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Be Free 〜翼竜の物語〜  作者: 森 日和
翼竜使いに憧れて
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勝利への舞

人々の大歓声が会場を包み込む。

人々の熱狂が会場を揺らす。

そんな中で、ファラはとうとう宙に舞った。



バサ…

観衆にも負けない力強い羽音と共に、ゴンちゃんは黒い体を煌々と輝かせた。その大きさは翼の竜の中でも一際大きく、その羽ばたきは炎の如く力強さを生み出した。勿論、観客がそれを見ないわけが無い。

「おお…」

一瞬だけ会場が静粛に包まれ、感嘆の声が各人から漏れた。私もその一人だった。美しい…今までの舞とは比べ物にならない程、ファラの舞は美しかった。


強さは美しさなり。


バサ…

ファラは舞い続けた。人と竜だけでは無い…ファラは大気や観衆すらも自らの一部に取り込み、芸術を完成させた。炎の如く力強さは時に山の如く悠々さを生み出したり、時に風の如く速さを生み出したり、林の如く静寂さをも表現していた。千差万別の感情が空に舞っていた。


私の中でしばらく時が止まっていた。

ファラ…凄い。本当に凄い。


私は食い入るようにファラの演技を目に焼き付けた。舞だけではない。観衆の歓声のタイミング、歓声の大きさ、風を切る翼の音、巨大ながら自由自在に空を舞う竜、雲一つない空、何もかもが完璧だった。

これが…舞。


私には…こんな演技ができるだろうか?いや、できるはずがない…ファラの舞を目の当たりにした私は心のどこかで萎縮してしまった。決勝で、私は彼女や更なる実力者達と対峙することになる。国王陛下も来られる大事な大会である。そして、誰もが天才“フィー”にスポットライトを当てるだろうが、それを一身に浴びるのは“私”なのだ。

私も…舞わなければならない。

でも、今の私には何かが足りない。



着地を終えたファラの顔はとても清々しいものだった。この世の憎しみを全て取り払ったかのような善なる顔がそこにはあった。そして、観衆に大きな拍手で迎えられて満面の笑顔を浮かべていた。


私はファラと対峙した。

「フィー、見てくれた?」

ファラは息を荒らして私に訊ねた。余程演技が良かったのだろう…ファラは笑顔で一杯だった。

「うん、とっても凄かったよ。力強さと繊細さを兼ね備えた素晴らしい演技だった!」

私が言うと

「ありがとう!」

と言ってファラは私に抱きついた。その後ろで、ゴンちゃんが“グルッフ”と息を鳴らした。



「ファラー!」

シュクジン先生が叫びながらこちらに走ってきた。そして両腕を大きく広げて私とファラを抱きしめた。

「最っ高だったよ!」

「ありがとうございます!」

ファラは照れ臭そうに先生の腕の中で笑った。私は…嬉しかった、多分。


全予選者の舞が終わり、ファラは文句無しの成績で決勝に駒を進めた。いよいよ…全員がライバルだ。



私たちは学校外に赴いていた。

学校外へは基本出てはいけないのが原則であるが、先生が付いているなら話は別であるという。本当かどうかも分からないが、とにかく私はファラと共にシュクジン先生、レア先生に連れられてある店へと入った。


物騒な店だった。飄々と流れるぬるま風を受けて、その店はミシミシと不気味な音を立てていた。構造は平行六面体のように歪な形をしており、所々壁には穴が開いていた。申し訳程度の簾には手書きと見える文字が書かれていた。


“らあめん”


私の記憶の片隅に、どうも引っかかるようなパワーワードであったが…思い出そうにも思い出せないことにモジモジしてしまった。


「さて、打ち上げだ!」

先生二人が高揚した声で叫んだ。そして、その歪な店に入る。

「…いらっしゃい」

店長だろう。小太りで背は私より小さく、サングラスで目を隠している。

「注文は?」

細々とした声で尋ねられると、先生二人はこぞって

「らあめん!」

「らあめん!」

と言ったので、私も

「らあめん」

と言った。ファラも

「らあめん」

と言う。

らあめん…不気味な名前ではあるものの何故かとても馴染みのある名前だった。私の中では“らあめん”に対する懐疑心は全くなく、むしろ食べたこともないのに“らあめんはとても美味しい”と確信していた。


やがて、その“らあめん”がやってきた。

豚骨ベースにチャーシューはバラ、どちらかというと見た目はこってりであり色は赤褐色。ネギにメンマに…これはキムチだろうか、とても色とりどりで美味しそうではないか…


ん?ちょっと待て…

豚骨って何だ…

バラって…お花か?

ネギはあれど…メンマ?


私は何を言っていたのだろうか…食べたこともないはずの“らあめん”なる食品を、何故私はこうも詳しく解説できるのだろうか。


「フィー、ファラ、お疲れ様!」

レア先生に言われて私は我に帰った。

「次は決勝…楽しみにしているよ!」

レア先生は満面の笑みだった。その笑みは怖くも感じた。

いよいよ一週間後、私はファラと共に決勝の舞台に立つ。今日よりも沢山の人々が、それも私の舞を目当てにやってくるだろう…駄目だ、今からでも緊張してしまう…だから、私は“らあめん”を思いっきり食べる!



「しかし、らあめんって美味いよね!」

「うん。まるでこの世界の食べ物じゃないみたいだよ!」


この世界の食べ物じゃない…⁉︎


ファラの舞を私も現地で見ていましたが。

あれは紛いもなく天才でした。



余談ですが、私…

“らあめん”は豚骨派です。

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