マランバの二翼
マランバ市立大学、竜学部竜学科、白石こだま。またの名を…フィー。
「さぁ、こっちだ」
シュクジン先生に連れられて、私は下宿に案内された。学校の敷地内、コロッセオのように何層も積み重なった建物の二階、南側にある大きな相部屋だ。
「しばらくはここで暮らすことになるから、ちゃんと場所覚えておくんだよ。忘れるんじゃないぞ」
「はい、お心遣い感謝します」
私は、シュクジン先生に深くお礼した。
部屋は広く、十五畳くらいの部屋にベットが二つ並んでいた。本棚には沢山の本が並んでおり、南窓の近くには一つだけ机があった。
荷物は既に運ばれており、木箱のようなショーケースを開けると衣服や日用品が数多く出土した。中には私が見たこと無いような不思議なものもあった。特に、この木の笛には心惹かれるものがあった。
気まぐれに首にかけてみると、気に入ってしまった。これからは、二度と手放すことはないだろう。
窓を開けてみると、外には大きな緑が広がっていた。悠々たる山々が屹立し、浮雲には金剛力士が見えてくるくらいの迫力があった。勿論、本当に見えたら病気である。
「凄い…」
胸が踊り、外の景色に夢中になっていると、
「凄いねぇ」
と、声が聞こえた。振り返ると、一人の女性が部屋の中に入ってきた。
「やぁ、久しぶり」
金髪に青目、私よりもロシア人らしい上品な佇まい、小柄な体の中に凄絶なオーラを備えているその女性は、私にとってとても大きな存在に見えた。
「その顔は覚えてなさそうだね」
女性は苦笑いをした。多分、フィーの友達なのだろう。
「フィーの友達なの?」
「いいや、違うね」
今度はニヤリといやらしく笑った。
「フィーとは友達なんてもんじゃない。親友よ!私とフィーは“マランバの二翼”って呼ばれるほど仲が良くて、優秀なの!」
「…そうなんだ」
「うん、そうだよ」
「ごめん…覚えてない、知らないの」
「仕方がないよ。でも、記憶がなくなってもフィーはフィー、私はずっとあなたの味方だからね」
「ありがとう」
「どういたしまして!私はファラ。よろしくね」
旺盛な少女だった。フィーはこんな人と親友だったんだ…フィーって、案外勝気で明るい人だったのかな。そんなの、私はフィーじゃない。フィーじゃないから分からない。でも、フィーじゃないからこそ、私は私でいよう、こだまでいよう。
「どうしたの?」
「ああ、考え事」
「フィーが考え事なんて想像もつかないよ。でも、面白いからそれでいいよ!」
ファラは笑って、右手でグットサインを作った。私はそんなファラを見て、思わず吹き出してしまった。
「面白いのはファラのほうじゃん…」
笑いながら、自然に出た言葉だった。そんな私を見て、ファラも大いに笑ってくれた。
「今のは…フィーらしい!」
ファラは言った。




