06話 今やるべきこと
「一馬!何やってんの?大学遅刻するわよ!」
「か、母さん、こればっかりは…。」
肋骨骨折は思いのほか俺の生活に支障をきたしていた。とにかく寝たら起き上がるときの激痛ときたら半端ない。それから咳、くしゃみは致命的。前屈みはまず出来ないので物を落としたら最後なのだ。サポーターをしているもののやはり骨折は骨折、そんなに甘くはなかった。
「橘、おはようさん。怪我の具合はどうなん?」
「葉山、お前も怪我には気をつけた方がいいぞ。」
「なんか、やばそうやな。」
2人でロッカールームに続く廊下を歩く。怪我はしているが、完全に部活から離れるという選択肢は俺にはなかった。しかし、この骨折では動作を伴う練習は難しい…とゆうわけで俺は真田と日向の投球を第三者的立場から見ることにした。
「あ、あの!一馬くん、これこの前の試合の投球スコア。」
「あぁ、ありがとう蒼井。」
「…この前は本当にごめんなさい。三崎さんにも、一馬くんにも失礼なこと言った。」
蒼井があんなにムキになるところは3年間一緒にいたが、正直初めて見た。でもきっとそれは俺やチームをマネージャーとして支えてきてくれた蒼井だから言えることだった。
「いや、蒼井はマネージャーとして色々考えてくれて言ったことだし。三崎さんもそれはわかってると思うよ。」
「…いつまでたっても私はマネージャーなんだね。」
「え?」
「ううん、なんでも!じゃ、また何かあったら言ってね。」
そう言って蒼井はマネージャー業務に戻った。俺もスコアを見ながらブルペンで投球練習をしている2人の元へと急ぐ。
「ナイスボール!」
吉村の声が響く。真田の球を受けているのは2年の吉村だ。リードセンスも抜群で次期正捕手とも言われている。
「日向ボール低めに集めろ!」
1年日向の球を受けているのが、4年の戸塚先輩だ。怪我で一軍離脱を余儀なくされたが、このチームのことを一番理解しているのはこの人の右に出る人はいない。
「橘先輩!お疲れっす!どうっすか、怪我?」
吉村がひと段落ついたところで声をかけてくる。センスあるのに気取らない雰囲気がこいついいところだと常々思う。
「悪いな、俺の怪我のせいで。秋大は…お前に任せる。」
「はいっ!喜んで!」
ミットを叩くと吉村はニカっと笑った。正直この秋大で結果が残せなければ、プロの道も難しくなるのは当然だった。プロと聞いて野球しかやってこなかった自分の力がどこまで通用するのか試したいとゆう気持ちもあった。
真田と日向の投球練習を見ながら、何も見えないこれからのことを考えると気分が沈んでいくのがわかった。
「たーちーばーなー、何へこんでんだべ。」
「武内か。別にへこんでなんかないけど?」
部活が終わり駅までの道を歩いていると後ろから武内に声をかけられた。
「そーかー?吉村にポジション取られてテンション低いんじゃないの?」
「いや、あいつは正捕手としての実力をもってるよ。」
「…ふーん。ま、お前がそうゆうならそうなのかもだけど、お前無理するなよ。怪我の時くらい部活休んで安静にしとけ。」
武内が真面目な顔で俺を見た。いつもと違う武内のテンションに俺は何もかも見透かされているのでは?とドキッとした。
「肋骨骨折って調べたけど、1〜2週間は色々大変なんだろ?チーム離れるのは不安もあるかもしれねーけど、俺はチームの正捕手はお前以外あり得ないと思ってっから、早く治して戻ってこいよ。待ってっから。」
「…あぁ。」
「てか、まさかあの美人彼女に看病してもらってたりするのか!?」
「いや、今実家だから。」
「よし!それならエロいこともできねーし、早く治りそうだな。」
なんの『よし!』だ?けど、少しだけ今やらなきゃいけないことが見えてきた。とにかく怪我を早く治して復帰すること。これからのことを今悩んだって答えなんて出ないんだ。
肋骨骨折はかなり痛いらしいです。
咳、くしゃみは致命的らしいです。寝てる状態から起き上がるのもひどいとか…。ギプスとか出来ない箇所の骨折は大変ですね。