08話 太陽のようなきみと
少し恥ずかしそうに口元を手で隠す様子にキュンとする。彼の一つ一つの行動が私の体温を上昇させた。
「あ、いや、変な意味じゃなくて傘のお礼もしたいし、今度メシでも行きませんか?」
「わ、私はお礼されるようなことは何も…。」
か、可愛くない。習慣とは怖いもので反射的にこんな事しか言えない私…(涙)
「…そうっすよね。いきなり知らないやつにそんなこと言われても困りますよね。」
ちょっと傷ついたような笑顔を見せる彼にこっちまで何故だか胸が締め付けられる。正直彼の若さからくる純粋さを目の当たりにすると、彼と私の間には感覚の違いとゆう高い壁があるんだと強く感じさせた。
…だけど、
自分を奮い立たせるためにキュッとくちびるを噛み、スマホを差し出す。
「…あの、じゃあ連絡先を。」
「…はい!」
一変して彼の表情が明るくなるのがわかった。彼は慌ててスマホを取り出しメッセージアプリを立ち上げた。私はQRコードを読み込み彼のアイコンが追加されるのを待った。
「…野球やってるんですか?」
追加されたアイコンには使い古した野球のグローブとボールが写っていた。
「はい、大学の部活で。この前も大きい大会あって。忙しかったんすけど。」
や、やっぱり大学生だった!
「…三崎さんのアイコンは…。」
「あ、この前のレストランでいただいた誕生日プレートです!とっても可愛くて美味しいケーキでした!」
「ありがとうございます。叔父に伝えておきます。」
話を聞くとあのレストランは叔父さんが経営しているお店で今回は臨時でバイトしていたらしい。彼の話す叔父さんはとても聡明で頼れる兄のような存在らしく、ケーキを褒めたことも自分のことのように喜んでいた。
駅に着くまでの間、彼は私が濡れないように気を遣っていたのか左肩が濡れていた。
「あの、ありがとうございました!」
私はカバンからタオルを取り出すと、
「肩結構ぬれてるので、拭いてください。」
そう言って彼にタオルを押しつけると、足早に1番線のホームに向かった。
「三崎さん!」
振り向くと彼が大きく手を振っている。
「後で連絡します!」
にかっと笑う笑顔がまるで太陽のように私の心を暖かくしてくれた。
最寄りの駅を下りるとスマホ画面にメッセージアプリのウィジェットが新着履歴を知らせた。
『橘です。家着きましたか?』
「…本当にメッセージ来た。」
スマホ画面をタップして返事を打つ。
『ちょうど駅を出たところです。あと10分くらいで着きます。今日は色々話せて楽しかったです。橘さんはもう家着きましたか?』
…なんか、長い気がする。打った文字を全て消すと、ちょっと素っ気ない気もするけど浮かれすぎもよくないと短い文章で返信した。
『もう着きます。今日はありがとうございました。』
すぐに既読の文字がついた。しばらくすると
『タオルありがとうございました。また連絡します。おやすみなさい。』
私からも『おやすみなさい。』の返信をする。それにしても今どき大学生ともなると、コミュニケーション能力も高いし、一度会ったらみな友だちみたいな感覚なのかな??私みたいなのに律儀にお礼なんて、人との繋がりとかやっぱり大事にする感じなのかな?
大学生とゆうことは最低でも10は違うってことだよね…。私が二十歳のときにランドセル背負った小学生ってことだよね。…は、犯罪じゃん!考えれば考えるほど年齢差が天にも届くほどの障害に思えて仕方ない。
ばふっ!シャワーを浴びてから、ベットに倒れこむと彼とのやりとりをもう一度見直す。少ししか話してないけどにじみでる人当たりの良さ。見た目だって一般的に言われるイケメン枠、服装も決めすぎず緩すぎず、とにかくモテ要素満載。
…それこそ、同世代に彼女がいてもおかしくない。
ずーーーん。
これ以上距離が近くなることで、知りたくない事実がじゃんじゃん出てくる想像しかできない自分はきっと今一番まともな思考回路であるに違いない。それでも彼のことをもっと知りたいと思っているのは事実。
「はぁ、…寝よ。」
そうだ、来週から本社研修だったな…色々資料準備しなきゃいけなかったし、明日は一本早い電車で行こうかな…。仕事のことを考え出すと一気に眠気に襲われ、すぐに深い眠りへと落ちていった。
人懐っこい年下男子とまではいきませんが、一馬にめ耳と尻尾が似合いそうです。基本的には空気を読む、しっかりものですが、彼女の前では態度が違うなんてのもそのうち書きたいです。