三日前
命知らずだけど、とても信頼されている…
天才の肩書には相応しい…そう満足していた。
だが、納得はできなかった。私はファラの言葉を、自分なりに解釈して吟味して噛み砕いて理解する必要があるのだ。
だから、私は一晩中そのことについて考えた。タペヤラは私のことを信頼している。だけど私が近づくと吠える。私が吠えるとタペヤラは吠え返す。私が吠え返すとタペヤラはまた吠え返す。イタチごっこである…まるで遊んでいるようにしか思えない。
それよりも、明日であと三日…決勝は確実に迫りつつある。助けなんてない、逃げることも…多分できない。今すぐに逃げ出したいけれどやるしかない。じゃないと、色々な人を裏切ることになってしまう。勿論…フィーもその内の一人だ。
また眠れない夜になりそうだ。外を散歩しようかとも思ったが、流石に連日の疲れで私はベットから立ち上がることはできなかった。
○
「ほら起きて!」
ファラが勢いよく私の体を押した。
「んー…何?」
「もう昼前よ?」
「…んー?」
私は眠たい目を擦りながら何とか起き上がり、パジャマを着替えた。白い服に初めて身を包むと、どことなく清廉な気分になった。
勿論、起きてすぐに竜堂に赴くのだが…その前にやっておかなくてはいけないことがある。
「シュクジン先生はいらっしゃいますか?」
私は初めて職員室へ足を踏み入れた。色々な先生方が私の方を見るなり
「フィーじゃないか!」
と驚きと感動らしき声と共に、私に手を振った。しかし誰かは分からずじまいである。
「おお、フィー」
そこに、丁度シュクジン先生が帰ってきた。
「どうしたの?」
私は言う。
「あの私…プティと飛びたいのです。飛ぶことはできますか?」
職員室ということに気を遣いながら私が淡々と述べると。
「…うーん」
先生は首を傾げながら唸った。
「三日後に決勝なら、もうちょっと早く言うべきだよ。何しろ、校外での飛行は先生の許可なしじゃできないからね」
「そうなんですか…ていうか、校外での飛行なんて可能なんですか⁉︎」
「まさか…知らなかったの?」
「はい。私は“飛行できるのならさせて下さい”と許可しに来たのですが。校外で飛べるなら…不安だけど飛びたいです。出来るだけ飛ぶ感覚を身につけたいです」
「ああ…ごめんね。私からも言うべきだったね…いいよ、私が許可しよう」
先生は胸を張って言った。
「ありがとうございます!」
○
「プティ?」
私は先生に付いてもらいながらプティの竜堂を開けた。
「外に出るよ!」
私が手招きをすると、プティはスクッと立ち上がった。そして私の方へと歩み寄る。勿論怖くはなかった…何故なら、プティだから。
「こっちよ」
シュクジン先生に連れられながら、私たちは変な地下通路を通ることになった。そこは“竜堂と地上を結ぶ唯一の通路”らしく、学校と外の世界を結ぶルートの一つである。
プティはとても誠実に付いて来てくれた。そこらのタペヤラとは違う…賢い竜だ。自分が誇らしくなった。
「さて、ここだな」
薄暗くてよく見えなかったものの、先生の足元には大きな大きな床があった。これが巨大な昇降床…エレベーターだと知った時、私はたいそう感激した。
「何でこんなに大きいのですか⁉︎」
驚きを隠せぬまま私は言った。
「そりゃ、巨大な竜のためだったり、前線基地としての機能を持つためだったり」
「…前線基地⁉︎」
「そうよ。このサイズのエレベーターが何個もある。マランバ市立大学は、前線基地としての役割も担うことができるのよ」
「…何てこった」
私は感嘆を隠せなかった。薄暗い空間の中で、私の目は確かに輝いていたであろう。
「ほら」
そんな私を見下ろしながら、先生は上を指差した。
「光だ」
見上げると、白い光がパッと目に入った。それがあまりにも眩しくて、私は思わず目をすくめた。
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