尊き出会い
タナとの会話はとても弾んだ。
タナは私が話すたびに愛くるしい笑顔を浮かべており、ややこしく表現すると
“笑顔じゃない時が見当たらないほど常に笑っていた”のである。
彼女はそのとびきりの笑顔が何より印象的だが、短髪ショートのざっくりとした髪型や程よく日焼けしたスレンダーかつ筋肉質な体が正に彫刻のような美しさを放っていた。身長が私と同じくらいというのも相まってな、尚更に話が合った。
「ファラ先輩の予選の舞…凄かったですね」
会話の中で、タナは感慨深く言った。
「そうだね…」
「でも、フィー先輩の方がもっと凄いってファラ先輩が言ってましたよ?」
「それは…無いね」
私は棚に負けじと笑ってみた。
「今の私は、過去の全てを忘却の彼方へ置き忘れてきたからね」
つい血圧が上がって馬鹿なことを言い走ってしまったが“今の私と過去の私は違う”と言いたいだけなのだ。
「カッコいい台詞ですね」
「突っ込むとこそこか⁉︎」
笑いながら今の台詞を“カッコいい”と…タナも大概だ。でも、彼女のそういうところがとても面白くて愛くるしいと私は思う。
尊べ。
「私も、いつかフィー先輩やファラ先輩みたいになりたいです!」
「うーん、努力次第かな?」
適当な答えである。自分自身に呆れが募る。
「まあ、私は盾の竜使いなので…舞なんて到底できませんが…」
「へぇ、盾の竜を使うんだ…凄いじゃん!」
私の声が浴場にこだました。
「全然凄くなんてありません…」
「いいや。盾の竜は選りすぐりの生徒しか扱えないって聞いてるし」
「いやぁ、そんな大したことないですよ…」
タナは何となく自分のことを下にして話している。これも、フィー…私と何か因果があってのことなのかもしれない。それとも、私があまりなも有名すぎるから畏怖しているのかもしれない。
「私のこと、どう思ってた?」
「え…」
タナの笑顔が一瞬だけ綻びを見えた。
「率直に答えてほしい…私のこと、どう思ってた?」
「…凄い人、です」
「それだけ?」
「…はい」
しばらく沈黙が続いたが、タナの口からそれ以上の言葉は出なかった。不完全燃焼の私だったが、体がそろそろ完全燃焼、いわゆる“のぼせる”状態を迎えつつあったので、我慢できずに湯を出た。
「タナ」
「…はい」
私は酔っ払ったように言った。
「晩御飯、一緒に食べない?ファラも誘うからさ」
その瞬間、タナは笑顔を取り戻し、声を震わせた。
「こんな私でよければ!」
やっぱり、へりくだってる。
○
タナとは食堂北口前に、午後七時に会うことになった。
私は余りある約二時間をどう使おうか考えたが、答えは一つだった。竜堂に行けば、きっとファラがいる…その確信があった。
今度はしっかりと上着を持参した上で私は昇降床に乗った。プティにも久し振りに会いたいし、やっぱりタペヤラにリベンジしたい。
竜堂の廊下を突き抜けた最深部、翼の竜の竜堂へと私は赴いた。扉を開くと、翼の竜は冷淡な視線を私に浴びせた。私はそのまま奥へ奥へと進み、プティを捉えた。
「久し振り」
私が呼びかけると、プティはずんぐりとこちらに首を向けた。
「ごめんね…最近来れなくて」
プティの足元には大きな魚があった。私がいなくとも、誰かがしっかりとプティの世話してくれているのだ。本当にありがたい…
私はプティをしばらく眺めた。
他の竜とは違って、プティからは怖さや脆さが全く感じられなかった。私の目の前にいるのは、学園最強の名を欲しいままにした完全無欠の竜なのだ。その佇まいは見事であった。
「こんな暗い所に閉じ込められてるんだね…君は天を舞うに相応しいのに」
「グルッフ…」
私の声に呼びかけるようにプティは鼻を鳴らした。その瞬間、私は何かを悟った。
「…分かるの、私の言葉が?」
「グルッフ…」
「…凄いね」
「グフッ」
プティは怖くなかった。私は怖くなかった。だから、笑顔がついつい綻んでしまった。
プティも多分、笑っていた。
「フィー!」
聞き覚えのある声が竜堂に響いた。私は不思議だった。まるでその声をずっと心待ちにしていたように反射的に振り返って
「ファラ!」
と叫んだ。
ファラは贅沢な笑みを浮かべながら私に手を振った。私は虹でも見たかのようにそれに吸い寄せられた。
気づけば5万文字超えてましたね。
ここまで読んでくれた皆さんに感謝です!
(多分)まだまだ続くので、良ければこれからも読み続けてください。
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