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きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
始まりの雨
10/51

10話 うさぎ

金曜日、時計を見ると18時半を過ぎた頃。私は駅から待ち合わせ場所までの道のりを歩いていた。


今日の格好変じゃないかな?いつもより少しだけ大人っぽい服装とメイクにしたけど、康介に相談しとけばよかったと後悔した。


19時の約束まではまだ15分ほど残していたにも関わらず、店に近づくとすでに橘さんの姿があった。


「こんばんは。お待たせしました!わっと。」


いつもより高めのヒールで急いだこともあり、路面の少しの段差に足を取られバランスを崩してしまった。


「大丈夫ですか?」


気づくと橘さんが正面から向き合う形で私を支えてくれていた。しがみついた彼の腕は細身ではあるもののしっかりとしていてドキドキした。


「あ、ありがとうございます。」


「じゃ、入りますか。」


少し照れた様子で頭をかきながら、先に歩くとドアを開けてくれた。康介も自然とさり気ない気遣いができるけど、板につき過ぎてもうドキドキ感はない。その点、橘さんの初々しい感じが余計に緊張させた。って何で康介と比べてるの!


「いらっしゃいませ。…て、橘くんじゃん。」


「高木さん、こんばんは。」


高木さんと呼ばれたウエイター姿のその女性は私を見るなり、


「あれ?橘くん、こんなキレイなお姉さんいたんだ!こんばんは、高木です。」


お姉さん…って、まぁ年の差10は必須だしそう見えるよね。否定するのも微妙だし、私は彼女に挨拶を返した。


「あの、色々違うんで。」


彼が少し恥ずかしそうに否定する様子を見て、やっぱり私なんかと来なきゃよかったなんて思われてるんじゃないかと思ってしまう。その様子に色々察したようですぐに高木さんに席へと案内された。


「あの、なんかすいません。姉弟みたいに勘違いされて。」


「いや、でも姉弟に見えただけでもまだマシかも。言ってなかったんですけど、私この前の誕生日で32歳になったんです。」


どんな反応をされるか怖いけど、後々言うより今行った方がお互いのため。


「え!俺、三崎さんは25、6くらいだと思ってました。」


「いやいや、それは無いです!」


間髪入れずに否定すると、彼は少しおかしそうにしていた。


「32歳は正直驚きましたが、それだけ三崎さんは綺麗だし素敵だと思います。もしかして、干支ってうさぎですか?」


「…まさか!?橘さんもうさぎ!!?」


一回り違うという衝撃的な事実に思考が停止仕掛けている。ひ、一回りって、そういえば今年従兄弟の律くんが成人式っておばちゃんが言ってたような…。


「あの、提案なんですが年上の人に敬語とか『さんづけ』ってしっくりこないんで、えっと弟みたいな感じに気軽に話してもらえると嬉しいです。」


がーーーん。ついに、弟みたいな!の線引き。改めて本人の口から言われるとかなり傷つく。


「そ、そうだね。一回りも違って敬語とか変だよね。」


もうここから立ち去りたい。一回りを強調した辺りも自虐的でいたたまれない。しかしこんなことでこの場の雰囲気を壊してはいけないと必死に笑顔を作った。


「あの!もし俺うまく伝えられてなかったらすいません。年上だから敬語やめるとか弟みたいにとか、そう言ったのは三崎さんとの距離を縮めたかったからで、そんな顔させるつもりじゃなくて…。」


やばい、私今どんな顔してるの?なんか涙出てきそう。


「…ごめんなさい。私こそこんなつもりじゃ。」


三十路過ぎると涙腺弱くなるってゆうけど、さすがにこれは無いわ。自己嫌悪と恥ずかしさでどうにかなりそう。カバンからハンカチを取り出そうとすると、橘さんが立ち上がり他の客席から私が見えないように隣に立った。


「これ。」


そう言って雨の日に貸したタオルを差し出した。


「俺、三崎さんのこと好きとかよくわからないけど、もっと知りたいって思うし、なんかふとした時に三崎さんのこと考えたりして…。」


ゴンっ!金属がぶつかる音がして慌てて顔を上げると、シェフ姿の男性が橘さんの頭にトレイの鉄槌を下していた。


「それは、好きって言ってるのと同じだろ。」


「は?え?雪兄!!」

一馬のさりげない優しさと不器用な部分とが見えるお話にしました。大概女子の涙の理由が理解できないことが多い男子ですが、それも経験だと思います。


最後に登場した雪兄こと橘雪久(たちばなゆきひさ)は一馬の叔父で38歳にしてPluieのオーナーシェフを務めている。

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