介さんがぺこりと会釈をしてくる。

 「すみません、お世話様です。」

 「あ、いえいえ。そちらも大変で。」

 宗介さんは苦笑いを浮かべてそのまま帰って行った。


 *****


 客間に戻るとゼンチさんがものすごい勢いで貧乏揺すりをしていた。

 「まったくあの母親何様のつもりよ!あんな無理筋通るわけないでしょうが!」

 「やっぱり、お父さんからOK出てたからですか?」

 と聞くと、ゼンチさんは首をゆっくりと振った。

 「保護者の同意という意味では、両親(・・)の許可が要るから。でもそもそも、今回は本当は優月さんとの契約で十分だったの。お年玉で払える範囲だったからね。ただまあ金額が金額だったから理屈が付けばダメと言えることはできる……かも。」

 「かも?」

 「最終的には裁判所がどう判断するかだから。そこまで行く気も無いけど。」

 「でもだったらそう言えば良かったんじゃないですか?こんなややこしいことしないで。」

 ケージ越しに指を入れるとまた引っかかれそうになった。結構やんちゃな奴だ。

 「それで解決できるならそうするけど、単にこじれるだけでしょ、あれは。」

 美保さんの態度を思い出す。どこか余裕のない雰囲気。やり込めれば別のところで爆発させそうな。

 ゼンチさんがまたため息をつく。

 「何でも見えるってのも考え物よ。」

 「いっそ開き直っちゃえば。」

 「開き直れるなら今すぐ探偵業を廃業してもっと儲かることするわよ。」

 それもそうか。

 「つまり……ゼンチさんにとって、探偵業は人助けなんですね。」

 ゼンチさんはこっちを見てぱちくりとまばたきをして、残っていたコーヒーを流し込んだ。

 「どうかしら。私にとってじゃなくて、誰にとっても仕事は人助けなんだと思うけど。だからこそ私は私の力を最大限活かせる仕事に就いたつもり。」

 僕は……どうなんだろう。役に立ててるんだろうか。これがベストと言えるんだろうか。

 ゼンチさんは立ち上がって自分の席に戻っていく。

 「ともあれ、どうしましょうかね。ちょっと時間が取れたのはいいけど、正直ノープラン。」

 椅子に深く沈み込んで、チョコレートをかじっている。

 「普賢くん、悪いんだけど。」

 「分かってます。明日も来ますよ。猫の世話、ですよね。」

 ゼンチさんがパソコンの奥で手をひらひらと振ってくる。猫がにゃあと鳴いた。

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