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レックスは盾を手に入れた!

「取引? 何だ、金でもくれるのか?」


 服すら着てない人間が金銭を持っているはずがない。レックスの言葉はただの皮肉だ。しかしレイチェルが顔色を変えることはない。


「いいえ。残念ながら私は今お金の類を所持していませんわ。ですから、もしあなたたちが私を解放してくれたのなら――私があなたたちの仲間になってあげますわ!」


 レイチェルは笑みを浮かべながら続ける。


「確かあなたはハンターでしたわよね? ハンターなら仲間は多く必要なはず。なので特別にこの私が仲間に――」


「いらね」


 レックスはレイチェルを言葉を残酷なまでにバッサリと切り捨てた。


「ちょ……あなた、この私がせっかく――」


「話は終わりか? それなら早く行くぞ。今の時間なら酒場にはたくさん人がいるからな。今日はそこでたっぷり稼いでもらうぞ」


 レイチェルのことはガン無視して部屋を出ようとするレックス。しかしレイチェルはそれを引き止めようと、背を向けたレックスに声をかける。


「ちょっと! 人の話は最後まで聞くのが礼儀ではありませんの!?」


「うるせえな。最後まで聞かなくてもお前の言いたいことは分かったよ。その上で言わせてもらうが、お前を仲間にするのはごめんだ」


「どうしてですの!?」


「どうしてって……むしろ何でお前は自分が仲間にしてもらえると思ってるんだ?」


 レイチェルの不遜な物言いは、レックスにとって疑問しか浮かばないものだった。


 これが実力のあるハンターならまだ分かる。しかしレックスは、レイチェルという名前のハンターを聞いたことがない。


 つまり何の実績もない、それも初対面の者が仲間になりたいと言ってきたことになる。そんなの、レックスでなくとも断るのが当然である。


 なぜなら、ハンターとは時として命さえも賭ける危険なもの。今日会ったばかりの人間を仲間にするなど、正気の沙汰ではない。そして何より、


「ダンジョンで何の危機感も持たないで寝てるようなバカを仲間にするのは嫌だね」


「あ、あれは色々と事情がありまして……」


「大方ダンジョンのトラップに引っかかったんだろ? それであんなところでマヌケにも気絶してた。違うか?」


「うぐ……!」


 これ以上ないほどの図星である。まるで見てきたかのようなレックスの口振りに、レイチェルはぐうの音も出ない。


「そんなわけで、お前にはこれから身体で稼いでもらう。大丈夫。ある程度稼げたら、奴隷商人のいる街まで行って売り飛ばしてやるから」


「そこは普通解放してやると言うべきところではありませんの!?」


「ははは、バカだなあ。そんな勿体ないこと、俺がするわけないだろ?」


 さも当然のようなクズに相応しい発言をするレックス。最早どうしようもないのかと絶望しかけたレイチェルであったが、救いの手は意外なところから差し伸べられた。


「お兄ちゃん、この人仲間にしてあげない?」


「……おいおい、何言ってるんだシルティ?」


 レイチェルのみならず、レックスも妹の発言に目を丸くした。


「だって、お兄ちゃん最近新しい盾や――仲間がほしいって言ってたよね? この人なら丁度いいと思うんだけど……」


「なるほど! それは名案だシルティ!」


「えへへ、僕凄いでしょ? 褒めて褒めて!」


「ああ、凄いな。流石は俺の妹!」


 レックスはシルティをベタ褒めする。一連の会話で、レックスがシスコンであることがよく分かる。


「というわけだ。喜べ、お前を特別に仲間に――」


「お断りしますわ!」


 先程とは打って変わって、レイチェルは仲間になることを拒んだ。


「はあ、どうしてだよ? さっきは仲間にしてほしいって言ってただろうが」


「それはつい先程までの話ですわ! あなたたち、どうせ私を(てい)のいい使い捨ての盾にするつもりでしょう!?」


「……大切な仲間にそんなことするわけないだろ?」


 最もらしいことを言うレックスだが、悲しいことに顔は明後日の方向を向いている。


「とにかく、あなたの仲間になるのはお断りさせていただきますわ」


「へえ、それなら酒場で稼いでもらうことになるけど、いいのか?」


「そ、それは……」


 レイチェルの前には現在、二つの選択肢がある。


 ダンジョンで盾役か酒場で身体を売ってからの奴隷堕ち。どっちに転んでもまともなことにならないのは明白だ。


 そんな究極の選択を前にレイチェルは、


「――ってあげますわよ」


「何だって?」


「だから仲間になってあげると言ったのですわ!」


 レイチェルは半ばヤケクソ気味に叫んだ。彼女には最初から選択肢などあってないようなものだったのだ。


「今日からお前は俺たちの盾役(なかま)だ。よろしくな」


 レックスが手を差し伸べる。


 『盾役』と書いて『仲間』と呼ばれた気がしたレイチェルであったが、最早気にしない。考えたら負けである。


「よし。それじゃあ新しい盾役もできたことだし、祝いに酒場にでも行くか。レイチェル、お前酒は飲めるか?」


「え、ええ嗜む程度ですが。……それよりも少しいいですか?」


 部屋を出ようとするレックス。しかしそんな彼をレイチェルが呼び止めた。


「何だよ?」


「一つだけお願いしたいことがあります」


 レイチェルは先程までとは打って変わって、真剣味を帯びた声音で続ける。


「……いい加減服を着させてください」


 全裸のレイチェルは、どこか縋るように懇願するのだった。

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