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きみと6月の雨  作者: 藤井 頼
始まりの雨
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01話 忘れ物

目があった瞬間、胸の奥がぎゅっと切なくなり彼から目が離せなくなった。周りの音が遠くに聞こえ、そこにいるのは私と彼の2人しかいないかと思うほどに。


サーーーーーーー、

ピッ、ピッ、ピッ、


ふと雨音とレジの読み取り音が耳に届いた。


「三崎さん、大丈夫?」


心配そうに覗き込んできたのは、隣でレジ打ちをしていた同僚の村瀬さんだ。『やば!私今仕事中だった!』正面には雨のせいか肩口が少し濡れた春物のコートを着た大学生くらいの男の子がレジの順番を待っていた。


「す!すみません!いらっしゃいませ。お待たせ致しました。商品をお預かりします。」


私は三崎奈央。6月でちょうど32歳になる書店員である。2年前の春、前に勤めていた会社で人間関係が原因で退社、元々本好きだったこともありこの本屋に再就職をした。独身、彼氏なし。親からはいい加減、お見合いでもして結婚を。と口うるさく言われているが、なかなか気持ちがついてこないのが現状だ。


なのに、今目の前にいるこの人を見た瞬間、世間で言う『ビビッときた』のだ。しかし見た目からして全くのストライクゾーンではなく、しかも確実に年下。下手したら犯罪かと自分の思考についていけぬままレジ作業を終えようとしていた。


先程の同僚村瀬さんはお客様の対応でフロアに出ていた。夜の書店は客足もまばらで、今このカウンターには私と彼しかいない。お会計を終え商品を彼に手渡そうとしたとき、


「あの!」


無意識に彼に話しかけていたのだ。彼は不思議そうな顔をしながら次の言葉を待っていた。『え!?私今何言おうとしてるの??』咄嗟に呼び止めたものの、頭の中真っ白な状態で次の言葉がでるはもなくフリーズ。


「あの…。」


申し訳なさそうにこちらを覗く彼に


「あ、ありがとうございました!!!」


と、自分でも驚くほど大きな声で答えると


「ありがとうございました。」


と、彼は少しハニカミながら商品を受け取り店を出て行った。ふとカウンターを見ると彼の物と思われる傘が忘れられていた。すぐにその姿を追いかけ店外に出たが彼の姿はなく、春の雨は上がり強い風が吹いていた。


あの日から毎日のように、彼の姿を探すが1週間が経ち、1か月が経っても彼は現れなかった。ついには3か月が経ち春の空気も薄れ、空を覆ったどんよりとした雲が梅雨の訪れと共に私の32歳の誕生日を知らせたのだった。

第1話お読みいただきありがとうございます。


今や30代独身なんて結構普通。32歳の奈央もその1人。そんな奈央の前に現れた年下の男の子に運命を感じてしまいました。しかし人生上手くいかないもの、これから2人の運命は交差するのか…。

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