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きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
第二章
48/51

令和元年SP☆鈴木めぐるの恋愛事情

めぐるちゃんと伊東マネの出会いです。

私は自分で言うのもなんだが、そこそこ可愛い部類の女子大生だ。小さい頃からファッションやメイクに興味があって、それなりに努力もしてきた。


「いらっしゃいませー」


なぜそんな私がこんな地味な『書店員』のバイトをしているかというと、


「鈴木さん、これラッピング頼める?」


「またですか? たまには自分でやったらどうなんですか?」


少し面倒くさそうにしてみる。ほんとなら可愛く返事をしたいのだが、何故だかこの人にはそうゆう素直な態度が取れないのだ。


いや、普段何でもない相手なら自分を可愛く見せるのなんて容易い事なのに……。


「鈴木さん、これ得意やろ? 適材適所ってやつやん」


「……そうですね! さすがマネージャー!」


半ば投げやりに返事をした。多分この人の目に私はただの部下としてしか映っていない。そこら辺のちやほやしてくる馬鹿な男たちとも違う。


どうしたものか……。ふと窓の外を見ると雨が降り出したところだった。あの日もこんな天気だった。


「ありがとうございました」


久々に本屋にやってきた私は降り出した雨に気がついた。最近はネットで本を買うことが多かったが、この本だけはネットでなかなか見つからず書店予約をしていたのだった。


朝の天気予報だと雨降るなんて言ってなかったのに……。傘持ってないし。これくらいの雨なら駅まで走ればなんとかなるかな? さっき購入したばかりの本が濡れないようカバンに入れると走り出す準備をした。


「あの」


後ろから声をかけられ振り向くと、書店のロゴが入ったエプロンをかけた男性がいた。声をかけられることには慣れていて大して驚きもしなかった。


「何か?」


「雨の中走っていくの?」


よく見るとその男性は手に傘を持っている。もしかしてわざわざ傘を持ってきてくれたとか?


「はい、傘忘れちゃって」


ここまで言いやすい雰囲気を作ればすぐにでも申し出があるだろう。


「ほな、気をつけて」


「え!?」


思わず心の声が出てしまって口を押さえる。


「何か?」


とぼけてるようでこの人、私と同じ匂いがする。


「くくく……冗談や。ほれ、持ってき」


その男性はおかしそうお腹をかかえると、ほいっと傘を私に放った。


「え? でも!」


「その傘買い替えようと思うて、いらんくなったら処分してくれてええから」


傘は黒の普通の傘だったが、ほとんど傷もなく綺麗なものだった。私は素直に傘を受け取ると、その男性にお辞儀をして駅に向かった。


最後にチラッと見えた胸のネームプレートには『伊東』と書かれていた。あのときから私は伊東さんを思い続けている。伊東さんを追ってバイトを始めたなんて口が裂けても言えない。


「鈴木さん、終わった?」


「あ、はい。これでいいですか?」


不思議な顔で伊東さんが私を見ている。


「な、何ですか!?」


「いーや、いっつもこうゆうん頼むともうちょい怒ってんのに、今日はやけに素直やなと思って」


しまった! 昔のことを考えてたらつい! て、気づいたら伊東さんに頭ポンポンされてる!?


「そっちはそっちで可愛いやん」


「っな!!」


恥ずかしさで頰が熱くなるのがわかった。そんなこんなで振り回されるばかりだけど、私はこの関係もまぁまぁ気に入っている。


「覚悟しておいてくださいよ」


そう伊東さんの背中に呟いた。いつか、私のほんとの気持ちを伝えられる日がくることを祈るばかりだった。

今日は雨です。しかも少し肌寒い。今日もゴロゴロしようかな……。

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