表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
始まりの雨
2/51

02話 イニシャルK

その忘れ物の傘には『K』のイニシャルがあった。あの日からすでに3か月が過ぎ、世間で言う『ビビッとくる』は当てにならないと溜め息がもれる。


「すっごい溜め息ね。」


「聞こえてました?心の声。」


休憩中、スタッフルームで机にうな垂れる私に村瀬さんが声をかけてきた。村瀬さんは私の2個上で、高校1年生の息子さんと二人暮らしと聞いた。とっても明るく可愛らしいこの人に高校生の息子がいるのも驚きだが、バツイチと言うのにも随分驚かされた。


「今日確か三崎さんお誕生日だったよね。おめでとう。ちょっとメイクも違うし、もしかして仕事終わったらデートかな?」


「デートだったら良かったんですが、残念ながら幼馴染とディナーです。」


幼馴染の佐伯(さえき)康介はIT関連の会社に勤めている昔で言う『3K』だ。高学歴、高収入、高身長に加え認めたくないがいわゆるイケメンの類。幼馴染でなければ関わり合いにならない人種であると常々思っている。


仕事を終え待ち合わせの店に着く頃には、シトシトと雨が降り始めていた。6月とはいえ今日は雨のせいか少し肌寒く感じた。


「康介、お待たせ。」


私の声に気づきスマホをコートのポケットに入れるとこちらに近づいてきた。すると突然目の前に大きな薔薇の花束が差し出された。


「奈央、お誕生日おめでとう。」


ポカンと口を開けて固まる私を見て、康介はくくっと笑いをこらえている。


「奈央は期待を裏切らないわ。はい。」


私に花束を押しつけるとさっさと店内に入っていった。してやられた!康介はいつも私の『彼女扱い』に慣れてないことをいいことに反応を見て楽しんでいるのだ。


「誕生日に俺の誘いにのるってことは、相変わらず彼氏いないのか?」


「はいはい、いたら来ないよね。康介みたいにモテないので。それより今日は彼女よかったの?」


「大丈夫、大丈夫。今日は愛犬の誕生日祝いするって言ってあるから。」


「は?いつから康介の愛犬なわけ?」


「違うか、下僕(いぬ)だな。」


康介とは幼馴染で恋愛のレの字も出てこない関係だったが中学、高校のときは周りの女子にかなり羨ましがられた。最近ではお互い忙しく康介に会うのは半年振りくらいなのに、さすが幼馴染の空気は楽でいい。


コースもひと通り出た頃、ピアノの生演奏が今までのクラシックな雰囲気から『happy birthday』のメロディを奏で始めた。まさかと思い康介の顔を見るとニコニコと満面の笑みを浮かべている。


背の高いウエイターの男性が、一歩一歩キッチンから近づいてくる。その手には『happy birthday』と書かれたチョコプレートののった可愛らしいケーキが。


「こうゆうの本当に恥ずかしいんだけど!」


小声で康介に抗議するも全く聞く耳をもっていない。恥ずかしくなり少し俯いたとき


「お誕生日おめでとうございます。こちら当店よりサービスのケーキでございます。」


目の前にケーキが置かれ、お礼を言おうと顔を上げた瞬間、目に飛び込んできたのはずっと会いたいと思っていた彼だった。

奈央の誕生日に幼馴染・康介と訪れたレストラン。

運命ではないと諦めていた奈央の前に現れたのはあの日の彼。


次回、イニシャルKの正体が少しずつわかります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ