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きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
始まりの雨
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07話 雨のせい

レストランで橘さんに再開して二日後。閉店まであと1時間弱になり客足もまばらの店内を見回りしながら、二階から一階へと階段を降りてきた。


「あ、いたいた!三崎さん、三崎さん。」


村瀬さんが私を見つけるなり、駆け寄りながら小声で話しかけてきた。


「さっき傘の忘れ物のお客様が見えたよ。三崎さんのこと聞かれたから、今フロアを回っててもうすぐ降りてくるって伝えたんだけど、お礼だけ言って帰ってったよ。今ならまだ外にいるかもだけどどうする?」


橘さん来てたんだ!一目見たかったのに、タイミング悪すぎ!


「いえ、大丈夫です。傘、ちゃんと持ち主の方に戻ってよかったです。」


って!何が大丈夫でよかったのー??全然大丈夫じゃないし、よくもなーーーい!!せっかく橘さんに会えるチャンスだったのに。がーーーーん(涙)



「お疲れ様です。」


「お疲れ〜。」


閉店作業をして書店をでたのは22時を回ったところだった。スマホを取り出してイヤホンをつなぎ、今気に入っているプレイリストを再生させる。駅まで5分の道のりも、なんだか今日は足取りも遅くやけに遠く感じた。


ヴーー、ヴーー、ヴーー。


着信に気を取られた瞬間、人と肩がぶつかりスマホを落としそうになった。


「す、すいません。」

「ごめんなさい。大丈夫っすか?」


同時に口にすると顔を上げた瞬間視線がぶつかった。そこに立っていたのは、今このときこの場所にいるはずもない橘さんだった。どうしよう、会いたすぎて幻見え始めたのかも…!


「三崎、さん?」


声まで聞こえる。これはもう夢か何かなのかな…、ぼやーとしていると、急に腕を引かれた。


「危ないからこっちに。」


私の横を自転車が通過した。え、え、えーーーー!!!ま、まさか本物!!


「た、橘さん?どうしてここに??」


腕を引いた手を離すと、


「三崎さんに傘のお礼を直接言いたくて、えっと村瀬さん?ってゆう髪が肩くらいの店員さんが、三崎さんこの駅使うって聞いたんで、…迷惑かもしれないけど待ってました。」


村瀬さん!ナイス(涙)


すると、橘さんは傘を持ち上げて、


「これ、ちゃんと受け取ったんで。ありがとうございました。」


とあどけない笑顔で微笑んだ。ズキュン!!!今なんかフィルターかかった。


「よ、よかったです!大事な物と伺っていたので。」


お互い要件を済ませ、もう話す事がなくなってしまい沈黙が続く。これでもう会う機会もなくなっちゃう。本当にいいのーー!?なんか会話、会話、会話!!ぐるぐる考えた結果、とっさに


「えっと、今日は久々に雨降りませんでしたね!」


って、天気の話題とかどんなんよ。今ばかりは自分のコミュ力を呪った。


「そうっすね…。」


再び沈黙。何でもいいから話題考えなきゃ、天気は失敗、今日は何してた?って彼女でもあるまいし。そう考えると2人の間には共通の話題とゆうものが見当たらない。そうだ、あのレストランのことなら…


「あ、あの…。」


ポツ、ポツ、…ポツポツ…。空を見上げるとどんよりとした雲から雨粒が一つ、二つと落ちてきた。なんてタイミング!えー、雨降ってきちゃった。今日予報は曇りだったから傘持ってないけど、駅まですぐだから走ればなんとか…。バサッ!


「駅ですよね?濡れるんで入ってください。」


目の前には先程の傘を開き少しこちらに傾ける橘さんがいた。いや、さすがに相合傘とか心臓もたない、絶対ムリムリムリムリムリムリ…!!


「え、駅まで走ったらすぐだから、だ、大丈夫です。」


うん、我ながら可愛げない回答。でも仕方ない、私の恋愛スキルはそんなもんだ。


「ダメっす。風邪でもひいたりしたら仕事に支障でます。…もし俺と一緒が嫌だったら傘貸すんで。」


まじか!?そんな正論で迫られたら、ましてや私が橘さんのこと嫌だと思われるのなんて論外!絶対断れないじゃん!…俯くと勇気を出して一歩前に出ると彼の傘に申し訳程度に入った。顔を上げ


「あ、…ありがとうございます。」


お礼を言うと橘さんはなぜか可笑しそうにしている。ずいっと彼が距離を詰め私が濡れないように傘を傾けた。


「はい。どういたしまして。」


傘を持つ彼の手が目の前に…こうしてみるとごつごつとした大きな手…。今までにないその距離感にどうにかなってしまいそうだ。


「三崎さんって本当に恥ずかしがり屋っすね。けど、お礼を言うときはちゃんと相手の目をしっかり見てる。すごい真面目なの伝わります。」


まさか、橘さんに褒められてる!?は、恥ずかしい。彼の言葉にどう反応すればいいのかわからず俯いた。


「…て、すいません。彼氏いるのにこの状況。緊急事態って事で勘弁してください。…じゃ、行きますか。」


彼氏?私いつの間に彼氏もちになってたっけ?頭が追ていかず促されるままに彼の横を駅に向け歩き出した。


「そういえば、彼氏さん元気ですか?」


またもや謎の人物の話に私が怪訝そうな顔をすると、


「あ、すいません。急に立ち入ったこと聞いて。レストランで一緒にいた人、なんかスーツさらっと着こなしててかっこよかったっす。しかも、三崎さんのことめっちゃ好きなの伝わってきました。」


レストラン…?え?それって康介のこと!?てか、どこから突っ込んだらいいのやら。なんかすっごい勘違いされてる。


「あ、あの、この前レストランで一緒にいたのは私の幼馴染で全くそうゆう関係ではなくて…。しかも、彼は彼女もちです!だから橘さんが思ってるようなことはなくて…。私も彼氏いないんで…。」


彼氏いない宣言とか恥ずかしすぎる!けど橘さんに誤解されたままでは元も子もない。背に腹はかえられない。私が康介との関係を全力で否定すると、彼は手で顔をおおい、うつむいたかと思うと盛大な溜め息をもらした。


「た、橘さん?」


どうしよう!?まさか呆れられた?少しすると彼が顔をあげる。今までと違う空気をまとった彼にドキッと胸がなった。


「…それなら俺、また三崎さんに会いたいって思ってます。」


「…え?」

雨のせいです。2人の距離急接近しました。

奈央のモテない女っぷり全開。甘えられない典型見本みたいな真面目な性格は、時々生きにくさを感じてなりません。もっと甘えたらいいのに、なんて本人もわかってはいるんですが…。


一方一馬は若さなのか性格なのかいつも直球で気持ちがいい。

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