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きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
第二章
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07話 忠犬

「ただいまー」


実家のドアを開けると、玄関に見覚えのない女物の靴がきちっと揃えられていた。


「あ、一馬おかえり! 今日は遅かったのね。今、あんたにお客さん来てる」


は? 俺に客?


「何で黙ってたの! あんな美人、ちゃんと紹介してよ!」


母さんが近づいて小声で俺に訴える。え? 美人? ま、まさか!? 俺は急いでリビングのドアを開けて唖然とした。


「おー、一馬!帰ったか」


「一馬くん、おかえり」


何故か俺の親父と奈央が一緒に食卓を囲んでいる。


「兄貴、早く荷物片してこいよ! めしだぞ!」


は? 弟の莉央まで普通に飯を食っている。なんだ! この画は!? とりあえず急いで荷物を自室に片付けて食卓につく。


「急にごめんね。怪我の具合どうかと思ってお見舞いに来たんだけど…」


「一馬、お前水臭いじゃねーか。こんな可愛らしい彼女がいたなんて」


「いや、その…」


やべぇ。家族と彼女の話とか今まで一切したことなかったのに、こんなに恥ずかしいものとは…! 奈央を見ると申し訳なさそうに俺を見ていた。そうか、奈央の方が気まずい思いをしているに違いない。


「その、今付き合ってる三崎奈央さん。…真面目に付き合ってるから」


そうゆう俺を見て、母さんと親父が顔を見合わせホッとした表情を見せる。莉央に至ってはニヤニヤと俺を観察する。


「三崎さん、ふつつかな息子ですがどうぞこれからもよろしくお願いします」


母さんと親父が奈央に頭を下げる。何かセリフ的に違う気がするけど、認めてもらえたってことだよな。


「あ、あの私、息子さんよりひとまわりも歳上で、特技も趣味も特になくて…えっと、でも私も真剣に一馬くんとお付き合いさせていただいてます! 大切にします!」


がばっ! と勢いよく頭を下げる奈央を見て、これ完全に『娘さん下さい』のくだりだな…俺一応男なんだけど。


「そんな改まらないで下さい。それに歳が離れてるからって三崎さんだけが頑張る必要はありませんから。どうぞ一馬のこと頼ってやって下さい」


「は、はい! あ…りがとうございます…」


「あー! 父さんが兄貴の彼女泣かしたー!!」


「え? あ、す、すまん。」


動揺する親父を横目に母さんはなんだか嬉しそうに微笑んでいる。俺は奈央にハンドタオルを差し出す。


「すいません。こんなに温かく接してもらえるなんて思ってなくて…。やっぱり一馬くんの家族なんだなって実感しました」


奈央が俺のことをそんな風に思ってくれていたなんて、改めて聞くと何だか少し恥ずかしかった。


「今日は夕飯までご馳走になってしまって…、ありがとうございました」


「ぜひまた遊びに来てね」


家族総出で奈央を見送る。


「俺、駅まで送ってくるわ」


「大丈夫だよ。一馬くん怪我もまだ良くなってないし。」


「三崎さん、何かあってはいけないから番犬だと思って連れてって下さい」


「おい、親父! 誰が犬だ!」


俺はスニーカーを履くと奈央の手をとり駅に向かった。


「ふふふ、大きいワンちゃんだね」


駅の改札で電車の時間を待っていると、奈央は俺の髪をワシャワシャしながらそう言った。完全に主従関係が成り立つそのスタンスは嫌いではない。


「俺、結構な忠犬だからね」


「大事に可愛がります」


そんな冗談を言い合いながら電車が来るまでの時間を過ごす。すると奈央が珍しく自分から仕事の話をし出した。


「この前チラッと話したんだけど、私9月から本社に異動になることが決まって、また本の出版の仕事が出来るようになるの」


そう話す奈央はどこかしら清々しい表情をしていた。そういえば、前に仕事のこと話したとき前の会社で編集の仕事をしていたと聞いたことがあった。きっとまたそうゆう仕事が出来ることがうれしいんだなと思う。


「頑張って!」


「うん、ありがとう。ただ、本社に異動になると少し忙しくなりそうで、だから8月の終わり一馬くんのリハビリが始まるくらいに今度は二人っきりで花火に行かない?」


奈央が忙しくなると多分会える時間も減ってしまうけど、こうやっていつも俺のことを考えてくれている奈央に、俺も出来る限り応援したいと心から思う。


「もちろん、それ以外でも会いたくなったらいつでも連絡して。俺が奈央のとこに行くから。忠犬なんで」

橘家

父、慧史けいし55歳。AB型。猪突猛進。

母、小百合さゆり48歳。O型。穏やかだが芯がしっかりしている。

弟、莉央りお高校1年生。A型。178cm。兄に憧れて小さい頃から野球をしている。彼女あり。

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