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きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
第二章
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11話 金時計

「三崎さん、あなたの指導担当する菅原すがわらよ。分からないことがあったら何でも聞いていいから」


「あー、菅原です………………じゃ」


え? 今何て!? すごいダラーっとしたやる気のなさそうな……いや、自然体のこの人が私の指導担当!?


「あ、三崎です。よろしくお願い……」


て、もういないー!! 蓬莱ほうらい部長もいないー!! 初日からこんなんで私やっていけるのかな……。


9月1日付で四つ葉書店本社出版部に異動となった。部長の蓬莱さんは伊東さんが言っていたように仕事の鬼? っぽいことがわかった。でも無駄のないスマートな仕事ぶりは伊東さんが憧れるのもわかる気がする。


で、指導担当の菅原さんは……席にいない! トイレとかかな? 10分経っても20分経っても帰ってくる気配がない。書類もあがったし確認してもらわないといけないのに。


「あの、菅原さんをさがしてるんですけど……」


隣のデスクの佐倉さんに尋ねてみた。


「えっと、菅原さんはさっきエレベーターですれ違ったよ。この時間だと黒宮先生のとこじゃなかったっけ?」


そ、それって私も行かなきゃいけないやつじゃなかったっけ!? デスクから鞄をひっつかむとエレベーターへ急いだ。こうゆうときに限って全然のぼってこないエレベーターの階数表示を睨みながら、一言声くらいかけてくれたっていいのに! と心の中で悪態をつく。


会社のエントランスを抜け、外に出ると先の信号に菅原さんの姿を見つけた。私は人込みの中、菅原さんを見失わないように急いで後を追う。


「す、菅原さん! 待ってください!」


菅原さんは一度振り向いたものの何ごとも無かったかのようにスタスタと先を急ぐ。む、無視!?


「あ、あの!」


私はさっきより大きな声で菅原さんを呼ぶと、逃げられないように腕を掴んだ。


「…………何?」


「いや、何って聞かれても、黒宮先生のところに行くなら声くらいかけてくれたっていいんじゃないのかなーって」


「…………あれ」


菅原さんが指差す方を向くと老舗の和菓子店があった。店の外は行列ができ今の時間限定の商品が出ているようだった。


「…………じゃ」


「え!? 並ぶってことですか? 黒宮先生のところに行くんじゃ……あ! もしかして黒宮先生のところに持っていくための?」


菅原さんが頷く。


「何だ! それなら新人の私が買ってくるので言ってください。」


「……歳が三つも上の人に物は頼めません。間違えられたりしても面倒だし。」


かる〜くおばさん扱いか!? 人を無能呼ばわりして……はじめてのお使いじゃあるまいしそれくらいやれますけど、何か? このとき奈央の元編集魂に火がついたのだった。


無事、黒宮先生との打ち合わせも終わり雑務をこなしていると珍しい人から連絡がきていた。折り返し電話をかけるために休憩室へ向かう。二度目の呼び出しで相手の声が聞こえた。


「伊東さん、お久しぶりです。何かありましたか?」


「あー、実は三崎さんの手帳とボールペンがスタッフルームに忘れてあって、送ってもよかったんだけど今日そっちの方に行く用があったから店長に頼まれて」


確かにずっと探しててもう出てこないと思ってた手帳とボールペンだったから助かる。


「すみません! お手数おかけして」


「で、今日は何時に上がれそう?」


「あ、初日なんで部長が今日は定時上がりでいいって」


「じゃ、それくらいの時間に社屋前、石畳みの金時計前で」


伊東さんと通話を切り定時まで仕事をこなす。でも社屋前に金時計なんてあったっけ?


「三崎さん、今日は初日だしそろそろ上がっていいわよ」


「あ、はい!」


そういえば蓬莱さんは勤務年数も長いし、金時計のこと知ってるかな?


「あ、あの部長、ちょっと社について伺いたいのですが……今日ちょっと人と待ち合わせがあって、その人が社屋前の石畳みの金時計でって言っていたんですが社屋前にそんなものありますか?」


「石畳みの金時計……それは、彼氏か何か?」


一瞬蓬莱さんの表情が変わった気がした。


「い、いえ。支店の元上司です! 忘れ物届けてくれるみたいで」


「そう……金時計は6年前に老朽化で撤去されたの。ちょうど噴水広場の辺りだわ。その待ち合わせの彼に伝言いいかしら?」

勤務初日から指導担当菅原に不安を覚える奈央。部長蓬莱との関係はどうなるのか?

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