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Be Free 〜翼竜の物語〜  作者: 森 日和
マランバの日々
16/48

鼠の眼光と慈愛の医療師

私はゴードンに捕まり、半ば強引にある部屋へと連れてこられた。

部屋番号は1101、1から始まるということは、ここが地下であることを表している。三人の男は私をしっかりと確保しながら、暗い暗い部屋で私をギロっと見つめた。

「俺、何歳に見える?」

大きな体に鼠のような顔を垂れ流しながら、ゴードンは私に訊ねた。

「…二十くらい?」

「二十四さ。そしてお前は十八だ…」

微かに奴の顔が見えるくらいの暗い部屋。何をされるのだろう…想像すればする程おぞましい感情が湧き上がった。私の体は、今とても震えている…私は、今とても怖い。

「何でこんな事、お前に聞いたと思う?」

「…さあ……」

恐怖のあまり、私はまともに受け答えができていなかった。しかし、そんな私を襲ったのは、更なる衝撃であった。

「お前を嫁にするためさ」

「は⁉︎」

……誰か今すぐ、この男を殺してほしい。心からそう感じた。

「ふざけないでくれる!」

「ふざけてなんかない…本気だよ。君の美貌と才能は、我らがゴードンの一家がヨダレを垂らす程欲しがっているさ。どうだい?」


答えるまでもない。

「お断りします!」

私はきっぱりと言い捨てた。


「おいおい…困ったなぁ。何がいけ好かなかったんだい?」

「全部よ、特にその高圧的な態度。あなたには誇りってものがないの⁉︎例え才能があってもね、モラルと誇りがない男はどうであろうと嫌われちゃうわよ!」

私はついカッとなって、全て吐き捨ててしまった。ゴードンは、眉をグッと動かした…嫌な予感が漂った。

「…言ってくれるねぇ」

しかし、唐突にゴードンは笑い出す。

「ははは…でもそれが無理なんだわ…だって、僕のお父さんは学長だからね!」


ゴードン、奴の高圧的な目に、私は圧倒された。学校の全権力者の息子に逆らえるわけがない。学長…こんな奴の父親が学長だなんて、まるで信じられない!


「だから、お前は俺と結婚しろ…」

「……全力で拒否するわ!」

ゴードンは執拗に質問を繰り返した。私に近づいて、私の足や手を指でなぞり、私がそれを拒むのを、奴は愉しんでいた。ケケケ…と不気味に笑っては私の体を弄んだ。でも私は逆らえない…もしも奴に逆らって学校を追われることになれば、フィーやその家族に多大な迷惑をかける。それならば…我慢するしかなかった。


そして、私の堪忍袋は間も無く爆発した。

「だったら、子供を産むだけでもいい…」

「最低!」

とうとう、私はゴードンの頬を叩きのめした。私への淫乱は発言、ファラへの横暴…許せない、この男だけは!

そうして、私が怒りに任せて追撃を喰らわせようとした間際でゴードンの手下の男二人が

私を力づくで抑えた。必死に抵抗するも男二人の腕力には敵わず、私は縄で手と足を縛られ、壁に固定された。薄暗い部屋の中で、私はとうとうこの男に屈することになるのだろうか…その男に毒されるくらいなら、いっそ今この場で私を…殺してほしい!

「へぇ…いい体じゃん?」

「……」

私は泣き出しそうで、言葉一つも反論できなかった。私は…屈してしまったのだ。



「何やってるのかしら…ゴードン君?」

その時、薄暗い部屋に一筋の光が舞い込んだ。可愛らしい花のような声が、薔薇の棘のようにゴードンを刺した。

懐中電灯を持った彼女は…レア先生だ!

「お父様がさぞ悲しむことでしょう…ほら、さっさとやめなさい。許さないわよ」

レア先生はゴードンに近づきながら言った。

「へぇ…」

ゴードンは自分よりも二回り三回り小さいレア先生を蔑視しながら

「僕は学長の息子ですよ?」

と高を括った。しかし

「だから?」

と、レア先生は一向にその攻撃を止めようとはしなかった。

「ゴードン、もう二度とフィーには近づかないで。彼女のことが好きならば、誠実に伝えればいいじゃない?」

「…お、俺は…好きじゃねぇ!ただ、ゴードンの一家の為にこいつの才能を…」

ゴードンはレア先生の圧倒的存在感からか、平静を保てずに途中で言葉に詰まった、そして決まりに

「…う、うざいんだよ!」

とレア先生を罵倒した。

「お前生意気だ…お父さんに言いつけたらきっとタダでは済まされないぞ!」

「だから何よ!?」

レア先生はその小柄な体とは裏腹に、高圧的なゴードンの更に上を行く程高圧的に言い捨てた。そんな勇気と誠意溢れる彼女の姿勢を、私はもっと見習わなくちゃいけない。

「お前はクビだよ、クビ!」

ゴードンが目を見開いて言うと、レア先生はにんまりと微笑を浮かべた。

「残念ね、私は国から派遣されている国家医療師なのよ。ムガルと派手に戦争してた時も、私は戦場に赴いて兵士や竜たちの看病をしていた。そんな経験豊富な私を、王はさぞ気に入っているのよ?つまり、私をクビにすると言うことは、王に逆らう逆賊になるってことになるわよ?」

レア先生がそこまで言い切ると、ゴードンは

「くそ、覚えてろ!」

と言って二人と共にその場を立ち去った。


私はレア先生に縄を解いてもらった。

「ありがとうございます…」

「いいのよ。ゴードンを権力で止められるのは私だけ。つまり、私はあなた達をこの体に代えても護り抜くよ」

「…ありがとうございます!」

もう一度、私は深々と頭を下げた。


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