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きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
第二章
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13話 似た者同士

目の前にいる八神さんを懐かしく思うのと同時に、ここにいない一馬くんに今すぐに会いたいと思う自分にその場で立ち尽くす。


「……奈央」


優しく私の名前を呼んだ八神さんが手を差し出す。すごい甘い香りに誘われた蝶のような気分になり、心までもっていかれそうになる。


しかし、この手を取ったところで、あの頃に戻れるわけじゃない。


「やめてください。私たちの関係はとっくの昔に終わってるじゃないですか」


精一杯の笑顔で彼に答えた。ちゃんと笑えてるだろうか?


「今もそんな風に無理して笑ってるんだね。……昔から辛いことがあるとそうやって笑顔で返してくる」


「っ! そんなこと……」


「ごめん、その笑顔に甘えてたのは僕自身なのにね……でも、許されるのなら僕はまた君とやり直したい。もう二度と君を離さない。だから、僕のそばにいてほしい」


私の中で整理されていない感情ががんじがらめになる。そんなプロポーズまがいのことを言われても、いったい私は何て言えばいいの?


「……でも、私たちはもう、終わった関係で……」


頭が混乱して、うつむきながらさっきと同じ言葉を繰り返す。まるで、そうでなければいけないと言う自分への戒めのように。


「もう、黙って」


そう言うと八神さんは私のほほに触れ唇を近づける。八神さんの視線を落としたときに見える長いまつ毛や筋の通った鼻先、薄めの唇はいつも私を翻弄した。


八神さんの唇が優しく触れる。ちゅっと軽く音をたて八神さんの唇は離れていった。


「彼氏がいるのにこんなことしてごめん。でも僕の気持ちはあの頃と何も変わってないから。だから時間がかかっても僕は奈央のこと待つつもりだよ」


こんなに真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれる八神さんは初めてだった。いつもどこか余裕のある感じで、追いかけてばかりの私。八神さんに釣り合う女性になれるように努力してた。でもどこかで本心を見せてくれない彼に不安が募っていった。


結局、お見合いの話があってもなくても、私は八神さんに素直に甘えられなかったし、不安に負けて別れを切り出していたかもしれない。


もう恋愛なんてしないと思っていたあの雨の日、一馬くんに一目惚れした。最初はすれ違いもあったけど、ちゃんと二人で話しも出来るようになってきた。思ってることも一馬くんになら話せた。


あの花火の日、一馬くんが話を遮ったのにはきっと理由があったに違いない。


「……わたし、ちゃんとまだ話をしてない……」


「え?」


「ごめんなさい。八神さんとの事はとっても大切な思い出だし、今でももしかしたら八神さんのこと好きかもしれません。……でも私やっぱり、今の彼を大切にしたいんです」


八神さんの瞳から目を逸らさず真剣に話すと、ふと八神さんの目元が緩んだ。


「やっと、奈央が本当の気持ちを僕に話してくれたね」


その言葉の意味は今ならよくわかる。涙が出そうなのをぐっとこらえ、八神さんと向き合う。


「僕たちは似た者同士だから、言わなくてもよく理解し合えてたと思ってたんだ。でもやっぱり、君に頼りにされたい、甘えられたいと思うようになってもどうしていいかわからなかったんだ。だから君には無理をさせたね」


「そんなことないです」


「ありがとう、あの頃お互いにちゃんと話し合える関係でなければいけなかったとすごく後悔したよ。今の彼には奈央も言いたいこと言えてるんだね。なんだか羨ましいよ」


言い返す言葉もなく赤面する。


「でも、彼まだ大学生なんだよね?」


「な、何でそれを!?」


「僕の情報網をなめないでほしいね。とりあえず僕にもまだチャンスはありそうかな? もし、今の彼と上手くいかなかったときは僕のところへ帰っておいで。当分僕は奈央以外と付き合うつもりはないからね」


「そんなことにはなりませんから」


とは言ったものの、この前のことも今日のこともどうやって説明したらいいんだろう。私の気持ちが少しでも揺れてしまったこと、八神さんとキスをしたことは事実であり言い訳出来ることではない。後ろめたい気持ちを抱えたまま八神さんと別れた。

今日は昨日の反省を生かし、1日アクティブに過ごせ大満足。しかし、思いのほか疲れた-_-b

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