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きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
第二章
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9話 告白

奈央と会わなくなって一週間が過ぎようとしていた。もやもやした胸のわだかまりは無くなることはなく、日増しに増殖しているようだった。


「康介さん!」


居ても立っても居られなくなった俺は、康介さんに会いに会社まで来たのだ。


「あれ? ……一馬くん? こんな遅くにここで何やってるの?」


「康介さんに聞きたいことがあって。それで……」


「おいで、送ってくから」


スーツ姿の康介さんは、車の鍵を取り出すと近くの駐車場に向かった。俺は後を追った。


「それで? 俺に聞きたいことって?」


車に乗り込むと康介さんがエンジンをかける。ゆっくりと駐車場を出ると、夜の街を走り始めた。


「八神翔さんって、三崎さんとはどうゆう関係だったか知ってますか?」


とっさに『三崎さん』と言ったのは呼び慣れていないのもあったが、康介さんの『奈央』に比べて薄っぺらく恥ずかしく感じたからだった。『八神』と聞いて、一瞬康介さんの表情がこわばるのがわかった。


「その名前どこで?」


「この前偶然会うことがあって……その……」


どこから話し始めたらいいのか考えていると、康介さんが話し始める。


「奈央は何て?」


「いや、三崎さんには何か聞けなくて」


「それなら俺から話すことはないよ。これは奈央と一馬くんの問題であって俺が余計な口を挟むのは違うと思う」


康介さんなら何か知っていて話が聞けるのではないかと思った自分の考えの甘さに恥ずかしくなる。


「……でも、あいつに会って奈央が平気なはずないんだ。一馬くんが側にいて気にかけていて欲しい」


「……え?」


気づくと家の近所まで来ていた。康介さんは近くの公園に車をとめる。


「もう少しだけ、話出来るかな?」


俺は車を降りると公園に続く遊歩道にあるベンチに座る。康介さんが飲み物を買ってきてくれた。


「ありがとうございます」


「……詳しくは話せないんだけど、奈央はあの性格だから昔から何かあっても自分の中で解決しようとしてしまう。八神との事もある日突然、奈央が倒れたことで現状を知った」


康介さんは嫌なことを思い出すかのように表情が歪む。


「俺はもう、あんな奈央を見るのは嫌なんだ。あの時は死ぬほど後悔したし、自分の無力さに自暴自棄になった。さっきは一馬くんに任すみたいな言い方したけど、君に出来ればの話だ。俺は、本当ならこの手で奈央を守りたい」


「それって……」


ふっと、笑うと康介さんは立ち上がった。


「あの時は側にいるのが精一杯だった。それ以上踏み込んだら奈央が壊れる気がして。……その後も恋愛をどこか敬遠している奈央を近くで見守ってきたんだ。そんなとき君が現れた」


奈央が八神さんとの間に何かあって、それを引きずって今まで生活していたという。それまでどこか『付き合う』ことに関して避けていた奈央が、あの雨の日俺を引き止めるのにどれだけの勇気がいったのか俺には想像も出来なかった。


「俺はいつでも奈央の味方だ。たとえ世界を敵に回しても。だから君が奈央に相応しくないと思えば、今度こそ俺は奈央を自分の手で守るよ」


康介さんの告白に余計と胸が締め付けられた。


「はは。俺何やってんだろ……」


自分の不甲斐なさに心底うんざりする。八神さんに会って奈央が今どんな気持ちでいるのか……、あんな場面を見たことで自分自身のことでいっぱいいっぱいだったが今やっと気がついた。


「俺、きっと奈央を傷つけました。花火大会の日、奈央が八神さんに抱きしめられてるのを見て動揺して……その後、奈央が何か話をしようとしてたのに聞いてやれなかった」


「お前っ!!」


康介さんは俺の胸ぐらを掴むと、やりきれない表情で俺を見た。


「でも! 俺も奈央が一番大切で、他の誰でもない俺の手で彼女を守りたい」


わかってもらえないことも承知の上で、俺の気持ちを康介さんにぶつける。胸ぐらを掴んでいた手を乱暴に離すと康介さんはベンチに座った。いつも冷静な康介さんがここまで取り乱すほど、康介さんの中にある奈央の存在は大きいことを思い知らされる。


「ここまで話したんだ。次は無いと思え」


康介さんにお礼を言い別れると、俺はその足で奈央のアパートに向かった。

康介の戦線布告に、奈央の置かれている状況を改めて認識した一馬だった。康介が今まで奈央のことを大切に思い見守ってきたことを聞いた一馬は自分の不甲斐なさを痛感した。


あの出来事から一週間、奈央は八神との再会のこと、本社への異動のこと……一馬のことをもう一度再考する機会がやってきた。

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