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Be Free 〜翼竜の物語〜  作者: 森 日和
空に舞い、風を起こし
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タペヤラとの運命

翼の竜堂には、何度も訪れたことがある。

以前と相変わらずギャアギャアという喧騒が竜堂内を覆い尽くしており、大小所構わずの翼の竜が混在していた。一週間後、私は空を舞う。舞わなければならない。だからこの特別授業の一環…固定具の取り扱いは是非とも今の間にマスターしたい。


シュクジン先生は固定具の取り扱いを一から綿密に私たちに教授した。固定具の形状のノウハウや、空で振り落とされない為の注意すべきポイントも先生から教わることができた。

私たちは実際に固定具を持って竜に乗ってみることになった。


執拗だが、竜に乗る為にはまず竜に近づき、手懐け、固定具を装着する必要がある。翼の竜は竜の中でも特に頭が賢いらしいから、私は心を落ち着かせることだけを考えた。深く息を吸って、そして吐いて……全身の細胞が緊張で縮こまる、このような状況で果たして竜に近づくことは叶うのだろうか…

「フィー、やってみな」

「は、はい」

いよいよ私の番であるが、私は変な心持ちだった。緊張と不安と高揚が入り混じる複雑な気持ち…逆に入り混じり過ぎて何も考えることができなかった。

だから、目の前の竜に私は目を付けた。


体長は五メートルほどで、大きな迷彩のトサカがトレードマーク。愛すべき間の抜けた面に脆弱な体。本当にこんなやつが人間を乗せて飛ぶことができるのだろうか…そんな疑問すら抱かせるその容貌は一級の芸術品である。

言い換えれば、タペヤラであった。



タペヤラと顔を見合わせた時、私の心は闘志で煮えたぎった。どうして私を見る、どのように私を見る、お前は私の何を見ている…タペヤラは一向にその目線を背けようとはしなかった。


「先生」

タペヤラと目と目を合わせながら私は先生を呼んだ。

「どうした?」

「タペヤラに近づく方法…教えてください」

どうしてもタペヤラに負けたくない…私はそんな衝動に駆られていた。その時の私は何故か子どものように負けず嫌いであり、先生も驚いた顔をしていた。無理はない。


「…タペヤラは難しいぞ?」

「分かってます」

「間の抜けた顔してるけど、本当に繊細なやつらだぞ?」

「分かってます」

「…うーむむむ」

先生は首を傾げた。

「トライするしかないかなぁ…挑戦と失敗の繰り返しの中で一握りの成功を見つけられるかもしれない」

先生は渋い顔でたわいもないことを言ったが、その言葉は見事なまでに私の心にストンと落ちた。

「…ですね。先生の言う通りです!」

そして、私は決意した。

タペヤラに乗ってると…


だが、その決意が潰えたのは言うまでもない。

今の私には、結局何かが足りないのだ。



ファラがタペヤラを巧く手懐けた時、その空気はどんなものだっただろう…

ファラがタペヤラに近づく、互いが互いを警戒して、張り詰めた嫌な空気が漂う。だがそれが、ある一点で解ける。タペヤラはファラを認め、ファラはタペヤラを手懐ける。

だが、今の私には想像できなかった。


浴場で一人、私は瞑想していた。夕方の時間帯は比較的空いており、シュクジン先生やレア先生、ファラと共に浴場で大暴れしたあの日も、ちょうどこのくらいの時間帯だった気がする…

熱いお湯に浸かり考え事をすると何故か頭が冴え渡る。今ならばタペヤラを手懐けることさえ容易い…なんて思ったりもする。お湯にに入るということは、それだけで精神統一になる。だから、私は風呂が大好きだ。


「あの…」

誰かの呼ぶ声で、私は正気を取り戻した。

「こんにちは」

その女性は気さくな挨拶を交わした。その無邪気で純粋な笑顔は宝石のように光り輝いており、彼女を見た瞬間、私はまた別の世界へと飛ばされた気分になった。

「…どなたでしょうか?」

「今年から新しく高等科に入りました。名前はタナです。宜しくお願いします…フィー先輩」

私はなんとなくその顔に見覚えがあった。見たことがあるような無いような…どこか心の奥でつっかえている。確か…この浴場でこんなことがあったような……


レア先生は容赦なかった。私はまるで仮面の殺人鬼に襲われたかのような断末魔をあげながら、レア先生の業火の炎に呑まれていった。


「何事だ⁉︎」

向こうの生徒が走って駆けつけてくれたが

「きゃあ!」

床で勢いよくすっ転んだ。


あ…この人まさか

あの時ずっこけた人だ!


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