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Be Free 〜翼竜の物語〜  作者: 森 日和
マランバの日々
11/48

特別授業にて(1)

翌日朝、特別授業が始まった。

私たちは学校の真ん中にある大きな広場に集まった。シュクジン先生は何やら大きくて怪しげな鍵を持っていたが、それが竜の檻の鍵であることは察しがついた。つまり今日、私たちは本当に竜と触れ合うことになるのだ。

「付いて来な、絶対にはぐれたら駄目だよ」

シュクジン先生を先頭に私たちは歩き始めた。土の広場を歩くのは何だか新鮮で、私は一歩一歩を深く味わいながら歩いた。そんな中で、ふと広場の脇に大きな溝があるのを私は見た。

「シュクジン先生、あの穴って…?」

生徒の一人が先生に訊ねると、先生はニッと笑って

「そうよ。竜堂に通じているの」

そう言った。その言葉を発端に、生徒達の面持ちがキリッと変わった。決意と緊張の入り混じった顔だった。


私が言っていた竜の檻とは、竜堂のことらしく、竜堂に通じる広場の脇の溝はとても深く、下は真っ暗である。普段、その溝はエレベーターによって封鎖されており、溝が空くことは滅多にない。ただ今回の場合、その溝の凄さを知ってもらうためにシュクジン先生がわざわざ配慮したらしい。私よりも若い子達が集まる特別授業、私はなんとも思わなかったが、生徒はその溝に夢中であった。だが、

「昔この溝に落ちて死んだ人がいるから、気をつけろよ〜」

と、先生が方笑いと共に言うと、生徒の顔は途端に青ざめてしまった。

先生は、小さい子に慣れているなぁ…


「お、エレベーターが来たよ!」

程なくして巨大なエレベーターか到着した。昇降式の床のようなものであり、その面積は私を含め生徒二十六人が全員入るほどの大きさである。その大きさに感動していると、途端にエレベーターは動き出した。

「おっと…」

昇降式床改めエレベーター。初めはグラッと大きく揺れたものの、その後はプティの背中のような安心感があった。カラカラカラという風情ある歯車の音と共に、地上の光が徐々に小さくなっていった。エレベーターが下まで降りた頃には、既に光は無くなっていた。

いわゆる真っ暗の世界。だが次の瞬間、パッと廊下の壁に沿うように橙色の灯りが光った。

「こっちよ」

私たちはその光に導かれるように再度歩き出した。すると、私たちの前に大きな扉が屹立した。それを例の“怪しい鍵”で、シュクジン先生がこじ開けた。


ガラガラガラ…

大きな地響きと共に、中からギャアギャアと数多の鳴き声が聞こえてきた。

「今日の特別授業はここで行います。初めは辛いかもしれないけれど…みんな頑張ろうね!」

辺りを見渡すと、泣きそうになっている生徒もちらほら見かけた。確かに…爬虫類の巣窟に乗り込むのは気分の良いものではない。その涙を咎めることはできない。

こんな時、フィーなら優しく声を掛けてあげるのだろうか…


「大丈夫?」

私はしくしくと泣いている女子生徒の肩を持ち、背中をさすってあげた。

「みんな付いてるから、心配いらないよ」

そうやって女子生徒を慰めていると、シュクジン先生が来てくれた。

「ランちゃん。竜は竜を怖がる人が怖いのよ。竜にだって、ちゃんと心がある…だから、人が強い心の持ち主なら竜も強くなるし、人が臆病者なら竜も弱くなる。大事なのは、竜と心を通わせることよ。人が尊く強くあり、竜が誠実である。ランちゃん、君ならきっとできるよ!」

シュクジン先生が言うと

「…そうですね。分かりました!」

ランちゃんは勢いよく顔を上げた。

「私、今とってもやる気です!」

「よろしい、それでこそ私の生徒だ!」

シュクジン先生はにんまりと笑った。



「フィー、思い出したのかい?」

竜堂に入る時、私はシュクジン先生に話しかけられた。

「何がですか?」

「フィーはとても気遣いができる良い子だった。万人から愛され、敬われた人物だった。てっきり、そんなフィーが戻って来た気がして…悪かったね、どうでもいい事だ」

その台詞には違和感があった。私とフィーは同じ。それなのに、先生は私とフィーを切り離して考えている気がした。少し残念だった。

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