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きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
始まりの雨
19/51

19話 俺はダメってことですか?

ヴーー、ヴーー、ヴーー。


「…はい。」


「あれ?一馬くん、おはよう。今日9時から自主練あるけど…、もしかして今日は休みだった?」


「ん…。」


寝ぼけ(まなこ)で時計を見ると針は9時5分前をさしていた。がたっ!


「うわっ!寝坊した!」


バタバタと準備を始めたが、今から行ったところで9時には到底間に合わない。自主練日だけどレギュラーでやってる以上周りに示しがつかないから極力参加をしていた。


「ごめん、10時までには行くから悪いけど吉村(よしむら)に真田の(たま)受けるように伝えてくれる?」


「うん、わかったよ。伝えておくから気をつけて来てね!」


はーー、俺何やってんだろ。蒼井との通話を終えるとベッドに腰掛けて一旦気持ちを落ち着かせる。もう一度スマホを手に取るとメッセージアプリを立ち上げ、三崎さんの名前を開く。やっぱり俺のメッセージに対して既読はついていなかった。


飲み過ぎで二日酔いとか?今日は仕事休みでまだ寝てるかもしれないし…。でも、まさか…。1人この部屋で考え事を始めるとだんだんと悪い方へと思考が引っ張られてしまう。


「…はぁ、行くか。」


部活の荷物をまとめるとアパートを後にした。


「ごめん、吉村ありがとう。」


「いいっすよ。真田先輩の球なんて滅多に受けれないし、いい経験になりました!それに橘先輩は昨日も試合だったんだから、自主練日くらい休んでもいいっすよ!代役は任せてください!」


三崎さんのことを極力考えないように午後からもウェイトに没頭した。体を動かしているときだけは余計なことを考えずに済んだ。


「橘、そろそろあがるぞ。そういえば蒼井が昨日のスコア持ってきてくれるって言ってた。多分いつものカフェにいると思うから行くぞ。」


「あぁ、わかった。」


着替えて荷物をまとめると真田とカフェに向かった。


「今日どうした?いつも以上に集中してたみたいだけど。奈央姉と上手くいってるってこと?」


くそっ!今その名前は聞きたくなかった。俺はとっさに真田を睨んだが、しかしそれは完全な八つ当たりだと反省した。


「はぁ、その逆だっつーの。昨日からメッセージが既読にならなくて。」


「え?昨日からって、昨日はあの幼馴染に車で送ってもらってるよな。それって、まさか送りオオカミとかそうゆう…。」


「あ、来た来た!はい、これ昨日のスコアね。」


蒼井がスコアをコピーして用意して渡してくれた。しかし俺たちの雰囲気を感じとったのか、心配そうな顔つきになる。


「…何かあったの?」


「おい、橘が変な話するからだろ。毎回蒼井に心配かけんなよ。」


「あぁ、いや、なんかごめん。」


俺が謝ったことで察しのいい蒼井が話をふってきた。


「もしかして三崎さんのこと?」


「まぁ…なんか昨日からメッセージが既読にならなくて。昨日の今日だし、色々心配で。」


蒼井が神妙な顔つきになるが、俺を不安がらせないためか努めて明るく話をしてくれた。


「昨日結構酔ってたみたいだから二日酔いで寝てるとか、こんなに連絡が取れないのはもしかしたら体調崩してるとかあるかもよ。三崎さん一人暮らしって言ってたよね?心配だったらもう一度連絡してみるといいと思う。」


「体調不良か…。もしかしたらそうかもしれないよな。蒼井に言われたらそんな気がしてきた。後でもう一回連絡してみるわ。ありがとう。」


蒼井も真田も俺の様子を見て少し安心したようで、そのあとカフェで昨日のスコアを見ながらミーティングをした。


ミーティングもひと段落すると日も傾きかけてきた。カバンからスマホを出し確認すると、三崎さんから1時間前にメッセージが届いていた。


「何ニヤついてんだ?」


真田に突っ込まれる。待ち焦がれた名前に顔が緩んだに違いない。小さく深呼吸をすると顔を引き締めスマホのメッセージを開き内容を確認する。当たり障りのない返信にいてもたってもいられず、三崎さんの携帯を呼び出していた。トゥルル…


「ごめん、先行くわ。」


カバンを肩に担ぐと急ぎ足でカフェを出た。5回目の呼び出し音で三崎さんが電話に出た。彼女の声は少し鼻声でいつもと様子が違う気がした。


「それがちょっと熱出ちゃって。今は落ち着いたからもう大丈夫なんだけど。」


三崎さんが一人暮らしだったことを思い出し、咄嗟に見舞いを提案した。


「本当にもう大丈夫だよ。一馬くんに熱うつしちゃったら大変だから。」


いつものように俺を気づかう様子に少しホッとしたと同時に、俺が彼氏だったら、もっと年齢が近かったら、少しは甘えてくれたりしたのか?と少し寂しさを感じた。


すると電話口でインターホンが鳴る音が聞こえてきた。宅配だろうか、お見舞いの先客かも…


「シャケおにぎり買ってきたぞ!」


俺の耳に届いたのはまぎれもなく康介さんの声だった。


「康介さんはよくて、俺はダメってことですか?」


三崎さんが何か言っているのもほとんど耳に入ってこない。俺だってこんな子どもっぽいことを言いたかったわけじゃない。でも咄嗟に口をすべり出た言葉がこれだった。今、これ以上話をしたら思ってもないことまで言ってしまいそうだった。


「…わかりました。お大事にしてください。」


俺は一方的に会話を終了させ通話を切った。大学の校門を出るとポツポツと雨が降り始めた。

ここでside一馬も一旦終了となり、次回から本編再スタートとなります。


健気に一馬を勇気づける蒼井を今回も律は見守っていました。きっと電話をかけながら足早にカフェを出て行く一馬を蒼井は切ない気持ちで見送ったに違いないです。


一方通行の3人の恋模様も徐々に変化していくはず。

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