馬鹿みたいな結末
「素晴らしい活躍だった」
危うく気を失いかけた私、それでも何とか体を保つことができた。
「あ、ありがとうございます…」
「うむ、素直でよろしい!」
王は満面の笑みを浮かべ、そのお腹を更に前に突き出した。でも、一体何が素直なのだろうか…そう疑問に思っていた時、ファラが私の肩を叩いた。
「王の前だよ!」
ファラは言う。そして私も気づく。
「ありがとうございましたじゃなくて、ご恐縮です…みたいな感じ!」
ファラは必死な顔で私に吐き捨てた。しかし、王はさぞご満悦のようで
「良き友を持っていらっしゃるのだな」
と言った。
「まあ…そうですね」
「良いではないか。なかなか可愛いし」
王は囁くように言った。だが筒抜けである…心の中で私は呆れた。ファラも多分同じだろう。
「それよりも、一つ私の願いを聞いてくれないか?」
「あ…はぁ」
私がコクっと頷くと、王はその両手を大きく空に広げた。それだけだ…なのに、まるで空も太陽も人も竜も、みんなが王に従った。言い換えるならば、神秘的だったのだ。
「そち、ファラはと言うのだな…」
「はい…」
「よし、ファラ…私の妃にならないか?」
「え…」
ぽかん…それが私の第一印象だった。次に荒波が押し寄せ、私の心を完膚なきまでに叩き潰す…言い換えるならば驚いたのだ。
「私が…ですか?」
「そうだ。名誉なことだろう?」
「え…えええ!」
私は腰を抜かしてしまった。王は笑みを崩さず、またまたお腹を突き出した。
「嫌だと言うなら、掻っ攫ってでも連れて行くつもりだよ?まあ冗談さ…そんなことはしない。また気持ちの整理がついたら返事をくれないかな?私はいつでも待っている…あ、でも、是でも否でも、返事は返すように!」
はいともすんとも言えなかった。私は立ち尽くすので精一杯だった。王の妃なんて…これは夢ではないのか⁉︎
そう私が呻吟している間に王はすでに小さくなっていた。私は王に一言も返せないまま、その場で崩れ落ちた。
やがて、控室に引きずり運び込まれた。
「良かったね!」
ファラは対照的にとても嬉しそうである。
「王の妃なんて…凄いお金だろうね!」
お金かよ…
「うん…」
「で、どうするの?」
王の妃になれば生涯安泰玉の輿である。だけど、どうも気が乗らなかったのだ。
「…迷ってる、けれども止める」
「ええ⁉︎」
控室の全員が私を見て驚いた。中には口を開けっぱなしにしているだらしない奴もいる…そいつの名はゴードンだ。
「何でよ!」
ファラは執拗に私に訊ねた。両肩を持って私を大きく揺らし続けた。でも、それでも私の心は変わらなかった。
「教えてあげよう、ファラよ」
「…是非教えて欲しい。ズバリ…王室の一員にならない理由とは⁉︎」
私以外の全員が私を見ていた。控室の全員がそんなものだから、とても言いにくかった。だけど言わないと気が済まなかった。
「フィーが嫌がっているから!」
私は言った。馬鹿みたい…自分でもそう思ったけれど、これが一番しっくりくる答えだったのだ。私の中のフィーは、確かに王を拒絶していた。それも笑えるほどに。
「…ほんと、フィーらしい」
ファラはそう言うとすくっと立ち上がった。そして私を見下ろす。
「そんなフィーが、大好きです!」
上からファラが覆いかぶさった時、控室では特大の笑いの渦が湧き上がった。ゴードンも、イシュも、他の選手も、みんな笑っていた…なんだか微笑ましいや。ゴードンなんて、身が竦んでしまう位嫌いな奴なのに、ちゃんと笑えるんだな…
平和でよかった…でもやっぱり馬鹿らしいや!
○
一連の事件の後、発覚した事がある。
一つは、学長の不正である。
二つは、ゴードンが無実だったと言う事である。ファラに毒を盛ったのもゴンちゃんに毒を盛ったのも学長。それを摘発したのは息子であるゴードン。本当におかしな話だ…こんな結末、本当に馬鹿らしいや…
光差す空が、とても眩しかった。
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