羽ばたけ!
エレベーターの上には広大な草原があった。そして、その向こうには大きな山々が連なっている。
「さあ…フィー。君の全てを出してごらん。見事飛んでみせなさい!」
シュクジン先生が私に言った。
「はい…分かりました!」
私は…溢れる闘志を抑えながら応えた。そして…渡された固定具を抱えた。
「先生、できました!」
プティは利口で、私が固定具を付けている間、とても大人しく待ってくれていた。何回でも言ってやろう…タペヤラとは大違いである。しかしながら、それを差し置いても私の中で確かな感覚があった。
「やったね!」
「はい!」
先生はグッドサインを浮かべた。そして
「じゃあ…やってごらん!」
にんまりと笑って言った。
「はい!」
○
「行くよ…プティ」
「…グルフ」
柔らかな風がサラサラと音を立てながら涓々と草原を流れる。それが私の背中を押す…生暖かな感触がとても心地良い。そして…空を見上げると、手が届きそうなくらい近くに綿雲がある。プティとなら、あそこまで飛んでいける気がした。
「…ゴゥ!」
私が細かく鋭い掛け声をかけると、プティは勢いよく地面を蹴り出した。その身軽な体と強靭な翼を活かして、例え背中に私が乗っていようがお構い無しにプティは空へ羽ばたいた。マランバに来た日以来の飛行は、やはりとても心地が良かった。このままずっと、あの綿雲に吸い込まれようかな…
空を舞い、風を起こし…羽ばたけ!
あっという間だった。
私たちは電光石火の如く綿雲を突き抜けたのだ。
怒涛の速さで空を切り裂いたプティは、雲を出るなり翼を気高く広げた。ゆっくり、ゆっくり…ゆりかごのような揺れと共に、プティは私を乗せて雲の上を飛んだ。上空には燦然と輝く太陽があり、下には綿雲がズラリと広がっていた。地平線の向こうに見えるやや茜色の空も見えた。
「…凄い」
目を輝かせた。遠くに広がる雲海のプロミネンスが私の目にこびり付いた。
何だ、私飛べるじゃないか。
確かな自信を抱いて、私たちは再び雲海を破った。太陽の光と共に、雲の裂け目から勇ましいプティが飛び出した。
「舞える?」
「グェ!」
プティは応えた。
「…よし、じゃあ…」
その時私の脳裏に浮かんだのはファラの舞だった。ゴンちゃんは四方八方に体をを捻り、翼を大きく広げて自信に満ちた舞を見せた。私にだって…いや、私とプティなら…
「いくよ!」
私は固定具を強く握りしめた。そして
「右!」
と言うと、プティは勢いよく右へ旋回し
「左!」
と言うと、プティは同じく左へ曲がった。そう…私たちは言葉でお互いの思いを伝えることができる唯一のバディ。私にはプティしかいないのだ…
今夜一晩は、魅力的な舞を作ることに全力を注ごう。そう決意した。
○
「フィー!」
草原に戻ると、シュクジン先生が慌ただしく息を切らしていた。
「…どうしたんですか?」
「ファラが!」
先生は焦りに任せて叫んだ。
「ファラが…倒れた!」
ファラに何があったのでしょう…
とても心配であります。
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