西洋の王子と東洋の侍
特別授業は昼からであり、私は食堂に赴いた。男子の騒がしい声が外からでも聞こえていたが、案の定中は人でいっぱいだった。なかなか空いている席が見つからず、困りつつも懸命に私は席を探した。
「あった」
食堂の南側入り口から五十メートルほど進んだあたりに、一つだけ空席があった。私は部屋から持参した授業用の筆をそこに置き、食堂カウンターへと急いだ。食堂カウンターは大きく分けて二つ、小さく分けて十個あり、食堂の人がカウンターから生徒一人一人に食事を渡す。それでも長蛇の列ができるのだ…凄いことである。
「フィー!」
ファラだった。手を振ると、ビーフジャーキーを見せられた犬のように目をキラキラさせながらファラが走ってきた。
「どこで食べるの?」
「向こう。北口の近く」
「オッケー、一緒に食べよう!」
「うん、いいよ」
即決だった。そして、ファラは犬のように北口に走って行った。彼女は忙しいな…でも、とても楽しそうで羨ましいな…私も憧憬の眼差しでファラを見つめていた。
その時、後ろから肩をポンと叩かれた。
「誰?」
振り返ると、二人の長身男が突っ立っていた。片方は茶髪に金眼、片方は黒髪に黒眼で、その容姿は西洋の王子と東洋の侍を彷彿とさせた。
「久しぶりフィー。俺のこと覚えてる?」
「…はぁ?」
「兄さん、やっぱり覚えられてないんだね」
兄さん、と言ったのは黒髪の方、つまり、茶髪が兄で黒髪が弟、彼らは兄弟なのか…
「ごめんねフィー、兄さんはいっつもこうだから。女癖の悪さなら学校一なんだ」
「弟よ、お前の頭の固さも学校に誇れるものだろう?」
「兄さんの歯車が緩すぎるだけで、至って平常さ」
二人は私を差し置いて熱弁を交わした。どうすればいいのだろうか…二人を見ているだけでも十分楽しめるが、何しろ列に並んでいる最中なのだ。伝えたいことがあるならとっとと伝えて欲しい…
「イールとトウヤじゃない⁉︎」
そこにファラが駆けつけた。有り難い。
「おおファラ殿、これはお久しゅう」
「トウヤ、お久しゅう。イールも、久しぶり」
「久しぶりファラ。また随分と可愛くなったんじゃないか?」
「兄さん!」
「あははは…」
イールは女癖が悪くてチャラい。これが兄だと思うとそれだけで恥ずかしくなる。だから、トウヤがとても可哀想だ。
「紹介するね。こっちのふざけた奴がイールで、こっちの真面目そうなのがトウヤ。二人ともここの四回生さ。フィーの…四つ上くらいかな?」
「めっちゃ先輩じゃない⁉︎」
四つ上と聞いて私はとても驚いたが、そもそもフィーの、自分の年齢が分からない。
「まあ、色々あったらしいけど。フィーはいつまでも僕たちの憧れだよ。頑張ってね」
トウヤの優しい一言。だけど、励みにはならなかった。何故なら、トウヤの言葉はフィーに向けての言葉だったから…私に響くはずもない。でも、トウヤにはとても好感が持てた。
「よろしくお願いします」
複雑な心境になったので、とりあえず上部だけ繕って、私はお辞儀をした。
「気になったらいつでも僕の所に来な、フィー。“0306”だよ」
「兄さん!」
こっちのイールとかいう奴は、虫唾が走る程私の嫌いなタイプである。これを口に出さず、しっかりと笑顔を取り繕った上で
「よろしくお願いします」
とだけ言った。ここに来て初めてワクワクした瞬間だった。個性的で頼りになる仲間達に囲まれて、この中で学園生活を全うできると考えれば、今私はとても幸せだ。