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きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
始まりの雨
16/51

16話 課題とラスボス

今日は三崎さんと雪兄のレストランに行く約束をした日だった。大学の講義室では窓に当たる雨の音と教授の抑揚のない語りとが相まって、俺を眠りの世界へと(いざな)う。初めは抵抗をしていたものの途中からその気力さえも奪っていった。うつらうつらと現実と夢を行き来し始めた。


「一馬くん、一馬くんってば!」


小声で誰かが必死に俺の名前を呼んでいる。はっ!と気がつくと教壇で話をしていたはずの教授が、俺の席の近くの窓にもたれかかりながら講義を進めていた。


「とゆうわけで、ここまでが試験範囲となるので復習をしっかりすることと、来週までに各自レポートを仕上げてくるように。あと橘は今から部屋に来るように。」


うわー、民法の成瀬は容赦なく課題出すもんなー。ただでさえもうすぐ前期テストで課題の山なのに、更に課題なんてやってるヒマない、マジで。


「一馬くん、どうだった?」


先に講義を終え学内のカフェで待っていた蒼井が聞いた。隣には全く興味なさそうな真田もいる。


「あー、まぁー、二徹(にてつ)くらいしたら出来るくらいのやつかな?」


二徹の3文字を聞いた蒼井が悲壮な顔つきになる。


「ほんっと、ごめん!私がもうちょっと早く気がついてれば!」


「違うよ、蒼井のせいじゃないからそんなに謝らないで。俺が居眠りしてただけだから。」


「そー、そー、自業自得。」


「おい、真田(さなだ)!」


「そ、それにしても一馬くんが居眠りなんて初めてなんじゃない?真田くんは日常茶飯事だけど。もしかして、何かあったの?」


蒼井が心配そうな表情をしてこちらを覗き込んだ。蒼井の意見には少し興味が湧いたのか、真田もこちらを気にしていた。


「いやー、それが…。」


話そうかどうか迷ったものの、他に相談できる友だちもいなかったから蒼井と真田に聞いてもらうことにした。


「で、その一目惚れをした本屋の女のことを講義中にうだうだ考えてて居眠りしてたってことか?」


「色々突っ込みたいけど、まぁ、簡単に言えばな。て、やばい大学生にもなってこんな話すると思わなかった!」


「橘、よく聞けよ。世の中、男はほぼ一目惚れから始まるって何かで読んだ。恥ずかしがることは何もない。」


「ぷっ、あははは。いつも大人っぽい一馬くんが、何か可愛い!」


「おい、蒼井まで茶化すなよ。まぁ、それだけじゃなくて…、その今日会う約束してて、なんだか昨日あんまり寝られなかったんだって。」


恥ずかしさのあまりテーブルに突っ伏した。


「はーん、だから今日はいつもよりちゃんとした服着て、いい時計までしてんだな。納得、納得。」


図星すぎて更に顔があげられなくなった。大学生にもなって、何でこんな中学生の初恋みたいな気持ちにならなきゃいけないんだ。この時ばかりは真田の経験値を心から羨ましく思った。


「しょうがないだろ、しょっぱなからラスボスみたいなのがライバルだし。」


「は?」


この前のレストランにいた『幼馴染』は鈍感な俺でもわかるほど、明らかに三崎さんに好意を寄せている風だった。それに気がつかない三崎さんはもっと手強いってことなのか?それとも彼女に気がつかれないように上手く立ち回ってるのか?でも何のために…?とにかく俺があの幼馴染のスペックを手に入れられる訳はないんだから、俺ができる精一杯を三崎さんにぶつけていくしかない。


「こんばんは。お待たせしました。…わっと。」


三崎さんが体勢を崩したところを咄嗟に彼女の身体を支える。彼女の華奢な腕を引いて体勢を立て直した。俺の腕の中にいる彼女は書店で見るイメージとは違い、大人っぽく綺麗で儚い花のような雰囲気をまとっている。このままこの腕の中に閉じ込めてしまいたい衝動をどうにか抑えると店内へと足を踏み入れた。


初めて知る彼女のこと、少し控えめな話し方、時折見せる花のような笑顔、涙、彼女のことを知れば知るほどどれも俺が独り占めしたい。他の誰にも譲りたくないと思ってしまった。

恒例、一馬目線でした。


どうしても奈央と康介のことが気になってしまう一馬と言う設定です。しかし、いざ奈央に会ってしまうとそんなこと考えられないくらい奈央に惹かれている自分に気がつきます。


しかし、一馬もまだまだ大学生。康介のようなスペックの高い男が好きな女性の近くに、しかも幼馴染とゆう特別枠で存在していることに焦りと不安が募っていきます。

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