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Be Free 〜翼竜の物語〜  作者: 森 日和
プロローグ
2/48

プテラノドンのプティ

「………お…」

声が聞こえる。

「フィ……お…」

また、声が聞こえる。

「フィ……おきて!」

「ハッ⁉︎」


悪夢にうなされた夜のように私は飛び起きた。ふかふかのベッドに枕、白い壁紙に白いカーテン、綺麗な木目の床、綺麗に片付いた部屋。そして…見知らぬ女性。

「フィー、学校でしょう?」

女性は言う。

「…フィー?」

誰だ?

「フィー、学校…よ?」

女性は言う。

「…フィー?」

誰だ??

「フィー、ほらさっさと起きなさい」

女性は強めに言う。

「…フィーって誰ですか?」

「え、え…ええ⁉︎」

私が言うと、謎の女性はティラノサウルスでも見るかなような腰を抜かした。

「フィー、だってあなたフィーでしょう?」

「こだま…ですよ?」

「…コダマ?」

「はい。白石こだま、十八歳です」

私は的確に伝えたはずだ、なのに

「ひ、ひぃやぁぁぁあ!」

と、女性は腰を抜かしながら部屋から出て行ってしまった。


腰を抜かしたいのはこっちだ。


それよりも、一体ここは何処なのだろうか…

少なくとも、私が知らない世界であることは明白である。しかし、こういう時こそ冷静に対処しなければならない。

まずは、情報収集だと私は踏み込んだ。




「あの、何なのですかー?」

私が訊ねても物音一切しない。張り詰めた空気が漂っていた。

「事情を説明してくれないと…私だって困惑しているんです」

少し大きな声で言うと

「さっさと立ち去ってください!」

壁の向こうから、返事がきた。

「私は怪しいものじゃありません」

「分かっていますよそれくらい…ほら、さっさと何処かに行ってください!」

冷たいなぁ…と思いつつ、私は布団から抜け出した。偶然立てかけてあった鏡が目に入り、気まぐれで立ってみた。


いつも通りの私の髪、私の目、私の顔…何も異常はなかった。しかし、私の全裸が鏡に映った。それを見た瞬間、何だかとても嫌な予感がした。

「服…脱がせたんですか⁉︎」

「いいえ、元からそうでしたよ?」

「元から…?」

「ええ、元から…」

女性は困惑しつつ、続けた。

「いつも全裸で寝てるじゃない…?」

「へ⁉︎」

途端に、私の顔は熟したリンゴのように赤く腫れ上がった。

「あなた、本当に大丈夫?病院、行ってみる?」

女性は諭すように私に言った。おそらく、この女性はフィーの母親、つまりは私の母親なのだ。



「病院に行かないなら、少し遅刻になるけれど学校に行きましょう」

母は言った。この世界に来て、初日から社会の縮図である学校に赴くのは武勇溢れた行為であり、愚策である。できれば避けたいと考えた。

「気分が乗らないよ」

「いいや、行きなさい」

命令口調だった。

「…分かった」

「よろしい」

何が起きるか分からない…だから、ここは善隣外交の方針を執るべきだと考え、私は博打を打った。母はにんまりと笑って

「もう準備はできてるわ。先生にも伝えてあるから、ゆっくりと行きなさい」

と言ってくれた。何て優しくて頼りになる母なのだ…フィーさんが羨ましく感じた。

「ありがとう!」

この世界に来て初めてのありがとう…新鮮だなぁ、噛み締めた。


「ねぇ、学校までの道を教えてくれないかな?」

「…道まで忘れたの?」

母は溜息をついた。

「そんなもの覚えなくても、プティが連れて行ってくれるでしょ?」

「プティって何?」

「呆れた!」

母は怒った。

「あなた、バディの名前も忘れちゃったの!信じられない!来なさい!」

私は腕を掴まれて、強引に外に引っ張り出された。

「ほら!」

そして、母が指差した。

「あなたのバディ、プティよ!」


母が指差した先には、大きな竜が佇んでいた。

全長およそ十メートルはあるだろうか…大きな翼を持ち、立派なトサカを携えた竜。

紛いもない、プテラノドンではないか⁉︎


「ちょっとフィー?え、なんで泡吹いてるのよ⁉︎フィーーー!!」


5/29 誤字の訂正

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