特別授業にて(2)
私たちは“蹂”の竜堂を訪れた。
薄暗く肌寒い、ジメジメとした洞窟の中に、大きな檻が何十何百と設置されていた。そこでは“蹂”の竜が大小問わずギャアギャアと喚いており、私たちの方を見るなりヨダレを垂らしていた。とても物騒だが、この竜たちがマランバの国力の基盤となっているのだ。馬鹿にはできないし、寧ろ崇めるべきなのかもしれない。この学校がやたらと広いのも、恐らくこのだだっ広い竜堂が関係しているのだろう。
「蹂の竜よ。盾の竜と翼の竜は、もっと奥にいるけれど…特別授業では扱わないわ」
シュクジン先生は言った。そういえば、特別授業の枠組みについてまだ具体的に聞いたことがないな…そもそも、学校の授業の階級や仕組みについても、まだ詳しくは知らないな…今度ファラに聞いてみようかな。
そうしてうつつを抜かしていると
「フィー、ボケっとしてると危ないよ!」
と、シュクジン先生からの怒号が飛んでくる。
「あ…はい!」
自らの軽佻浮薄な雑念に負けじと、私はお腹の底から返事した。その声は洞窟の中にこだまのように響き渡り、蹂達はそれに反応してギャアと鳴いた。
「じゃあ、実際に先生が竜に乗ってみます。みんな、よく見ておくのよ」
先生に視線が集まる…周りの生徒は皆顔を引きつらせていた。勿論、私だってそうである。
先生は竜堂の鍵を開けて、体長四メートルほどの中型の蹂を解放した。皆が固唾を飲んで見守る中、先生は無防備に前から蹂に近づき、首元に手を当てた。そしてそのまま、蹂を手なずけてしまった。
「おお…」
生徒の一部から感嘆の声が漏れた。私も思わず拍手しそうになったが、洞窟の中なので止めた。当のシュクジン先生は蹂の頭を撫でながら
「みんな、竜はこの通り全然怖くないの。寧ろ、人間にとってとても誠実なパートナーなのよ」
と、説得力満載の言葉と笑顔を私たちに見せた。
「じゃあ、みんなもやってみましょう!」
「はい!」
生徒達もそれを見て奮起したようで、先程までの青白く緊張した面持ちが嘘のように頬を赤らめ、ワクワクした様子で実習の時を待っていた。未だに緊張がほぐれない私は、果たしてどうすべきなのだろうか。
とりあえず、見守ることにしよう。そう決心した。
私の予想とは裏腹に、生徒のみんなは次々と蹂を手なずけた。先生の言われた通りにやれば怪我することなく蹂に近づけるらしい。なんだ…簡単じゃないか。私の中の恐怖の気持ちも吹き飛んだ。
その時、後ろから声が聞こえた。
「あの…」
振り返った先にいたのは、ついこの間私の前で盛大に泡を吹いたあの生徒だった。
「ユン君、怖いの…?」
「…はい」
「大丈夫、君ならできるよ!」
「…でも、怖いんです」
「勇気を出して、言われた通りにやれば大丈夫よ!」
私は彼を慰めようと笑顔で語りかけた。だけど、実際怖いのだから仕方がない。幾ら慰めても彼自身が変わらなければ、私の言葉は馬の耳に念仏なのだ。
「私からは何もできない。君が変わるしかないよ」
私は思いの丈を伝えた。すふと
「だから…その…」
ユン君は力強く私の手を掴んだ。その時、ユン君の強い眼差しが私の目を見据えた時、私は彼の中に灯る闘志を目の当たりにした。
ユン君は力強く、その言葉を私にぶつけた。
「一緒に…やってくれませんか?」
臆病者のユン君が、少しかっこよかった。
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