勘違い帝王
昼食はファラと一緒に食べた。特に話すこともなく、お互いに無言で食べ続けた。だけど、目が合えばしっかりと笑い合った。
この絶妙な距離感こそが、フィーの性格なのかもしれない。
「ねぇ、フィー」
食べ終わった後、ファラが私の方を指差した。
「そんな服装をするフィー、私初めて見たよ」
「…嘘⁉︎」
「本当。フィーはいっつも厚着してるのに、今日は正装。フィーの分際で、派手な身なりしてるじゃない?」
「…適当に選んだ服がこれだったの」
「じゃあ、それはフィーのセンスね。大事にしなさい」
「うん!」
ファラは立ち上がって
「食器、下げてくるから待っててね」
と言い、その場を立ち去った。
ファラが居なくなって、ぽっかり空いた穴。それはまるで、外界の視線を吸い込むブラックホールのような役割を果たした。どうも周りからジロジロと見られている気がしてならなかった。単なる気のせいでは誤魔化しきれない、嫌な予感がした。
「おおや、フィーじゃないかい?」
食堂に大きな声が響き渡った。ハッとして見ると、食堂北口に三人組の男が立っていた。特に、私の目に付いたのは中心の男だった。大きな体と黒の長髪に丸い眼鏡をかけており、その目はまるで虎視眈々と鼠を狙う猫のように狡猾であり、顔は悪い方向へとひん曲がっていた。
三人組は足並みを揃えて私の前にやってくると、私の机をドンと鳴らした。
「俺のこと、覚えていないんでしょう?」
後ろの二人がニヤリと笑った。
「はい。身に覚えがありません」
「そうかい、なら教えてやるよ」
男は胸を張って堂々と言った。
「このマランバで一番の人間、それがこの俺だ!」
「名前は?」
「ゴードンだよ。以後お見知り置きを…元一位様」
元一位…なるほど察した。フィーが王座に君臨している間、この男はずっと一位になれずに苦い汁を飲まされていたのだ。そしてフィーが記憶を失ってようやく自分が一位になれた。その腹いせに私の所に来たのだろう。
「すみません、授業があるので退いてもらえますか?」
「ああん?
私の誠意ある対応も、この男には通じない模様だった。しょうもない奴め…そう思いながら私は半ば強制的にその場から立ち去ろうとした。しかし
「待てよ!」
そう言ってゴードンは私の後ろから腕を掴み、思いっきり引っ張った。華奢な私の体は男子の腕力に敵うわけもなく、振り払おうとも敵わなかった。
「何やってんの⁉︎」
ファラが大声をあげて駆けつけてくれた。見ると、食堂にいる全員が私たちに注目していた。
「離しなさいゴードン。そんなことしても何にもならないでしょう?」
「へぇ…俺に逆らうんだ?」
ゴードンは私を後ろの二人に任せて、ファラと対峙した。ファラも、ゴードンの細長い目に臆することなく闘志をむき出しにしていた。
「俺は怖いぞ?」
「だから何?私は逆らうわよ。フィーがいないからって調子に乗らないでよね。私たちとは違って、所詮は金で成り上がって来た坊やなんでしょう?
「…うるさいなぁ」
「はっきり言いなさい!」
ファラはそう言い捨てながら、勢いよくゴードンを跳ね飛ばした。そして私の腕を掴み、二人から引っ剥がした。
「逃げなさい、さぁ早く!」
ファラは私を救い出した。しかし、次の瞬間…ゴードンの力強い拳が、ファラの腹にめり込んだのを、私は…しっかりと見た。
重たい足取りで、私は地下一階講座室へと向かった。
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