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Be Free 〜翼竜の物語〜  作者: 森 日和
空に舞い、風を起こし
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盾の竜

翌日は朝から特別授業があった。私は波のように迫り来る眠気を気力で跳ね除けて授業に向かった。


「じゃあ今日は、固定具の使い方と…竜に乗って実際に走ったり飛んだりしてみましょうか」

「はい!」

まさか…私は思った。こんな日に限って実技演習とは我ながら不幸である。フラフラする頭を抱えながら私は皆と一緒に広場に向かった。



広場の横のエレベーターを使って、毎度の如く私たちは竜堂へと向かった。

「あの…フィーさん」

肩の辺りを叩かれたので振り向くと、ユン君がいた。しばらく見ないうちに随分と背が伸びている。

「しばらく会ってなかったし…顔色も悪いし…何かあったんですか?」

「いいや。特に」

「僕は…休むべきだと思います」

「大丈夫よ。心配無用!」

私は胸を張った。だけど実際それが空元気だったことは私しか知らない。

「…だったらいいですけれど」

ユン君は相変わらず怯えたような目つきをしていた。こんなにも私を心配してくれるとは…何だが心が痛む。


「ほら、二人とも」

後ろから私とユン君を押したのはランちゃんだった。彼女は特別授業で始めて竜堂に行った時に怯えていた子で、私が慰めてあげた特別授業の生徒である。

「ああ…ごめんね」

「ボケっとしてたら竜に噛み殺されますよ?」

「そうだね、悪かった」

「分かってくだされば良いです。フィーさんの為ならば」

ランちゃん、かつては竜堂で怯えていた子。しばらく見ないうちに目つきが変わって逞しくなっている。くりくりとした丸い目が時に可愛らしく輝き、眉をひそめた厳しい目が時に人を石にしてしまう。

素晴らしいギャップだ…

そう感じた。



エレベーターで竜堂で降りると、ジメジメとした涼しさが私たちを包み込んだ。上着を持ってくるのを忘れたので、私はその寒さに肩を縮めた。

「忘れたんですか、防寒具?」

ランちゃんが私に言った。

「うん。完全に忘れたよ」

「フィーさんでも間違えることがあるんですね」

ランちゃんの尊敬の眼差しに私はかなり動揺してしまった。

「まあ…私も人だし…」

「そうですね。フィーさんだって人なんですから…私、フィーさんの分の防寒具、持ってきましたよ?」

ランちゃんはそう言って顔を決めた。ランちゃん…君はなんて気が効くのだ⁉

︎私は感激と共にこの美少女に懐疑を抱いた。私の防寒具を何で彼女が持っているのか…なんて気が効く人なのだろうか…彼女はそもそも人なのだろうか…と、私の懐疑はどんどんエスカレートした。


先生が竜堂を開くと、お決まりのように蹂の竜の鳴き声が聞こえてきた。それとは対照的に、生徒たちの感嘆の声はもう無くなってしまったようだ…みんな慣れが早い。


「ランちゃんはどの竜に乗るの?」

私は子ども相手のように語りかけてみたが、ランちゃんのすらっと伸びる鼻筋と大人びた雰囲気の顔、大きなまんまる目を見ると“しまった”と感じた。しかし当の本人は子ども扱いなど全く気にしない様子で答えてくれた。

「私は蹂の竜です」

「…蹂の竜か、将来は竜騎士に」

「はい。竜騎士になって家庭を支えなければなりません」

ランちゃんの答えは私の中でつっかえた。よく考えると、ファラの境遇に似ている。なるほど…竜騎士になる理由の一つとして“経済的な効果”が大きな影響を及ぼしているのかもしれない。

「頑張ってね」

私は言った。ぶっきら棒で失礼な言い草だったけれど、それでも

「頑張りますね!」

と、ランちゃんは目を大きく見開いた。

魂が吸い取られそうになった。



蹂の竜がキイキイと鳴く中で、私を含む“盾の竜、翼の竜志望”は蹂の竜堂の更に奥にある盾の竜堂に進んだ。ユン君もランちゃんも居ない…そんな寂しさに耽る中、ここに来て一ヶ月くらいだが、盾の竜堂を訪れたのは初めてであるなぁ…そんな期待の気持ちもあった。


そして、盾の竜を見るのも初めてであった。


盾の竜は美しい外観が印象的であった。体色こそ褐色系で目立たないものの、骨が大きく発達したらしい三本の角は巨大かつ鋭利であり、特に頭の上にある大きな盾は異様な迷彩を携えて“威嚇”の役割を果たす。

大きさは大きなものでは十メートル、小さくても四メートルほどだ。種類によって角の数、盾の大きさなどが違う為、“一角(角が一本)、三角(角が三本)”と識別されるらしい。一角は体が一回り小さく、盾の竜の中でも機動力がある方だ。一方の三角は正に重戦車…体は大きく、何物をもなぎ倒す破壊力を持つが機動力はほぼ皆無だという。


ここまでが、シュクジン先生の説明である。

「この盾の竜と、翼の竜に乗れるのは選りすぐりの生徒だけなの。盾の竜は志望者九人、翼の竜は志望者五人…盾の竜に関しては、半分の生徒は落ちると思っておいて」

先生がそう言うと、竜堂内で生徒たちのざわめきが起きた。突然の報告に、みんなかなり動揺しているみたいだ。

「先生、何で盾の竜をそこまで制限するんですか⁉︎」

生徒の一人が先生に刃を向けた。

「簡単よ。盾の竜はとても危険…それを扱えるのは、竜の心を理解した誠者だけよ」

先生は以後の生徒たちの質問にも同じ台詞を繰り返し、一蹴した。

「じゃあ、次は翼の竜の竜堂に行きましょうか」

先生は言うと、半ば強引に私たちを引き連れて移動を始めた。何事かと思ったのだが、後ろをよく見ると先程の大きな盾の竜…三角が我々を鬼のような目線で睥睨していた。


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