二人
“翼竜高いの大会”予選。私たちの学校は会場の一つになっており、見たこともないような人だかりが蠢いていた。これが国を挙げての大会か…その偉大さに私まで緊張してきた。
ファラは一足先に竜堂に赴いた。ゴンちゃんの様子が見たいらしい…大会中はファラと共に居ることはできない。少し寂しいかな…
「フィー、こっち!」
人々の喧騒が耳をつんざく中で、一際大きく張りのある声が聞こえた。シュクジン先生とレア先生、西洋の王子…イールを見つけた。
「さあ、ファラがあっちに居るから会いに行きましょう!」
「会いに行けるんですか⁉︎」
「勿論!みんなで応援するよ〜」
「はい!」
人々の間を縫うように私たちは歩き続けた。よく見ると、老若男女問わず数多の人々がここに訪れている…それが、この大会がいかに大きな大会かを物語っている。
五分ほど歩き続けると、人の波が突然止んだ。そこは竜堂に続く広場の端のエレベーター付近で、大会本部がすぐ近くにある。
「この辺が控え室。さてあいつは何処にいるだろう…?」
軽快なステップのような、鼻歌のような口調でシュクジン先生は辺りを見渡した。私も辺りを見渡す…予選だと言うのに人でごった返している向こう側の客席は、浮雲ならぬ人と雲だ。対してこちら側は出場者の緊張や竜の威厳ある佇まいが妙な雰囲気を作り出し、ここだけ世界が違うようにも思えた。
「みんな〜!」
溌剌とした聞き覚えのある声が聞こえて私はハッとした。振り返った先には赤い正装を纏うファラと、黒々しく煌めくファラのバディ、ゴンちゃんがいた。
私は一目散にファラの元に駆け寄った。そして、とても感情的…我を忘れてファラに飛び込んだ。
「ファラ、頑張ってね!」
「ええ…でも危ないわよ。あんなに無防備に走ってくるなんて…またゴンちゃんに襲われても知らないからね」
隣を見ると、ゴンちゃんと目が合った。その瞬間、私は少しばかりの悪寒に襲われた。
だが、ファラの笑顔がそれを吹き飛ばした。
「あなたは向こうから見ていて、フィー。私はこのゴンちゃんと、最高の演技をするから…最高の“舞”を完成させるから」
「舞?」
「そうよ。今年の予選のテーマは“舞”なの」
ファラがそう言うと、向こう側から地を揺らす程の大歓声が聞こえてきた。どうやら予選が始まったみたいだ。
「みんなは“舞”というテーマを表現する。その表現は多種多様だけど…舞なんて、みんなやることは一緒よね」
「…確かにね」
舞と言われれば、一つしか想像できない。トップバッターは体長八メートルほどの翼の竜使いで、案の定、空中で“舞”を始めた。
「凄い…あんなことできるんだ」
「当たり前よ。あの程度私だってできるわよ」
鼻息を荒くしてファラは言った。
「本当…?」
私は懐疑の念を込めて訊ねた。勿論それは冗談混じりなのだが
「…馬鹿にしないでよね。私の演技、しっかりと目に焼き付けなさい!」
と、思いの外ファラの心を逆撫でしてしまったようだ。しかしファラは笑っていた。
「そういえば向こうのみんなは?」
ファラは私の後ろの方を指差して言った。確かに、先程までここにいたシュクジン先生やレア先生、イールがいつの間にか姿を消していた。
「…あれ?どこ行ったんだろう」
私は辺りを見渡したが、やはりどこにもいなかった。困ったものだ…そう思う。
だが、ファラはこう呟いた。
「優しいね、あの人達」
その言葉で、私はようやく理解した。三人は、私たち二人だけの時間を見事に作り出してくれたのだ。
それに気付いた私とファラは、目を合わせてニカっと笑った。
「フィー」
「…何?」
「絶対勝つ!」
「うん、ファラなら大丈夫!」
私の左手首をファラの右手が強く握った。私は右手でファラの右手を包み込んで、その想いに応えた。
「…行ってくるね」
「うん」
六月ですね、夏ですね。
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