14話 お姫さま
「奈央、奈央。」
あれ?もう朝?今何時だろう…仕事行かなきゃいけないのに。それにいつの間にベッドに寝たっけ?二日酔いのせいか重い頭を持ち上げると、見たことのない部屋だった。どこ!?
キッチンの方から足音がすると、康介が水を持ってきてくれるところだった。
「大丈夫か?起きられる?」
「こ、康介!?これは一体!…いたたっ。」
「はい、水。昨日結構酔ってて、車に乗るなり寝たから家まで送ってやろうと思ったんだけど、奈央ん家引越してから行ってなかっただろ。お前に説明させようとしたんだけど、全然わかんなくてとりあえず家に連れてきたわけ。」
「そうなんだ。あ、ありがとう。」
昨日のことを思い出そうとしたものの、車に乗ってからのことが全く思い出せない。
「一応早めに起こしたつもりだけど、仕事間に合うか?ギリだったら車で送ってくから。」
すでにスーツに着替え、出勤準備を済ませた康介が軽めの朝食を運んできてくれた。至れり尽くせりで康介の彼女になる子たちはこんな風にいつもお姫さま扱いなんだなぁと改めて康介のできる男レベルに脱帽する。
「ん?そんなに見つめて俺に惚れた?」
「そんなわけないじゃん!朝から冗談やめて。」
「それは残念。昨日の甘えた感じの奈央にはやられたなー。思わず抱こうか迷ったくらい。」
「は!?そんなこと、た、多分してないし、適当なこと言わないでよね!」
すると康介が急に顔を近づけてきた。な、何?なんなの!本当にそうゆうつもりなの?康介が私の後頭部に手を添えると、キスの距離を連想させた。私はどうしていいかわからず目を閉じ固まっていると、おでことおでこを合わせる形になった。
「やっぱり…結構熱あるな。」
「熱?ま、紛らわしいことしないでよ!」
「あれ?俺にキスして欲しかった?」
「そんなわけないし!」
「俺は奈央となら何してもいいって思ってるよ。」
康介とのこうゆう会話は慣れっこになっていて、真面目に取り合うだけ時間の無駄だと最近になってきづいた。
「今日仕事は休んだ方がいいな。俺ん家にいてもいいし、送っていってもいいし。どうする?」
「もちろん家に帰ります!」
彼女でもないのにこれ以上康介に甘えられるわけないし。ましてや彼女来て修羅場とか私絶対対応出来ないから!
さっと朝食を済ますと康介の車で家まで送ってもらった。
「仕事終わりに一回顔出すから、ゆっくり休めよ。」
「いいよ、わざわざ来なくて!」
「だーめ、俺が心配なの。また会社出るとき連絡いれるから。」
どこまでも過保護なのは昔から変わらない。康介を見送って家に入ると熱のせいか、どっと疲れが押し寄せてきた。とりあえず店に欠勤連絡をして部屋着に着替えるとベッド潜り込んだ。
何時間経っただろうか、気づくと窓の外の空には夕日が傾き始めていた。ひどく汗をかいていたのでシャワーを浴びた。熱を測ると37.5℃で朝よりだいぶましになっていた。
昨日から放置していたスマホには何件かメッセージが届いていた。
『もうすぐ帰れそうだから食べたい物とかあったら考えといて。』
康介のメッセージに『シャケおにぎり』と返信する。テレビの電源を入れ、一通りニュースに目を通した。他のメッセージを一つずつ見ていくと、一馬くんからも昨日の夜メッセージがきていた。
『酔ってたみたいだけど、無事帰れましたか?』
『ちゃんと帰りました。昨日は楽しかったです。ありがとう。』
一馬くんにメッセージを送ると、しばらくして着信があった。
「もしもし。一馬くん?」
「メッセージ全然既読にならないから心配してたんですよ。って、三崎さん何か鼻声じゃないですか?」
「それがちょっと熱出ちゃって。今は落ち着いたからもう大丈夫なんだけど。」
「俺、今から見舞い行ってもいいですか?」
「本当にもう大丈夫だよ。一馬くんに熱うつしちゃったら大変だし。」
こんな部屋着にボサボサ頭を見せられるわけない!部屋だって掃除はしてるけど人が来るってなったらもっと念入りにしておかないと気が済まないし。
ピンポーン。玄関のチャイムが鳴り鍵を開けると康介が入ってきた。
「シャケおにぎり買ってきたぞ。」
「…康介さんいるんですか?」
「あ、あの私が熱出したの心配して仕事の帰りにちょっと寄ってくれて。」
康介は会話から察したようで手を合わせて頭を下げている。
「康介さんはよくて、俺はダメってことですか?」
「そうゆうわけじゃないんだけど。」
「わかりました。…お大事にしてください。」
そうゆうなり電話が切れてしまった。
大人ぶっていた一馬もここまで康介に一歩も二歩も先を歩かれ、なおかつ奈央に越えられない幼馴染の壁を突きつけられた結果、自分の存在について自問自答を始めました。
三崎さんひどすぎます!三崎さんにとって一馬くんは一体何なんですか?と、蒼井が知ったら奈央に怒ってくれそうですが、それは追い追い書くかもしれませんし、書かないかもしれません( ̄◇ ̄;)