怒涛の日
朝御飯はまさかのホットケーキだった。この莫大な生徒全員にホットケーキを作る為には果たしてどれ程の労力が必要なのだろう…
「大丈夫?」
私はファラの横に位置付け、ケーキをファラの口に運んだ。ファラはまだ完全には動けないのだ。
「毒の影響…酷いね」
「大丈夫よフィー、私のことについては心配しないで」
その言葉は、妙な意味を持っていた。
まいっか…
「しかしこのケーキ、うまいかぁ」
イシュは感激していたようだ。
「竜卵を使ってるらしいよ。贅沢だね」
「ほんまになぁ」
○
ファラを保健室に送り届けてから、私は職員室へ赴いた。要件は勿論一つしかない。
「シュクジン先生、外に連れて行ってくれませんか?練習したいのですが…」
「ああ、フィーの頼みとあらば勿論よ!」
シュクジン先生は燦々と笑っていた。かなり機嫌が良いようだが、私にはあまり関係がない。
「ところでフィー、舞の構成とか考えた?」
先生は私に訊ねた。
「ああ…」
私は戸惑った。しかし世の中、正直に生きていかなければならない…故に私は言った。
「まだ何も決めてません」
「うっそぉ!」
案の定である。先生は職員室であることなど御構い無しに声を荒げた。その瞬間、他の先生に睥睨されて私たちは駆け足で職員室を退散した。続きは廊下である。
「なんで決めてないの…てか、何も決めてないの⁉︎」
「はい」
私は偽りのない瞳を誇示して淡々と答えた。先生は今にも卒倒しそうだ。
「どうして……」
「開き直りました」
「それ駄目じゃん!」
次に、先生は私の両肩を掴んで目を見開いた。まるで石にされたかのように私は固まってしまった。
「明日は竜の手入れをしなくちゃいけないから、実質練習は今日までしかないんだよ!明日は練習できないの!」
その言葉に、私の体はもっと固まった。
「…嘘⁉︎」
「本当!」
私がすこぶる強い焦燥を感じたその時、先生が私の腕を強引に引っ張っては早足で歩き出した。私は廊下を引きずられた。
「さっさと舞の構成を決めて…明日に備えるわ。まだ諦めるには早い!」
先生は恐ろしい速さであった。広場のエレベーターを使って竜堂に降り、ぐっすりと安眠していたプティを起こしては外に連れ出し、固定具を付けては私に空を飛ぶよう言った。そして特訓に次ぐ特訓が私に課せられ、不条理と焦燥と危機感に駆られながら私は空を飛び続けた。無我夢中で舞い続けた。おかげで舞の構成はなんとか決定することができた。
「あとは天運に任せよう!」
私がシュクジン先生の熱血指導から解放されたのは何と午後七時頃であった。私の顔は峭刻を極め、お腹は今頃になって大きな唸りを発した。自我を取り戻したその時、私はやっと人並みの感覚を取り戻したのだ。
「さあ…ご飯とお風呂ね!」
その反面、先生は全く疲れている様子はない。なんて恐ろしいモンスターなのだろうか…
「ん、今なんか言った?」
「…もう勘弁してください」
私はようやく弱音を吐いた。先生は満面の笑みで
「お疲れ様。よく頑張った」
と、労いの言葉をかけてくれた。大半は先生に押し付けられただけの気もするが、この猛特訓の中で私は確かな自信を掴んでいた。そのことについては、先生に振り回されて良かったとは思う。しかしいかんせんやり過ぎではないかとも思う…
私は泥々の服を諸共せずに晩御飯を貪り、お風呂にドンと使った。烏の行水をすませると部屋に直行し、電気を消すと五秒で眠りについた。時計はまだ午後九時であった。
いよいよ大会が迫ってきました。
とても楽しみであります。




