強くあれ
私とファラは竜堂の端の壁沿いに腰を下ろした。
「やっぱり、特訓してたの?」
「ええ勿論」
ファラは晴れやかに答えた。
「決勝ではフィーも、ゴードンも、他のみんなも、自分さえも私の敵だから!」
「…凄いね。その決意」
「まあね。やる気だけが取り柄だからね」
「…そんなことないと思うよ。あの予選で見せた“舞”は誰が見ても素晴らしいと豪語するよ。きっと」
「そうかな…」
ファラはやけに嬉しそうだ。
「どうしたの、ニヤニヤして?」
「いやぁ…フィーに褒められるなんてね」
「意外?」
「……そうだね。とっても」
私も笑って応えることにした。
「私は…正直なところ、何でこの大会に出るんだろうって悩んでる部分もある。けど、フィーの誇りにかけても私は自分を全うするの。ファラ、私はフィーと戦わなくちゃ!」
「敵は自分、なの?」
「うーん、少し違うかな。“自分が目標”みたいな感じかな?」
「何それ、おかしいよフィー」
「そりゃ結構なことで」
翼の竜たちは私たちの会話に耳を澄ませているかの如く静寂を保っていた。静かなこの洞窟…肌に滴る冷気がより一層冷たく感じた。「ああ駄目だ!」
ファラが突然立ち上がった。
「ファラ、どうしたの?」
「こんなところにいたら風邪ひいちゃう!さっさと帰りましょう」
私はファラの台詞を聞いてにんまりとした。
「…この前、風邪は引かないからって言って早朝から冷たい霧の中でゴンちゃんと特訓して、危うく私を殺しかけたのは果たして誰だったっけ?」
ファラは刹那顰蹙した。図星だ。
「…さあそんな人いたっけな〜?」
「今私の目の前にいますけれど?」
私が言うと、途端にファラは泣きそうになって私にしがみついた。
「あれは…本当に悪いと思っているから、あまり思い出したくない…思い出させないで」
魂と涙の篭った言葉に、私は後ろめたさを感じた。
「悪かった、もう二度と言わないから」
「…ありがとうフィー、そして今のことは全部忘れてほしい。恥ずかしい!」
「分かったよ。分かったから…じゃあさっさと特訓の続きをしましょうか」
私がそう言って指を立てると、ファラは涙を拭って勢いよく立ち上がった。
「そうだねフィー。いつまでもクヨクヨしてらんないよね!」
「ええ!」
ファラは顔を変えた。眉をキリッと携えて、強い決心を抱いた顔だった。対して私はどうだろうか…焦燥だらけの不細工な顔に違いない。何しろ…まだまともに竜に乗れてすらいないのだ。
「よし…!」
私はうわべだけでも大きな息を吐き腹を据えた。そして竜堂の中、あの存在の元へと歩みを進めた。
「…さあ、行くぞ」
私の目の前にいるとぼけた竜は視線をこちらに向けながら、その立派で奇抜なトサカをチラチラと見せびらかしていた。私はそのチカチカ光るトサカに惑わされながらも、ゆっくりとゆっくりと近づくことから始めた。
「さあ…今日こそは絶対に手懐けてみせるわ…タペヤラ!」
心の中で私は声を大にした。しかし
「グワァァァア!」
タペヤラは“来るなぁぁぁあ!”とでも言わんばかりに嘆き始めた。あと少しでタペヤラに辿り着ける…そう油断した矢先であったので尚更悔しい。
「タペヤラは気まぐれだからね」
ファラは私を慰める為に言ったのだろう。しかし、どう応えて良いか分からなかった。
私は訊ねた。
「ファラ、コツとかあるの?」
「うーん。コツというか心持ちかな?私もはっきり覚えてないや」
「…そうなんだ」
心持ちか……また難しい匂いがする。
「フィーならできる、心配いらないよ!」
「…だと良いんだけど」
「何弱気になってるの!」
ファラは怒った時のようにドスドスと私の前に歩いてきて、私の顔をまじまじと見据えた。そして私の左肩を掴んだ。
「強くあれ!」
ファラの言葉には計り知れないエネルギーがあった。強くあれ…何て単純で力強いのだ。
「…イェッサー!」
私はノリと勢いに任せてそう叫んだ。
フィーとタペヤラは相性が悪いようで…
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