27話 重なる想い
「え?」
一馬くんが驚いて固まっている。
「つ、付き合うって、今度どっかに買い物に付き合うとか…。」
「そ、そうじゃなくて。」
私がそれ以上何も言わないと一馬くんが口を開く。
「はっきり言ってください。そうじゃないと俺の勘違いで終わりそうなんで。」
背の高い一馬くんを見上げると真剣な表情で私を見つめている。これは私が試されてる。
「か、彼氏彼女として。」
そう言い終わると同時に一馬くんにきつく抱きしめられた。風邪のときとは違い、雨で濡れた服が肌にまとわりついて冷たい。
「あ、あの、とりあえず中に入ろ?」
通路だし誰かに見られでもしたら恥ずかしい。部屋に入り電気をつける。そのまま一馬くんをバスルームに通した。
「シャワー使って。タオルはここにあるの使って大丈夫だから。弟のスウェットがどこかにあったと思うから持ってくるね。」
早口で説明する。
「あ、ありがとうございます。でも三崎さん先に…。」
「私は着替えもあるし、一馬くんの着てるものを先に乾燥機にかけないと。」
「じゃ、出来るだけ早くします。」
どうしよう!うちに一馬くんが!しかもシャワー浴びてる!…じゃなくて早く太一のスウェット、確かこの前来たときに置いてったやつが…あった!!
中の様子を伺いつつスウェットを置き一馬くんに声をかけると、シャワーを止める音がバスルームに響く。すりガラス一枚を隔てているがぼんやりと映るシルエットに目のやり場を失う。
「ちょっと小さいかもだけど、着替え置いておくね!」
「ありがとうございます。」
急いでバスルームの扉を閉め深呼吸をする。寝室に入るとタオルで適当に拭いた。問題はここから、何を着たら正解か!?
1、普段着
2、部屋着
3、パジャマ
いや、3はまずない。普段着?部屋着?ここは一つググるしかない。『濡れた服 着替えの正解は?』検索!…ん?『濡れた服!着替えないままでいるリスク!』なんか違う!!
じゃ、ちょっとワードを変えて…『濡れた服 着替え 彼氏』検索。…『雨の日デートのエッチな展開!』
「!!!?」
思わずスマホをベッドに投げ捨てる。スマホの力を借りるのはやめよう…。正解がわからないから部屋着でいいかな。サラリとしたネイビーの生地で、首元がV字のゆったりめトップスは最近のお気に入り。白のサテン生地のパイピングはネイビーと相性バッチリだし。
バスルームの扉が開く音が聞こえ、急いで新しい下着と部屋着を持ってリビングへ行く。
「シャワーありがとうございました。服ピッタリでした。三崎さんもどうぞ。」
「じゃ、ソファとか冷蔵庫とか自由に使って。あとテレビとかもつけて大丈夫だから。」
太一のスウェットは意外としっくりきている。私はそそくさとバスルームに向かった。一馬くんのスウェット姿は二度目だが自分の部屋で、というシュチュエーションがやばい。すぐにシャワーを浴びて部屋着に着替える。
ドライヤーで髪を乾かし、リビングへ行くと一馬くんがお昼のワイドショーを見ているところだった。
「飲み物はよかった?」
声をかけると一馬くんが振り返り、私の部屋着姿に目を見張った。
「や、やっぱり服おかしかった?」
「いや、何か普段見れない無防備な感じが可愛すぎて…。」
「!!!き、着替えてくる!」
一馬くんの横を通って寝室のドアに手をかける。
「ま、待って。」
後ろから一馬くんが寝室のドアを右手で押さえた。何だこの状況!これはいわゆる壁ドン、背中からヴァージョン!!
「そのままで大丈夫です。」
私はドアから手を離すと一馬くんの腕の中で振り返る。一馬くんとの距離、たった片腕分。髪が濡れているせいで、メガネに前髪がかかっている。
「…一馬くん。」
一馬くんの左手が私の頬を撫で、耳を掠めると、後ろ首に触れる。親指が私の唇をなぞる。愛おしそうに優しく引き寄せると唇が重なった。ちゅっ、と軽く触れるキスからだんだんと深いものになる。
「…はぁ。か、ずまく…ん。」
息もつかないうちに次から次へと唇が重なる。一馬くんの右手が腰へと回り、服の下の素肌に触れた。
「…ん。」
ヴーー、ヴーー、ヴーー、そのとき私のスマホが寝室から着信を知らせる。一度切れるものの、またスマホが鳴ると名残惜しそうにちゅっ、と一度軽いキスをして一馬くんが唇を離した。
「…電話、出てください。」
「う、うん。」
スマホを取り上げ画面を見ると知らない番号だった。通話をスライドすると電話口の向こうから可愛らしい女性の声で、本社出版部『町田唯』と名乗る。今後の打ち合わせについての連絡で、予定を確認して後日折り返すことになった。
電話を切りリビングに戻ると、ソファに座る一馬くんが振り返って私に右手を差し出す。私は思わずその手を取った。
奈央と一馬がついに付き合うことになりました(^^)
おめでとう〜〜。