そのに ゼンノーさんは背が高い
ゼンノーさんは身長二メートルはあろう大男だ。
その上髪も赤いもんだから大変目立つ。見た目的には街で見かけたら近づきたくないタイプだ。
しかしその実人好きのする笑顔を向ける、大型犬みたいな人でもある。
朝食の後片付けから戻ると、ゼンチさんはすでに『副業』に取りかかっていた。午前九時から十一時半まで、平日の朝はゼンチさんの能力を活かして投資をするのが日課だ。本当は探偵なんかしなくても残りの人生遊んで暮らしていけるとかいう話も聞いた。
ともあれ、こうなると証券所が締まるまではゼンチさんはパソコンの前につきっきりになる。その間暇なので、テレビを見たり、ゲームをしたり。
そういえばとゼンノーさんの方を見れば、すでにゲームの準備はバッチリだった。いつも思うが、依頼主も来る部屋に堂々とゲーム機があるのはどうなんだろう。
「おうシン、ゲームしようぜ。」
「いやですよ、絶対ゼンノーさんが勝つじゃないですか。」
ゼンノーさんは何でもできる。もちろんゲームだって、並大抵の人では太刀打ちできない。
ゼンチさんはにやりと笑いながらパッケージをこちらに向ける。
「それは……昨日でたばっかりの!」
対戦系ではなく、力を合わせて強敵を倒すタイプのアクションゲーム。役割ごとの協力がアツいという触れ込みの奴だ。
「これなら一緒に楽しめるだろ?」
僕だってゲームは好きだ。そのゲームだって気にはなっていた。しかし。ちらりとパソコンとにらめっこしているゼンチさんの方を見る。
「いや、でもここの掃除とかもしないとだし……。」
「いーのいーの、後でいくらでも時間取れるっしょ。」
ゼンノーさんはひょいとこっちに来て肩を組み、そのまま僕をソファーに押し込んだ。そして離れ際にコントローラーを渡される。
「しょうがないですね……ちょっとだけですよ。」
「よし、その言葉を待っていた!」
言うやいなやゼンノーさんはゲームを始めた。
当然、ちょっとだけ、では終わらなかった。良作だったからね。仕方がないね。
*****
熱中してゲームをやってたら、「あっ」「おっ」急に画面が暗くなった。
その真っ暗な画面の前にはホラー映画みたいに髪をだらりと流した女の子。いやゼンチさんだ。
「いつまでやってんの。」
「いやー、あはは。」
気がつけばもう十一時半。笑ってごまかしながらもゲーム機の方をちらりと見る。どうやらスタンバイにされたらしい。ちょっと優しい。
ゼンチさんはそのままゼンノーさんの座っているソファに座り、頭をゼンノーさんの膝の上に置く。イチャイチャカップルって感じの膝枕だけど、一メートル近い身長差がどうも親子に見せる。うーん。足も肘掛けの方に放り出しちゃってるし。ちょっとはしたない。
「なにアホなこと考えてんの普賢くん。」
「え、いやそんなこと。あそうだ、ほらゼンチさんチョコですよ。」
髪の間からこちらを睨み付けながらもチョコレートを受け取るゼンチさん。
「掃除、あと三〇分でよろしくね。」
「は、はい!」
「俺も手伝おう――」
ゼンノーさんが腰を浮かそうとすると、ゼンチさんがぐっとゼンノーさんのシャツを引っ張る。
「……悪い、シン。」
「いえ、掃除は僕の仕事ですから。」
ゼンチさんの頭をなでるゼンノーさんを横目に急いで掃除機をかける。ルンバくらい買えばいいのにとは思うけど、そうすると本当に僕の仕事がなくなるのでまあちょうどいい按配なのかもしれない。
部屋中に掃除機を掛けて、テーブルをから拭きしたところで正午五分前。ゼンチさんががばっと起きた。
「よし、今日も一日頑張りましょう!」
「今日は仕事来そうか?」
ゼンチさんはちょっと考えるそぶりを見せて、
「今日の仕事はアキラじゃなくて普賢くん向きかしらね。」
「……ふーん。」
それでちょっとだけゼンノーさんは口をとがらせた。ゼンノーさんは結構仕事好きでもあるのだ。
あるいは、単にゼンチさんの役に立ちたいだけなのかも。