校内探検
小鳥のさえずりと明るい日差しが部屋一杯に射し込んで、私の顔を眩しく照らした。
「ん…」
体を伸ばして、大きなあくびをしながら私は立ち上がった。周りを見ると、一瞬、ここが何処か分からなくなった。
「夢じゃ…なかったんだ」
何気ない朝の起床。その中で、私は何か大切なものを得た気がした、そして、何か大切なものを失っていく気がした。
私は…フィー。
私は…フィー?
「起きたかい?」
扉を開いたのは、シュクジンだった。
「特別授業はここの真下、地下一階講座室で行われる。昼からの授業だから、朝のうちに学校探検でも済ませておこうか?」
「…はい」
「そういうことで、じゃあ準備ができたら読んでくれ。これ、私の番号だから」
シュクジン先生は紙切れを丸めて私に投げた。それを解くと、“0524”と書かれてある。
「地上フロア、五階二十四号室が私の部屋だから、用意を済ませたら来るんだよ」
「分かりました」
「じゃあ、そういうことで〜」
パタンと扉が閉められると、じんわりと寂しさが広がった。
○
初めて着る制服。着慣れない服装に違和感を感じながら、五階二十四号室に着いた。この校舎は石造りで、比較的涼しい。反面私はかなりの軽装だから、少し肌寒い。
「お、早いじゃん」
「いいえ、これくらいは…」
「じゃあ、行こうか」
シュクジン先生は正装だった。黒い布のようなもので全身を覆っている。
「その服装は…?」
「ああ、これね。うざったらしいんだけど…先生たるもの生徒の模範。だから、これを付けなくちゃいけないんだ」
「…なるほど」
「まあ面倒くさいよ。それよりも、似合ってるじゃんか」
「…本当ですか?」
「ああ。でも、今フィーが来てるのは竜に乗る時の為の服装だね。言い換えると“正装”になる」
「…なるほど」
「まあ、服は何でもいいよ。みんな大学生だし、青春しちゃいな」
そう言って、私とシュクジン先生は顔を合わせて笑った。
「行こう。長話をしていても無駄なだけだ」
○
こうして、私たちの校内探検がスタートした。
まず学校の構造だ。前に述べた通り、学校はコロッセオのように広場を囲んだ構造になっており、地下三階、地上七階の計十階構造になっている。この中に浴場、食堂などの施設が完備されており、生活ができる。更に、生徒には自分の部屋が与えられるので、“住んでください”と言っているようなものだ。
ちなみに、私の部屋は“0281”である。
「学校が全部石造りなのは、温度管理にあるの。竜達の居住区は地下三階にあるんだけれども、そこは夏でも御構い無しに涼しいからね」
「竜は温度にうるさいんですか?」
「そうよ。あと、たまには地下三階に顔を出してやるのよ。プティが待ってるから」
「あ…」
すっかり忘れていた。
「まあ、色々あった訳だし仕方がないよ」
シュクジン先生はとても優しく、とてもカッコイイ。その自信に満ちた顔に、私は危うく惚れそうになった。危ない危ない…
私とシュクジン先生は校舎を一周して、また南側に戻ってきた。
「じゃあ、食堂は昨日連れて行ったから良いとして…浴場ね」
「はい」
「まあ、覚え方としては食堂の丁度一個下の階。ただでさえだだっ広いから、浴場や食堂などの必須施設は東側に集約されているの。だから、東側には全校生徒が集まって来る。故に、食堂や浴場もだだっ広いの」
「全校生徒を収容できるくらい、物凄い広さなんですね」
「そう言うことよ」
「じゃあ、北西南は何があるんですか?」
「南と北は主に生徒居住区。まあ、勿論南の部屋の方がアタリ、北はハズレよ」
「…ですよね」
「まあ、それくらいかな…最低限伝えることは。後は自分で開拓してみなさい」
「分かりました」
「分からないところがあったら何でも聞きなさいよ、この私に」
「はい!」
私は深々と頭を下げた。
「じゃあ、帰って午後の授業に備えます」
「よろしい」
シュクジン先生はにんまり笑って
「頑張れ!」
と、熱いエールと共に拳を突き出してくれた。
校内探検の最中、私はずっと不思議な気持ちに悩まされていた。まるでずっと、この世界に住んでいたような気がして、思い出せそうで思い出せないもどかしさに心が焦燥していた。