仲良し三人組
午後七時。私は約束の場所にファラを連れてきた。
「お待たせ、タナ」
タナは私たちを見ると、それはそれは嬉しそうな顔をした。私も嬉しくなった。喜んでもらって何よりだ。
「…タナちゃん!」
ファラはしばらくして大きなアクションを起こした。
「タナちゃんじゃん!」
「ご無沙汰しています。ファラ先輩」
タナは相変わらずの笑顔でファラに応えた。
「申し遅れましたが…ファラ先輩の舞。とてもかっこよかったですよ!」
「へへ…そうかな?」
「そうですよ。私が今まで見た舞の中で一番破壊力がありましたから!ケツァルの巨躯があんなにも自由自在に舞えるなんて…凄いです」
「…照れるなぁ」
ファラはニヤニヤもしながら目線を落とした。蚊帳の外の私は、早くお腹を満たしたくてウズウズしていた。
○
ようやく晩御飯の列に並んだのは三十分後だった。その日のメニューは卵かけご飯に…
ん?あれはまさか⁉︎
「ファラ!」
私は旺盛に叫んだ。
「な…何⁉︎」
「あれ見て!」
私が指を差したのは生徒の持っていたお盆である。その上には、黒い茶碗の卵かけご飯と、大きな白い器が乗っていた。
その白い器の方…妙に見覚えがあった。
「わぉ⁉︎」
ファラもそれを見ると、びっくりして私の方を振り返った。何しろ私たちにとって信じられないことが起きたのだから仕方のないことだ。今度はタナだけ蚊帳の外だった。
「ど、どうしたんですか…」
「凄いことが起きた」
「…凄いこと?」
私はタナに近づくと、耳元でこう囁いた。
「らあめん」
私が言うと、ファラも
「らあめん」
と言う。
「らあめん?」
タナは苦笑交じりだったが
「らあめん、おいしい」
と私が吹き込むと
「らあめん、おいしそう…」
とタナは息を吐いた。
厨房の方を見ると、怪しげな人がいた。まるでこの世界ではない別の世界から来たかのような仕草、姿勢、服装をしており、今回は頭にハチマキを巻いていた。こうなってはもう訳が分からない。
その異様な雰囲気に心惹かれていると、私の番が回って来た。お盆に卵かけご飯とらあめんを乗せてもらう…らあめんの凄まじい湯気と香りが卵かけご飯を台無しにしてしまう…私の目にはらあめんしか映らなくなってしまった。
「あの…」
私は意を決して訊ねてみることにした。
「あなたは…何者なんですか?」
彼は何も言わなかった。
私とファラとタナ、三人で席に着いた時、私はお盆の上に一枚の紙があることに気がついた。
「これは…」
そこには聞いたことがあるような聞いたことがないような不可解な情報の羅列があった。
“大阪府堺市出身
ラーメンひとすじ三十六歳 沖野 渉
現職:宮廷料理人”
出身地…全く聞き覚えのない場所だ。それに宮廷料理人…それは凄い。やっぱりこの人、只者じゃないんだ!
「何してるの?」
ファラが横からその紙を覗いた。私はファラにも見えるように紙を傾けた。テーブルを挟んで反対側には、不思議そうにこちらを見つめるタナがいる。
「へぇ…」
ファラはコクコクと縦に頷きながら
「らあめんって…ラーメンだったんだ」
と納得したようだった。
突っ込むところそこなの⁉︎
そう私は声をあげたくなった。
「そういえば」
ファラが麺をガツガツと頬張りながらタナの方を見た。タナは笑顔を見えるも、その顔は少し強張っていた。
「タナって、何歳なの?」
ファラが高らかに言う。対するタナは苦笑しながら
「十七です」
と低い声で言った。その瞬間
「うそ⁉︎」
ファラは爆発的な喜びを顔全体で表した。
「同じ年だったんだ!」
ファラの大きな声に、先程まで虚ろだったタナの目は大きく見開かれた。
「ファラ先輩って、十七なんですか⁉︎」
「うん!」
「同い年なんですね!」
まるで伝説の鳳凰でも見た後のように二人は熱を帯びて話し始めた。
以後、私は木偶の坊のように二人の会話を馬耳東風しながら、黙々と“らあめん”…ではなく、“ラーメン”を食べ続けた。
「ファラ先輩って先輩じゃなかったんですね!」
「余計なこと言わないの!」
「ははは…いいじゃないですか!」
「はいはい、さっさと“ラーメン”食べる!」
「ちゃんと“ラーメン”って言いましたね!」
「だから何?」
「よくできました!」
「こらタメ語!」
私が食べ終わりと同時に一目散に部屋に帰ったこと、多分二人は気づいていなかっただろう…
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