いざ舞ろう
朝日が煌々と橙色の光を放ちながら、マランバの梺の森を照らす。私はそれをじっと見守る。いよいよ本番なのか…今になって少し緊張する。だけど、やり遂げてみせる。
朝御飯を早急に済ませて私はファラと合流した。ファラはバッサリと髪の毛を切っており、可憐さショートボブに変貌していた。そんなファラに苦渋の表情は無かった。寧ろ朝日の如く晴れやかに、この時を待ちわびていたかの様に私を迎え入れてくれた。
「行こうか」
ファラが手を差し伸べた。
「ええ」
「あの光に向かって…」
ファラの右手が私の左手首を掴む。それを右手で包んだ。とても柔らかく。
○
大観衆に揉みくちゃにされながら私とファラは手を繋いで観客席に向かった。そこにはシュクジン先生やレア先生、イールやトウヤ、みんないる。せめて本番前に顔を合わせたい、今までの感謝とか全部伝えたい、そうファラと画策したのだ。
この人混みの中であってもシュクジン先生は認識できた。余りある高身長と目に余る赤髪はまさに私たちの灯台だ。
「先生!」
私の叫びは確かに届いた。先生は大きく手を振りながら私たちを招き寄せた。波に呑まれながらも先生の元にたどり着いた時、レア先生の存在に初めて気付いた。
「二人とも頑張るんだぞ!」
「はい!」
「はい!」
一糸乱れぬ返事の後に、私たちは互いに笑い合った。するとシュクジン先生が長い指を空に向けて言った。
「国王様よ!」
その指の先には高台の上で私たちを鳥瞰する一人の恰幅良き男性がいた。
あれが国王様なのか…王の姿を見た観衆たちは口を閉じ、食い入る様に王を見ていた。
「皆の衆。よく集まってくれた!」
王が静寂の中で言い放った。
「私もこの時を非常に楽しみにしている…十六人の英傑たちの舞、是非楽しみにしている!」
王が宣言すると、民衆の大歓声が会場を包み込んだ。
「王はとっても良い人よ」
レア先生が言った。
「私たち民衆のことをまず第一に考えている素晴らしい御方なの。だから君たちの舞で満足させてあげることだね!」
私は苦笑いを浮かべた。勿論、先生にはお見通しである。
「気が乗らないの?」
「当たり前です」
「そう…なら自分の為に頑張りなさい」
先生は笑った。
「フィーならできる」
「…はい!」
○
控室は予選と同じく、広場の端のテントのような形式である。
「よぉ?」
憎めしい声が聞こえた。狡猾な鼠である。
「…何?」
「いいや、応援に来たんだ」
ニヤニヤと不敵な顔を浮かべるのはゴードン。
「とっとと立ち去って!」
その中で、ファラがゴードンに突っかかる。
「チッ」
と短い舌打ちが聞こえた後、ゴードンはその場からゆっくりと立ち去った。ファラは尚も夜の猫のような炯眼でゴードンを見ていた。
その時、外から大きな拍手が聞こえた。
「始まるわね…」
ファラと共に私は外に出た。それは、ちょうどイシュが第一演技者として空に舞い上がった瞬間であった。
イシュのバディは…体長約六メートルの翼の竜だ、だが種類は分からない。
イシュの舞は小振りで高貴な舞だった。軽やかな翼の動きと共に空中を自由自在に動き回り、観客を魅了し続けた。観客の声援とイシュの楽しげな舞が更なる高揚を誘った。
何事もなく舞は終わった。尚、決勝ではしっかりと舞に“点数”がつけられる。百点満点中、イシュは78点…これだけの舞であっても八割には及ばない。八割やそれ以上を叩き出すにはイシュ以上の舞をしろと言うのか…そんなの不可能だ。
「ねぇフィー、舞の大会記録って知ってる?」
「いいや、知らない」
「94点なの」
「…へぇ」
「あなたよ」
「…え⁉︎」
「だから、自信を持って頑張りなさい!」
私がとやかく言う前にファラは彼方へ消えてしまった。大袈裟かもしれないが、何て意地悪なんだ…命綱を無くした気分になった。重い重い鬱屈を感じた。
ぐっすり…




