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きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
始まりの雨
22/51

22話 柚

お見舞いに行って数日後、一馬くんから体調もよくなり大学に行きだしたと連絡があった。あれから毎日ちょこちょこではあるが、連絡を取り合うことが増えた。


「すみません、この本はどこにありますか?」


小学1、2年生くらいのポニーテールの女の子が、一枚の紙を差し出した。そこには今女の子に人気のシリーズ本の題名が書いてあった。


「はい、こちらの本ですね。ご案内します。」


そう言って女の子を児童書コーナーに連れて行った。確かこの辺に…あった!本の表紙には可愛い女の子2人のイラストが描かれていた。ちょうど新刊が出たところだったので平積みの山から一冊棚取り、女の子に手渡した。


「こちらの本になります。」


女の子のキラキラとした瞳が本の表紙に釘付けになっている。本が好きなんだなぁと素直に思えるほどに。


「ありがとうございました。」


とってもしっかりした印象のその女の子はお礼を言うと、少し歳の離れたお兄さんらしき男性のところに駆け寄った。


「かーくん、かーくん、あったよ!これ。」


女の子と話す男性をよく見ると…ん?


「一馬くん!」


BGMの流れる静かな店内には少し大きめの声に一馬くんと女の子が私の方を振り返る。


「えーと、三崎さんこんにちは。」


少し恥ずかしそうにする一馬くんを見て女の子は何かを察したのか、


「この人が かーくんの かのじょ?」


『彼女』という言葉に一瞬動揺してしまう。


「はじめまして、かーくんのいとこの葛木かつらぎゆずです。いつもかーくんがおせわになってます。」


丁寧に自己紹介すると礼儀正しく深々とお辞儀までしている。なんと出来る小学生!


「あ、えっと、私は三崎奈央です。一馬くんの…。」


そこまで言って、彼女ではないし、小学生の子に敢えて否定する必要があるのか?…どう説明したらいいか迷っていると、一馬くんがしゃがんで柚ちゃんに耳打ちした。


「そうなんだ!」


一馬くんが何を言ったかわからないが、柚ちゃんは目を輝かせて一馬くんと私を交互に見る。何だかこっちまで恥ずかしくなってしまう。


「今日はこの子の子守頼まれてて。ちょっと三崎さんの顔見たら帰ろうと思ってたんですけど…。じゃ、柚ちゃん、三崎さんのお仕事の邪魔をしちゃいけないからそろそろ行こうか?」


柚ちゃんと一馬くんに挨拶をして仕事に戻った。思わぬタイミングで一馬くんに会えたことがすごく嬉しかった。


「へー、三崎さんはああゆう感じがタイプなの?意外。」


急に後ろから話しかけられて振り向くと、伊東さんが2番通路の棚から覗いてニヤニヤとしている。


「い、伊東さん!からかわないでくださいよ。しかも意外ってどうゆう意味ですか?」


「からかってはないよ。冷静に分析をしているだけで…。」


「だからそれ余分ですから!」


何だか伊東さんに弱味を握られたようで落ち着かなかった。色々心配はしたが、それ以降伊東さんがからかってくることはなかった。


「三崎さん、三崎さん、そういえば店長が三崎さん探してたよ。多分店長室かな?」


何だろうと思いカウンターを任せると、とりあえず店長室を覗いて見た。コンコン


「三崎です。」


「あ、三崎さんちょっといいかな?入って。」


店長の話によると先日の本社研修での成績や前の会社での勤務実績が認められて、9月期から本社勤務の話がきているということだった。


「まぁ、急な話だけど本社の席が空くことは稀だから是非とも前向きに検討してもらえるといいと思うよ。具体的な勤務は後日本社で担当から説明があるのと、伊東くんも元々そこの部署だから聞いてみるといいよ。」


店長から数枚の書類を受け取り店長室をあとにした。中途採用の私が本社勤務って…願っても無いチャンスだった。できる限り情報を集めようと帰宅準備をすませると同じ早番の伊東さんをつかまえた。


「あの!伊東さん、今日この後時間ありますか!?」


「…もしかして、俺をデートに誘ってる?」


「ち、ちがっ。」


「じゃ、行こっか。」


私が否定するのを待たずにさっさと行ってしまった。でも本社勤務のこと教えてもらうチャンスはそう多くないし、出来るだけ早い方がいい。私は意を決して伊東さんの後を追った。

柚ちゃんに一馬は何と言ったのでしょう?


そして次回、奈央と伊東さん、それぞれの過去が少しずつ見え隠れします。奈央は何故前の会社を辞めたのか?

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